東京都内の1路線のみ走る都電には「東京さくらトラム」という愛称がついている。正式な路線名は「荒川線」だったが、2017年4月に東京さくらトラムの愛称が決まった。
ところが、命名から3年半が経っても未だに「都電荒川線」と「東京さくらトラム」が東京都の公式な表記ですら並立し、愛称が定着しているかどうかは微妙なところだ。
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「都電荒川線」か「東京さくらトラム」か
「さくらトラム」「荒川線」の優先順位が逆転?
東京都交通局は都電荒川線の愛称を2017年3月17日から4月7日まで公募した。4月28日に発表された愛称は「東京さくらトラム」に決まった。
もともと愛称は交通局により「東京〇〇トラム」になることが既定路線で、最多得票の「さくら」が採用された。しかし愛称への、特に鉄道ファンからの反応はいま一つだった。それでも「東京さくらトラム」は交通局のプレスリリースや出版物、駅の乗り換え案内に使われていた。東京メトロやJR東日本でも、都電との乗換駅では新しくつけられたサインや放送では「東京さくらトラム(都電荒川線)」と表記するケースが多い。
ところが、2020年10月にこれまで「東京さくらトラム」を優先してきたはずの東京都交通局が「後退」した様子である。9月まで荒川線にまつわるプレスリリースは「東京さくらトラム(都電荒川線)」だったが、10月1日に公表された都電のグッドデザイン・ロングライフデザイン賞受賞のニュースについて「都電荒川線がグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞」というタイトルで、本文では「東京都交通局が運営する都電荒川線(愛称「東京さくらトラム」)」と表記している。これまでも「都電荒川線」の表記を一掃するには至っておらず、当の交通局も「東京さくらトラム」と「都電荒川線」でどっちつかずの姿勢でいるようだ。口の悪い鉄道ファンからは「ついに『東京さくらトラム』の愛称を諦めた」という感想も出ている。
りんかい線、スカイツリーライン...路線愛称の定着に必要なものは?
路線愛称をつけても、定着しなかった前例はいくつかある。南海電鉄の高野線は1990年代に「りんかんサンライン」という愛称がつけられたが、全く定着せずにフェードアウトし、高野線の名前のままで通っている。埼玉高速鉄道は2002年の開業時に沿線の埼玉スタジアムにちなんで「彩の国スタジアム線」と愛称が命名されたものもこれも浸透せず、「埼玉高速鉄道線」と一般に呼ばれている。
逆にすっかり一般化した愛称の例が「りんかい線」と「ゆりかもめ」である。前者は1996年の部分開業時は「臨海副都心線」であるが、2000年から「りんかい線」の愛称が付けられた。ゆりかもめも正式名称は「東京臨海新交通臨海線」という長い名前なので、開業時からゆりかもめの愛称が定着している(運営企業は、98年に「東京臨海新交通」から「ゆりかもめ」に改称)。
「東京さくらトラム」と近い時期につけられた愛称に、東武鉄道の「東武スカイツリーライン」(伊勢崎線の浅草・押上~東武動物公園間)、「東武アーバンパークライン」(野田線)がある。前者は12年、後者は14年から使われ、東武の路線図や案内サイン類でも原則愛称名で統一されている。直通先の東京メトロにおいても「東武スカイツリーライン直通」とアナウンスされており、認知される機会は多い。乗客がどう思っているかはさておき、一貫して愛称を定着させようという東武の姿勢は変わっていないようだ。
鉄道路線の愛称が定着するか否かは、命名センスだけでなく愛称を定着させるという事業者側の「覚悟」も必要なのかもしれない。
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