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Wednesday, November 29, 2023

ナパバレーの感謝祭の夜に 宇賀なつみがつづる旅(49) - 朝日新聞デジタル

フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。今回はワインで有名なナパバレーへ。アメリカの感謝祭に初めて参加することになった宇賀さんですが……。

「人に優しく ナパ」

11月の第4木曜日。
アメリカではサンクスギビングデーと呼ばれるその日、
私はサンフランシスコでの取材を終えて、ナパへ向かっていた。

「治安が悪いみたいだから気をつけて!」
旅立つ前にさんざん言われたけれど、
たまたまAPEC開催直後だったからなのか、
サンフランシスコの街は清潔で、出会う人は皆優しかった。

仲間たちは仕事を終えて日本へ帰ってしまったが、
なんとかスケジュールを調整して、私は延泊できることになった。

ワイン産地として有名なナパバレーを訪れるのは、これで2回目。
ちょうど感謝祭と日程が重なったこともあり、
友人の紹介で、ナパに住むご家族に招いていただいた。

ナパの街が近づいてくると、ブドウ畑が現れる。
昼間は思っていたよりも暖かかったので、
窓を開けたまま、黄金色の絨毯(じゅうたん)を眺めた。

丘を上ってたどり着いたのは、戸惑うくらいの大豪邸。
正面玄関前には、大きな円を描くロータリーがあり、
辺りを一望できる庭には、プールとジャグジーまでついていた。

私が宿泊する隣接するゲストハウスも、
キッチン付きで、十分すぎる広さだった。

「まずはゆっくりしたら? ジャグジーに入る?」
なんだか恐縮してしまうけれど、
せっかくなので入らせてもらうことにする。

夢の中にいるのだろうか。
目の前にはゴルフ場、奥にはワイナリーが広がっている。
あまりに静かで、風も動かない。
青い空の中に、大きなハゲタカだけが浮いていた。

ナパバレーの感謝祭の夜に 宇賀なつみがつづる旅(49)

そのまま日が暮れるまで、ダラダラと過ごした。
旅に出ると、普段どれだけタスクに追われているのかを実感する。
こんな優雅な生活をしている人が、この世界のどこかにいるというのに。

シャワーを浴びて着替えて、いよいよ本番。
アメリカの感謝祭に、初めて参加するのだ。

玄関のドアを開けると、笑い声が響いていた。
グラスを用意したり、チーズを切ったり、
大人たちはそれぞれの仕事をしながらおしゃべりしていて、
子供たちは楽しそうに走り回っていた。

オーナーご夫妻と、その子供や孫たち、
さらに学生たちも集まって、総勢17人。
にぎやかなディナーが始まった。

ナパバレーの感謝祭の夜に 宇賀なつみがつづる旅(49)

大きなターキーは、ナイフを入れて食べやすくほぐしてくれる。
サラダやマッシュポテトも添えて、
クランベリーソースやグレービーソースを合わせていただく。

まさにアメリカという味。
アメリカ料理について何か知っているわけではないけれど、そう感じてしまう。
濃いソースがあっさりしたターキーによく合う。
皆で同じものを分け合って食べると、会話も弾むようだ。

初対面の私も快く受け入れてくれて、
まるでずっと前から知っているように、自然に接してくれる。
ホームパーティーの達人に囲まれて、ついつい飲み過ぎてしまった。

デザートは、アップルパイとパンプキンパイ。
アイスとクリームを添えると、こちらもやはり、アメリカ味。
人に優しくしてもらった分、人に優しくなろうと誓った夜だった。

翌日は、ワイナリー見学に出かけた。
今回訪れたのは、ダナ・エステーツ。
禁酒法により一度閉鎖されたものの再開し、
2005年に韓国人オーナーの手に渡り、創業されたそうだ。

表からはよくわからず、こぢんまりとした印象だったが、
古くから残っていた建物と新しく作られた施設が見事に調和して、
洗練された空間になっていた。

そして、ワインが素晴らしい。
思わずため息が漏れるほどのおいしさで、
オーナーたちも交えた楽しいテイスティングの時間が、
永遠に続けばいいのにと思った。

ナパバレーの感謝祭の夜に 宇賀なつみがつづる旅(49)

どうしてこんなところにいるんだろう。

旅先で急に冷静になって、考えることがある。
昨日まで知り合いがひとりもいなかった場所で、
笑いながらワインを飲んでいるなんて、なんだか不思議だ。

「次はいつ来るの?」
「来年、また来るよ!」

別れ際に聞かれて、勢いで答えてしまった。
こんな何げない約束を、ちゃんと守れる人になりたい。

最後の夜は、クリスマスツリーの点灯式に参加した。
日が沈むと一気に寒くなるので、たくさん着込んで行ったけれど、
それでも震えるほど寒かった。

そんな中で飲んだ、アップルサイダー。
温かくて甘くて酸っぱくて、これもきっとアメリカの味だろうと思った。

旅に出るたびに、会いたい人が増える。
戻りたい場所が増える。

使い古された言葉だけど、
私たちは皆、同じ星に生きる仲間なのだと信じられる。

世界中が旅人なら、争いごともなくなるのではないか。

光り輝くツリーを見上げながら、
ふと、そんなことを思った。

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