連載:トライバルメディアハウスのマーケ戦略塾
「思うように売り上げが上がらない」「マーケティングが効いているのか効いていないのかわからない」理由の多くは、戦略が論理的に組み立てられていないことに起因しています。本連載では、マーケ戦略策定に潜む10の落とし穴とその解決法を解説していきます。どうすれば「筋の良い」マーケティング戦略を組み立てることができるのか?――トライバルメディアハウスのマーケ戦略塾、開講です。
前回は「筋の良いマーケティング戦略が描けない理由」の後半戦にあたる「そもそも問題」として、短期的な成果を思い求めすぎて中長期的な競争力を削いでしまう問題と、短中期における施策のバランスが重要であることについて解説しました。
今回は、書籍やセミナーで学んだ有用なフレームワークを使って戦略を策定したのに、いまいち成果につながっている実感が得られない要因とその回避法について解説します。
なぜ、戦略フレームを活用しているのに成果が出ないのか?
マーケティングの教科書には分かりやすく、使い勝手の良いフレームワークがたくさん紹介されています。それにもかかわらず、多くの現場ではあまりうまく活用されていないように感じます。その理由は、こうしたフレームワークを自社商材が属する業界やカテゴリー特性に合わせて正しくチューニングしていないことにあります。
WebとSNSの普及が進み始めた2007年に電通関西の秋山隆平氏は、消費者の購買プロセスに歴史的な変化が生じていると著書で論じています(『情報大爆発―コミュニケーション・デザインはどう変わるか』宣伝会議))。1920年にサミュエル・ローランド・ホール氏が提唱して以来、80年以上にわたってマーケティングの現場で使われてきた消費者購買プロセス「AIDMA」は「AISAS」に変わりつつあるというものでした。
くしくも、時代はテレビ視聴者層の変化(高齢化と低所得化)、ハードディスクプレーヤーの普及によるテレビCMのスキップ問題、SEOやSEMに代表される検索エンジン対策による顧客獲得(刈り取り)効率の良さ、@cosmeや価格.com、食べログやAmazonレビューなどにおけるクチコミの売り上げへの影響力拡大、スマホの普及開始、mixiやブログの浸透による情報生成および情報流通の変化などが同時多発的に発生した時代です。
「AIDMAからAISASへ」という旗印は、消費者の購買プロセスが根本から変わってしまう時代の転換点を示す業界の合言葉になりました。そして「以前と同じ予算で同じ施策を打っているのに、徐々に効果が弱くなってきている」という肌感覚を持っていた多くのマーケターは「古い購買プロセスモデルで戦略を設計していたからうまくいかなくなってきていたのか! AIDMAはもう古い。これからはAISASだ!」と飛びつきました。
そんな折、私はある食品メーカーのクライアントから「新商品のプロモーション戦略を考えたので、意見が欲しい」と相談を受けました。数十ページにおよぶパワーポイントの戦略設計書は、AISASをベースに組み立てられていました。消費者ニーズの高度化・多様化、メディア環境(接触メディア、接触頻度、接触態度など)の変化、情報流通の変化と購買プロセスの変化(AIDMAからAISASへ)、商品コンセプトとターゲット戦略、AISASモデルをベースとした新商品のプロモーション設計、具体的施策、という具合です。
私は、相手に率直な疑問をぶつけてみました。「スーパーやコンビニで購入する(関与度の低い)食品を、事前に検索する人っていますかね?」「何を検索するのでしょうか」「なぜ検索するのでしょうか」。その他にも「月に何度も喫食する日常的な食品を食べた後、それをレビューサイトやブログで発信する人ってどのくらいいますかね?」「他の(関与度が同等レベルの)飲料や日用雑貨について書かれたレビューやブログをどのくらい見たことがありますか?」「顧客が御社商品を食べた後にブログを書く動機って何ですかね?」とも(とても優しく)聞いた記憶があります。
結果、その新商品のプロモーション戦略は設計段階から見直しとなりました。これはAISASモデルが悪いのではありません。問題は、書籍やセミナー、業界誌やWebメディアで紹介されている話題の「考え方」や「フレーム」を「そのまま」自社商材に当てはめてもうまくいかないことを示唆しています。
そして「有用な戦略理論やフレームのチューニングなき導入」による失敗は、2023年の現在でもそこかしこで起こっているのです。
関連記事
からの記事と詳細 ( 有名な戦略フレームや成功事例が「マーケ現場で役に立たない」真 ... - ITmedia ビジネスオンライン )
https://ift.tt/mneB1cp
No comments:
Post a Comment