ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ、BBC東京特派員(奈良)
安倍晋三元首相(67)が8日午前11時半ごろ、奈良市で街頭演説中に銃で撃たれ、午後5時過ぎに死亡が確認された。第一報が報じられて以来、私のもとには友人・知人から次々とメッセージが流れ込んだ。日本でこんなことが起きるなんて、いったい何事か。誰もが同じ思いで当惑していた。
私もかなり同じ思いだ。この国に暮らしていると、暴力事件についてあまり考えないのが、普通のことになっていく。
しかも、この暴力事件の被害者はよりによって、安倍氏だ。なおさら衝撃が深まる。
安倍氏はもはや日本の総理大臣ではないが、今でも日本社会の大きな影響力を持つ有名人だ。過去30年の日本の政治家で最も有名な人物だと言えるかもしれない。
いったい誰が安倍氏を殺そうなどと思うのか。いったいなぜ?
似た事件というとほかに何があてはまるのか、考えている。地元の人たちに同じくらい衝撃を与えた、政治的暴力事件は。思いつくのは、1986年に起きたスウェーデンのオロフ・パルメ首相殺害くらいだ。
この国の人たちは暴力事件のことを考えずに日々を過ごしている。決して誇張してそう言っているわけではない。
確かに、ヤクザはいる。悪名高い日本の暴力団だ。しかし、普通の人はほとんどめったに暴力団に接しない。暴力団の側も、銃の違法所持に対する罰則があまりに厳しいため、銃をあまり使いたがらない。
日本で銃を手に入れるのは、非常に困難だ。犯罪歴があってはだめだし、講習の受講は必須で、精神科医の診断書の提出が求められる。警察による広範な身辺調査では、警官が近隣住民に免許申請者について聞き取りもする。
その結果、この国では銃による犯罪はほとんど存在しない。銃による年間死亡件数は平均して、10件未満だ。2017年は3件だけだった。
それだけに、銃撃犯と、使われた武器に、注目が集まっているのは、不思議なことではない。
いったい何者なのか。銃はどこで手に入れたのか。日本のメディアは、41歳の元海上自衛隊員だと伝えている。
しかし、勤務期間はわずか3年だったという。男が使った銃も、特に奇妙だ。事件直後に現場の路上に放置された凶器の写真を見ると、手製の武器のように見える。金属パイプを2本、黒い粘着テープでグルグル巻きにしてある。何か手製の引き金のようなものも見える。インターネットからダウンロードした設計図をもとに作ったかのような印象だ。
それではこれは、政治的な意図による攻撃だったのだろうか。それとも、有名人を撃って有名になりたい、妄想の世界に生きる人間の犯行だったのか。今のところは、分からない。
日本でも、政治家の暗殺は繰り返されてきた。特に有名なのは、1960年の浅沼稲次郎氏暗殺だ。日本社会党の委員長だった浅沼氏は選挙前の演説会で、演説中に突然壇上に上がって来た狂信的な右翼主義者に、日本刀で腹部を刺され、死亡した。今も日本に極右はいるが、右派ナショナリストの安倍氏をねらうとは思い難い。
他方、この国では近年、別の種類の犯罪が繰り返されるようになっている。目立たず物静かで孤独な男性が、誰かや何かに恨みを募らせ、暴力に至るタイプの犯罪だ。
2008年には、世間に恨みを抱く若い男が東京・秋葉原で、トラックで歩行者を次々とはねた後、周囲の通行人を次々に刺した。7人が死亡、10人が重軽傷を負った。
犯行前、男はオンラインの掲示板に「秋葉原で人を殺します」と投稿。「友達できない」、「不細工な私の命の価値はゴミ以下」などとも書いていた。
安倍氏を撃った男の動機が、どちらの部類にあてはまるのかはまだはっきりしない。しかし、この暗殺が日本を変えるのは確かなことのように思える。
日本はとても安全な国なので、この国の警備体制は緩やかだ。今回のような選挙戦の最中、政治家は文字通り街角に立ち、演説をし、買い物客や通行人と握手をする。
安倍氏を撃った男はおそらくだからこそ、元首相に近寄ることができた。そして、寄せ集めの部品で作った武器を発射できたのだろう。
これは今日を境に、変わるに違いない。
からの記事と詳細 ( 安倍氏が銃撃で死亡、この衝撃は日本を永遠に変えるか - BBCニュース )
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