ライターI(以下I):『光る君へ』、なんだかわくわくしませんか? 前週のまひろ(紫式部/演・吉高由里子)と道長(演・柄本佑)の再会の場面なんて、誤って飛んでいった草履が道長にあたるという、ベタな描写ではありますが、まるで昭和の少女漫画のようで、年甲斐もなくキュンとしてしまいました(笑)。
編集者A(以下A):昭和の少女漫画? 急いでいる主人公が曲がり角でぶつかった瞬間に運命の相手と出会う、という感じでしょうか。何はともあれ、絶妙なのが随所に『源氏物語』のエッセンスがさりげなく挿入されていることですかね。
I:『源氏物語』はわが国が世界に誇る文学作品ではありますが、細かなところは意外と知られていませんからね。逆に、知っている人がこのドラマを見ると、思わずにんまりしちゃうやつですよね。
有名な「雨夜の品定め」が登場
A:何気なく挿入されていましたが、道長と藤原公任(演・町田啓太)、藤原斉信(演・金田哲)の宿直(とのい)の場でのやりとりは、『源氏物語』「帚木(ははきぎ)」の帖で光源氏、頭中将、左馬頭、藤式部丞の4人が女性観を語り合った「雨夜の品定め」を彷彿とさせる場面になりました。
I:『源氏物語』前半の有名な場面ですね。
A:『源氏物語』の描写では、女性を家柄や性格、教養などで値踏みしてランク付けするといういささか品にかけるやり取りなのですが、当時の上流階級子弟のスタンダードな姿を伝える貴重な個所ですよね。
I:さて、劇中の3人の関係ですが、藤原公任は、現関白頼忠の息子で、道長とは曾祖父忠平を同じくするはとこの関係。もうひとりの藤原斉信は、道長の父兼家(演・段田安則)の弟である為光の息子になりますから、道長の従兄弟になります。
A:頼忠と兼家は従兄弟であり政敵でもあるのですが、その子弟同士は仲良しという場面ですね。「雨夜の品定め」の場面を知っていたら、「なるほど、こういう設定で来ましたか」と感じるでしょうし、知らない人は『源氏物語』の原典をあたりたくなるという場面です。
I:上級貴族藤原公任を演じているのは、『青天を衝け』で新撰組副長の土方歳三を演じた町田啓太さんですね。
A:『青天を衝け』での函館戦争の土方歳三の場面の熱演ぶりが思い出されますね。しかし、町田さんは、副長から貴族まで幅広ですよね。公任は道長とのつながりも深いですから、今後も楽しみです。
I:さて、後段では、この3人に加えて藤原行成(演・渡辺大知)が登場して、『孟子』を学ぶ場面が挿入されました。
A:藤原行成は藤原兼家の兄伊尹(これただ)の孫になります。本来であれば嫡流ということになりますが、後に書家として三蹟(ほかに小野道風、藤原佐理)のひとりに名を連ねます。劇中で読まれていた『孟子』の「人に忍びざるの心有り」の箇所は、人間の性善説を説いた高校古典などでもおなじみの個所。この時期の上級貴族の間で学ばれていたかについては議論があるかと思いますが、政治の王道について触れている『孟子』を学んでいるという設定は示唆に富みます(後述)。
【セレブな女子会にまひろが参加。次ページに続きます】
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