新たな表現を求めて世界中のアーティストが模索と挑戦を続けた20世紀。ドイツ第4の都市、ケルン市にあるルートヴィヒ美術館は、その20世紀初頭から現代までの美術品収集で有名な美術館である。今回の展覧会で紹介されるのは、ドイツ表現主義や新即物主義、ロシア・アヴァンギャルド、ポップ・アートなど、絵画、彫刻、写真、映像を含む152点。ボリュームたっぷりでバラエティ豊かな展覧会になっている。
序章「ルートヴィヒ美術館とその支援者たち」から第7章「拡張する美術―1970年代から今日まで」まで全8章の構成。第1章は「ドイツ・モダニズム―新たな芸術表現を求めて」。人間の姿を冷徹かつ即物的に表現する「新即物主義」のオットー・ディクスの《自画像》から、カンディンスキーの抽象画《白いストローク》まで、ここだけですでにひとつの展覧会ができそうなクオリティーだ。オットー・ミュラー、パウル・クレー、レームブルック……具象から抽象まで、様々な作品が並んでいる。
第2章「ロシア・アヴァンギャルド―芸術における革命的革新」では、マレーヴィチの《スプレスム 38番》とアレクサンドル・ロトチェンコの《宙づりの空間構成 10番(光反射面)》《空間構成 5番》の展示が立体的な構成に見えて面白かった。さらに充実していたのは、第3章「ピカソとその周辺―色と形の解放」。著作権の関係で画像が出せないのが残念だが、《眠る女》《アトリエにて》などのピカソ作品はもちろん、ブラック、ブランシャール、マティス、モディリアーニら、展示されているのは「大物」ばかりなのである。第5章「ポップ・アートと日常のリアリティ」では、アンディ・ウォーホル《二人のエルヴィス》、ジェームズ・ローゼンクイスト《無題(ジョーン・クロフォードは言う…)》などの大作が並ぶ。ルートヴィヒ美術館のポップ・アートコレクションは「ヨーロッパで最大級」というが、なるほど、と感心させられる。第4章「シュルレアリスムから抽象へ―大戦後のヨーロッパとアメリカ」のマックス・エルンスト《喜劇の誕生》、ジャクソン・ポロック《黒と白 No.15》なども見応えがある。
第6章「前衛芸術の諸相―1960年代を中心に」、第7章「拡張する美術―1970年代から今日まで」を見ていると、この美術館のコレクションは、21世紀の今でも「拡大」し、「進歩」を続けているようだ。印象に残ったのは、夢魔的な世界を描いたゲオルク・バゼリッツ《鞭を持つ女》や隔絶された世界観のヴォルフガング・マットホイアー《今度は何》など。ルートヴィヒ美術館のコレクションは、ルートヴィヒ夫妻、ヨーゼフ・ハウプリヒら市民コレクターによるコレクションの寄贈が基盤になっているという。市民の「目」と「手」によるコレクションの拡充は今も続いているのだろう。現代を生きている美術館、という感じが、展示全体からも感じられる。
「写真・映像の時代」だった20世紀、ルートヴィヒ美術館は当初から、写真作品の充実を図っていたという。このため、第1章から第7章まで数多くの写真が展示されている。光と影が作り出す幾何学模様が印象的なロトチェンコ《ライカを持つ少女》は目に付いた作品のひとつだが、スタイリッシュなイルゼ・ビング《フランクフルト、ラバーン学校の踊り子たち》、どこか神秘的なヴェルナー・ローデ《パリスの審判》なども記憶に残った。21世紀の今、これからこの美術館は何を収集していくのだろうか。定期的にウォッチしてみたい魅力的なコレクションである。
(事業局専門委員 田中聡)
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