M&Aを検討する上で知っておきたいのがどうような成功事例があるかです。そこでこの記事では、M&Aの成功事例を厳選して紹介します。最新の事例や、大企業・中小企業が行った買収のほか、日本と世界におけるM&Aの相違点や買収・合併の失敗事例も取り上げます。
1. M&A成功事例の最新動向
世界と日本では、実行されるM&Aに関して相違点が見られます。ここでは、世界および日本の企業がこれまで行ってきたM&A事例を踏まえたうえで、それぞれに見られる近年の特徴をまとめました。
日本のM&A動向
買収・合併対象はヘルスケアと電気通信分野に集中
日本のM&Aにおける買収・合併対象はヘルスケアと電気通信分野に集中しています。2つの事業のみで全体の半分を超える年もあるほどです。
特に製薬関連のM&Aが活発化しています。2019年にはアステラス製薬が米バイオ企業のオーデンテス・セラピューティクスを3,200億円で買収しました。
その他、大日本住友製薬・旭化成・富士フイルムホールディングスの3社は、米欧企業に対して大型買収を実施しています。上記以外の買収・合併対象分野として続くのは、ハイテクやエネルギー分野・電力分野・不動産分野などです。
ベンチャー企業を対象とするM&A件数の増加
近年は、ベンチャー企業を対象とするM&A件数も増加傾向にあります。2019年のデータを見ると、日本企業が関わったM&A件数のうち、ベンチャー企業を対象にしたM&A件数は1,375件と、全体の3割を占めました。
このようにベンチャー企業のM&Aが増加する要因としては、ベンチャー企業のイグジット戦略として、IPOではなくM&Aを狙うケースが増えていることが挙げられます。
世界のM&A動向
世界のM&A案件数は、2020年上半期に4分の1近く(23%)減少し、アジア・パシフィック地域のみでも第1四半期に20%下落しています。ただ、2020年の夏頃からアジアなどでM&Aは回復基調にあることから、コロナの感染が収まってくれば、2021年にかけて、M&Aが回復してくると予想されていました。
リフィニティブのデータによると、2021年のM&A総額は5兆8000億ドルとなり、前年から64%増加しました。件数は6万2193件で前年を24%上回り、投資銀行関係者は、22年は金利上昇が見込まれるものの、M&A市場は活況が続くと予想されています。
2022年7月までのM&A市場は、案件数は前年比13%減少し、取引総額ベースでは前年比32%減の約1兆7,300億ドルと、新型コロナウイルス危機前の平均に近い水準となりました。
2. M&A成功事例【2022年最新】
2022(令和4)年で実施された最新のM&A成功事例9件を掲示します。
- ミライト・ホールディングスによる西武建設の買収
- 博報堂DYホールディングスによるソウルドアウトの子会社化
- ソニー・インタラクティブエンタテインメントによるバンジーの買収
- ニトリホールディングスとエディオンの資本業務提携
- イオンによるハローズの株式所得
- コクヨによるぺんてるの全保有株式の譲渡
- セブン&アイ・ホールディングスによるそごう・西武の全株式の譲渡
- 三菱地所による日本リージャスホールディングスの子会社化
- オリックスによる化粧品・健康食品大手DHCの子会社化
ミライト・ホールディングスによる西武建設の買収
2022年1月に、ミライト・ホールディングスは西武鉄道の100%子会社である、西武建設の株式95%を取得し、子会社とする契約を結びました。
譲渡側企業の概要
西武建設は、西武ホールディングスの中の建設部分を補う総合建設会社です。
このM&Aが行われた時期は、西武ホールディングスはコロナ禍において、鉄道やホテルの事業が伸び悩み、大きく方針の転換をしている状態でした。
譲受側企業の概要
ミライト・ホールディングスは、通信建設業界の中でも大手であり、通信工事会社を総括している会社です。
M&Aの目的・背景
ミライト・ホールディングスは、主力の通信建設事業が低滅傾向であるとし、土木やエネルギーといった街づくり関連案件を増やすための知見や人材が必要だと見込みました。
そこで、企画や設計の力を有している西武建設の買収によって補うため、買収に至りました。
M&Aのプロセス・スキーム
西武ホールディングスはコロナ禍の影響を大きく受けたことで、コア事業ではないと位置づけられた子会社や事業を売却する、カーブアウトという手法をとり、西武建設の売却に至りました。
西武建設の場合は、利益は出ていますが、それに値する買収価格の提示や今後のホールディングスとしての事業の進め方に応じてこのようなことが行われたのではないでしょうか。
博報堂DYホールディングスによるソウルドアウトの子会社化
2022年2月に、博報堂DYホールディングスはデジタルホールディングスの傘下のソウルドアウトの株式公開買い付けを実施し、完全子会社化することを発表しました。
譲渡側企業の概要
ソウルドアウトは、インターネットビジネス支援事業を中心に手掛けている会社です。
2009年にオプトの子会社として設立され、地方企業や中小企業の顧客を多く抱えている会社です。
2017年にマザーズに上場したのち、2019年に東証1部に移りました。
譲受側企業の概要
博報堂DYホールディングスは、国内大手の広告代理店です。
「博報堂」や「読売広告社」、「大広」と「博報堂DYパートナーズ」を完全子会社として傘下に置いている大規模な会社です。
M&Aの目的・背景
博報堂DYホールディングスは、地方企業・中小企業の顧客の多いソウルドアウトの力を使って、体制を強化し、高い売上目標を目指すために子会社化しました。
両社ともインターネットを重点的に進めている会社のため、これから成長するであろう地方企業・中小企業向けのデジタル広告領域での競争に備えた体制強化が目的です。
ソニー・インタラクティブエンタテインメントによるバンジーの買収
2022年2月、約5140億円でソニー・インタラクティブエンタテインメントはバンジーを買収しました。
譲渡側企業の概要
バンジーは、西部ワシントン州にあるゲーム開発会社で、「デスティニー」といった人気ゲームを手掛ける会社です。
譲受側企業の概要
ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、ソニーの子会社です。
2021年ごろからゲーム会社の買収をし、PS向けのソフト開発を強化しています。
M&Aの目的・背景
ゲーム市場がここ数年で急激に成長を見せたことで、大型M&Aが多数行われています。
ソニーグループも買収は多数しています。
バンジーは高いゲームの開発技術とゲームで培った高い知的財産をもっているため、それを様々なエンタメに展開していくとしています。
M&Aのプロセス・スキーム
2022年1月末に買収計画を発表しました。為替変動などにより当初予定の金額とは異なる形ではあるが、7月に買収が完了しました。
ニトリホールディングスとエディオンの資本業務提携
2022年5月にニトリホールディングスはエディオンと資本業務提携を行いました。
譲渡側企業の概要
エディオンは、家電量販店で売上高では、業界5位ある大手です。
2013年にLIXILは8%の株を保有することになりました。
譲受側企業の概要
株式会社ニトリホールディングスは、家具やインテリアを販売する「株式会社ニトリ」「島忠」を傘下にもっている持株会社です。
M&Aの目的・背景
両社とも家での生活に欠かせない商品の販売を行っていることから、互いの経営資源やノウハウを活用し、事業拡大を図る目的で資本業務提携が行われました。
M&Aのプロセス・スキーム
ニトリホールディングスはエディオンの株主のLIXILから株式の8.6%である102.7億円を取得、市場から1.4%を取得し、エディオンの株式を10%保有しました。
イオンによるハローズの株式取得
2022年7月、イオンはハローズの株式を8.51%取得しました。マックスバリュー西日本とオリックスが保有していた普通株式を譲り受ける形で大株主となりました。
譲渡側企業の概要
ハローズは岡山・広島・愛媛・香川・徳島・兵庫で24時間営業で展開している食品スーパーです。
譲受側企業の概要
イオン株式会社は、日本国内外で300程度の企業で構成される「イオングループ」を統括する会社です。流通グループの中でも大手の会社となっています。
M&Aの目的・背景
イオンはM&Aの目的を「グループ間の株を集約し、(子会社)が得た資金を成長戦略に生かすため」としています。これにより、イオンはマックスバリュー西日本に変わって第3位の株主となりました。
ウェルシアホールディングスによるふく薬品の子会社化
2022年12月1日付けで、ウェルシアホールディングスはふく薬局の52.58%の株式を取得して子会社化しました。取得価額については非公開としております。
譲渡側企業の概要
ふく薬局は、沖縄県でドラッグストアや調剤薬局を展開している会社です。
沖縄県内の独立したドラッグストアとして最大手であるため、沖縄県では代表的なドラッグストアです。
譲受側企業の概要
ウェルシアホールディングスは、持株会社です。
子会社の「ウェルシア薬局」の関係でイオングループに属しています。
M&Aの目的・背景
沖縄県エリアの「人口の継続増加」「全国1の出生率」といった優位性のある消費環境を最大限に活かすための子会社化です。
ふく薬局が沖縄県で得た信用力に加え、ウェルシアグループのノウハウや人材等の資源の追加でさらなる経営規模の拡大を見込んでいます。
三菱地所による日本リージャスホールディングスの子会社化
2022年12月、三菱地所は日本リージャスホールディングスを買収することを発表しました。
譲渡側企業の概要
日本リージャスホールディングスは、コワーキングスペースやレンタルオフィスの管理・運営を行っています。
レンタルオフィス企業として有名なスイスIWGの下で事業を開始した会社です。
譲受側企業の概要
三菱地所は、三菱グループの中の核となる企業で、総合不動産事業を担っています。
不動産賃貸業はもちろんのこと、オフィスや商業施設の開発などの事業もしている会社です。
M&Aの目的・背景
コロナ禍において、リモートワークが増えた中、コワーキングスペースやシェアオフィスの需要が高まっています。
そこで、三菱地所は、貸会議室大手TKPの傘下にいる日本リージャスホールディングスを子会社化することで、時代に即した事業の展開の強化をすることができると考えたのではないでしょうか。
両社のノウハウを活用してシナジー効果を狙うのが目的です。
3. 有名なM&A成功事例
明治ホールディングスによる化学及血清療法研究所の新会社の子会社化
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、日本の一般財団法人化学及血清療法研究所です。熊本県にて事業に取り組んでおり、ワクチンや血漿(けっしょう)分画製剤の研究・開発・製造・供給などを行っています。
インフルエンザ・新型インフルエンザ・4種混合・肝炎ワクチンなどを提供しており、研究や技術力に長けた会社です。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、日本の有名企業である明治ホールディングスです。食品・薬品事業などを抱えるグループ企業であり、2021年3月期の連結売上高は1兆1,917億6,500万円、従業員を17,832名(2021年3月31日現在)抱えています。
M&Aの目的・背景
明治ホールディングスがM&Aによる株式の取得を行った目的は、以下のとおりです。
- 感染から治療までのサポート体制を作ること
- 薬品事業を通じたワクチン製造の強化と海外への供給
- 動物用医薬品事業の競争力を高める
- 業界の流れに合わせたバイオ医薬品の研究・開発の加速化
明治ホールディングスは、ワクチン・バイオ医薬品の開発力・技術力を持った化学及血清療法研究所の事業を買収して企業価値の向上を狙ったのです。
M&Aのプロセス・スキーム
このM&Aは、最終的に2018年7月に実施されました。化学及血清療法研究所の事業が承継された新会社名は、KMバイオロジクスです。事業承継には現物出資の手法が採用されており、明治ホールディングスなどによって熊本県に買収会社が設立されます。
この買収会社に新会社の普通株式を全て取得させ、両社が合併を行ったうえで新会社を存続会社として残す仕組みです。合併した新会社の議決権は、明治ホールディングスが49%・熊本企業グループも49%・熊本県が2%の割合で保有します。
LINEによるファイブの子会社化
2つ目の成功事例として、2017年12月に行われたLINEによるファイブとの資本業務提携を紹介します。LINEは、この資本業務提携によりファイブの株式を全て買い取りました。これにより、動画広告プラットフォーム事業を営むファイブを子会社化しています。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、東京に本社を置くファイブです。主な事業として、スマートフォンに合わせた動画配信プラットフォームの開発や運営を手掛けています。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、有名企業であるLINEです。東京にオフィスを構えており、コミュニケーションアプリ「LINE」をはじめとするスマートフォン向けサービスの開発・運営を行っています。
その他、広告・AI事業も展開しており、単体の従業員数は2,800名(2020年10月末時点)です。
M&Aの目的・背景
LINEは、自社のアプリやサービスを活用して、広告の表示回数を増やしたり広告選定の精度を高めたりと、広告事業の拡大を図ってきました。両者の強みを活かした相互のプラットフォームの連携により、動画マーケティングに対する市場ニーズに対応し、より良質な広告配信を実現します。
さらなる成長と拡大を目指すため、動画広告に長けたファイブとの提携を決めました。
GMOインターネットによるOMAKASEの買収
2021年6月、GMOインターネットがOMAKASEを買収し子会社化しました。
譲渡側企業の概要
資本金500万円のOMAKASEは、人気飲食店・レストランに特化した飲食店予約管理サービスの開発・運営(オンラインサービス)を行っている東京の会社です。
譲受側企業の概要
東京のGMOインターネットは、インターネットインフラ、インターネット広告・メディア、インターネット金融、暗号資産、オンラインゲームやモバイルゲームなどのゲーム事業などを行っています。資本金は50億円、連結売上高は2,105億円(2020年12月期)です。
M&Aの目的・背景
OMAKASEが運営・提供しているサービスは、人気飲食店に特化する独自色が強いものです。GMOインターネットは、この点を評価し、自社が行っているインターネットインフラ事業でシナジー効果が創出され、業績拡大できると判断しました。
M&Aのプロセス・スキーム
このM&Aでは、2021年3月に施行された改正会社法により定められた、新しいM&Aスキームである株式交付が用いられています。株式交付は、方法としては株式交換と同様です。売却側株主への対価として、買収企業の株式や新株予約権を交付します。
ただし、株式交換を実施できるのは、売却側企業を完全子会社化するときに限定されていました。株式交付では、この前提が取り払われたため、GMOインターネットのように完全子会社化しない買収を行う際にも、対価として株式を用いられるようになったのです。
ベネッセホールディングスによるプロトメディカルケアの買収
2021年6月、ベネッセホールディングスがプロトメディカルケアを買収し子会社化しました。
譲渡側企業の概要
東京のプロトメディカルケアは、介護・福祉・医療に関する各種メディア運営事業、人材紹介・人材派遣事業、情報誌の出版事業、福祉用具のレンタル事業などを行っています。
譲受側企業の概要
岡山のベネッセホールディングスは、教育事業と介護事業を行っています。資本金137億円、連結売上高は4,275億3,100万円(2021年3月期)です。
M&Aの目的・背景
ベネッセホールディングスは、介護事業の領域を拡張させ業績向上を図るためにプロトメディカルケアの人材サービス事業などに着目し、子会社化しました、プロトメディカルケアを傘下に加えることで、介護事業の拡大スピードを早められると目論んでいます。
M&Aのプロセス・スキーム
ベネッセホールディングスは、株式譲渡によってプロトメディカルケアの全株式を取得し完全子会社化しています。譲渡価額は公表されていません。
大和自動車交通によるトータルメンテナンスジャパンの買収
2020年10月、大和自動車交通がトータルメンテナンスジャパンを買収し子会社化しました。
譲渡側企業の概要
東京のトータルメンテナンスジャパンは、ゴルフ場の施設(クラブハウスなど)メンテナンス業務、オフィスビルの清掃・メンテナンス業務などを行っています。
譲受側企業の概要
東京の大和自動車交通は、ハイヤー・タクシー事業と不動産事業を行っています。資本金は5億2,500万円、連結売上高は115億3,300万円(2021年3月期)です。
M&Aの目的・背景
大和自動車交通のM&Aの目的は、新規事業参入による事業の多角化にあります。トータルメンテナンスジャパンの行うゴルフ場などの施設メンテナンス業務への進出により、事業領域を拡張させてリスク分散と企業成長を図る考えです。
M&Aのプロセス・スキーム
大和自動車交通は、株式譲渡によりトータルメンテナンスジャパンの全ての株式を取得し完全子会社化しました。取得価額は公表されていません。
クスリのアオキホールディングスによるフクヤの買収
2020年10月、クスリのアオキホールディングスがフクヤを買収し子会社化しました。
譲渡側企業の概要
京都のフクヤは、舞鶴市・宮津市で食品スーパー8店舗を運営しています。
譲受側企業の概要
石川のクスリのアオキホールディングスは、北陸地方を中心にドラッグストア・調剤薬局の運営を全国展開で行っています。総運営店舗数は742店(2021年6月22日現在)です。資本金は11億62百万円、2020年5月期の連結売上高は3,001億7,300万円でした。
M&Aの目的・背景
クスリのアオキホールディングスとしては、未進出であった京都北部エリアへの進出が目的です。従来のドラッグストア・調剤薬局とは異なる食品スーパーを運営するフクヤであるからこそ、両社の利点を組み合わせることでシナジー効果が得られると判断しました。
M&Aのプロセス・スキーム
クスリのアオキホールディングスは、株式譲渡によりフクヤの全ての株式を取得し完全子会社化しました。なお、取得価額は公表されていません。
トレジャー・ファクトリーによるピックアップジャパンの買収
2020年10月、トレジャー・ファクトリーがピックアップジャパンを買収し子会社化しました。
譲渡側企業の概要
静岡のピックアップジャパンは、総合リユースショップ・質屋の運営、ブランド・貴金属専門リユースショップの運営、時計・ジュエリーの修理などを静岡県内で12店舗の規模で行っています。
譲受側企業の概要
東京のトレジャー・ファクトリーは、リサイクルショップ「トレジャー・ファクトリー」の運営、リユース品のインターネット販売・買取、ファッションレンタルCariruの運営、トレファク引越の運営などを行っています。
資本金は5億2,100万円、連結売上高は187億3,500万円(2021年2月期)です。
M&Aの目的・背景
トレジャー・ファクトリーのM&Aの目的は、リユース事業の拡大でした。グループとして、静岡県のへの進出・シェア獲得にもなります。
M&Aのプロセス・スキーム
トレジャー・ファクトリーは、株式譲渡によりピックアップジャパンの全ての株式を取得し完全子会社化しました。なお、取得価額は公表されていません。
第一生命による豪州大手の生命保険会社の買収
2019年2月にクロージングをされた成功事例が、第一生命の豪州子会社・TAL Dai-ichi Life Australia Pty Limited(以下TAL)による、豪州のSuncorp Life & Superannuation Limited(以下Suncorp Life)の買収です。
譲渡側企業の概要
Suncorp Lifeは、豪州のSuncorp Group Ltdの連結子会社であるSuncorp Life Holdings Limitedが親会社の関係でした。Suncorp Lifeが行っていた事業は、生命保険および、その関連事業です。
設立は1996(平成8)年7月であり、2017年6月期に保険料などから得た収入は8億400万豪ドルでした。
譲受側企業の概要
譲受側の企業は、豪州のTALです。日本企業である第一生命ホールディングスの子会社であり、生命保険や保険事業などを行っています。
2011年に資本金16億3,000万豪ドルで設立されており、2018年3月期に保険料などから得た収入は27億7,000万豪ドルです。豪州の保険市場において、1位のシェアを誇っています(2018年3月末時点)。
M&Aの目的・背景
TALがM&Aを行った目的は、生命保険の商品数増加と販売経路の拡大にあります。Suncorp Lifeは豪州Suncorp Group Ltdのグループ企業として、生命保険業を中核事業として展開していました。
自社の商品や自社の販売網では成長に限界があると判断して顧客の細かい要望に応えるため、Suncorp Lifeの買収を行っています。
M&Aのプロセス・スキーム
TALは、Suncorp Group Ltdの連結子会社であるSuncorp Life Holdings Limitedが持っていたSuncorp Lifeの全株式を買い取りました。買収価額は、6億4,000万豪ドルです。Suncorp Group Ltdとは、20年間の販売提携契約を結んでいます。
シャープによる東芝パソコン事業の買収
2018年10月に行われたM&Aの成功事例として、シャープが東芝の子会社・東芝クライアントソリューション(以下TCS)を買収した事例を取り上げます。シャープは東芝が所有するTCSの株式80.1%を40億500万円で買い取りました。
譲渡側企業の概要
譲渡側の企業であるTCSは東芝の子会社であり、パソコン・ソリューションシステム事業を国内外で展開しています。買収前となる2017年度の売上高は1,673億円(連結)、従業員数は2,400名(連結:2017年4月1日時点)です。
譲受側企業の概要
譲受側の企業は日本企業であるシャープです。電子通信・電子機器・電子部品の製造と販売を行っています。国内外の関連会社を含めた従業員数は50,478名(2021年3月末現在)、2021年3月期の売上高は2兆4,259億1,000万円(連結)です。
M&Aの目的・背景
シャープがM&Aを行った目的は、自社の持つAIoTプラットフォームの強化にあります。TCSが開発・提供するパソコン機器やサービスとシャープのAIoT技術との組み合わせによって、世界市場におけるシェア獲得を目指したのです。
M&Aのプロセス・スキーム
2018年9月の株式譲渡でシャープの子会社となったTCLは、2019年1月に社名をDynabookに変更しました。そして、2020年8月、東芝の持つ残りのDynabook株式19.9%もシャープが買い取り、これによりDynabookはシャープの完全子会社となったのです。
資生堂によるGiaranの買収
2017年に資生堂は、アメリカのベンチャー企業であるGiaran,Inc.を買収しました。
この買収は、アメリカ地域本社であり連結子会社であるShiseido Americas Corporationを通じて行われました。
譲渡側企業の概要
Giaranは、AIの技術を駆使したデータマイニングやディープラーニング、予測モデリングなどの新しいアルゴリズムを開発している会社です。
バーチャル上でメイクをしたり落としたりする技術や顔の測定や肌色診断などの美容の分野で注目されている技術を有しています。
譲受側企業の概要
資生堂は、化粧品の国内シェア第1位、世界シェアでは第5位の会社です。
M&Aの目的・背景
資生堂は、この買収について「Giaranの先進AI技術と資生堂が持つ世界規模のイノベーションネットワークを通じて、お客さまと商品との出会いを変え、資生堂のブランドとお客さまとの間に深くパーソナルなつながりを生み出し、お客さまを基点とした成長への道を構築していきます。」とコメントをしています。
美容業界に対応できるAIの技術を使って顧客との関係をさらに築いていくという目的があります。
旭化成による米のセージ・オートモーティブ・インテリアズの買収
2018年9月に行われたM&A成功事例として、旭化成によるアメリカのセージ・オートモーティブ・インテリアズの買収を取り上げます。
旭化成は、セージ・オートモーティブ・インテリアズの株式を所有するアメリカの投資会社クリアレイク・キャピタルから全株式を取得しました。買収額は、利子付きの負債を加えて10億6,000万ドルと発表されました。
譲渡側企業の概要
譲渡企業であるアメリカのセージ・オートモーティブ・インテリアズは、革素材を中心に車内インテリア事業を手掛ける会社です。デザイン・品質・機能性に優れた製品を提供しており、織物・編物で作られたシートでは世界一のシェアを誇っています。
買収前となる2017年12月期の売上高は4億7,490万ドル、従業員数は約2,200名(連結・2018日3月31日時点)です。
譲受側企業の概要
譲受側の企業は日本の旭化成であり、国内外に事業所を置く大企業です。住宅・建材・繊維・エレクトロニクス事業を展開するほか、新薬・医療機器や関連する医療機器のシステム開発も手掛けています。
2021年度3月期の連結売上高は2兆1,060億5,100万円、従業員数は44,497人(2021年3月31日現在)です。
M&Aの目的・背景
旭化成がM&Aを行った目的は、マテリアル事業の拡大にあります。自動車産業は今後も成長が予想されるといった判断のもと、中長期計画で掲げた自動車メーカーとの関係強化を求めていました。
こうした状況の中で、セージ・オートモーティブ・インテリアズを買収しています。対象事業を取り込むことで自動車市場の動きをいち早くつかむほか、自動車内装に自社の素材・技術を加えることで付加価値の高い製品・サービスを提供する狙いです。
M&Aのプロセス・スキーム
旭化成は、セージ・オートモーティブ・インテリアズへ働きかけ、交渉により買収を成功させています。2017年10月から交渉を進め、2018年7月に合意に至りました。買収が交渉で可能だった理由は、従来から取引関係にあったためです。
味の素によるトルコの食品会社の買収
複合的なM&A成功事例として、味の素がトルコで行った2社の買収とそれらの統合を取り上げます。複数年をかけて行われた味の素のトルコ進出は、最終的に2018(平成30)年7月、設立した新会社へ統合が決定しました。
譲渡側企業の概要
譲渡側の企業は2つあります。1社目はキュクレ食品であり、トルコで液体調味料やピクルスなどの製造・販売を手掛けている会社です。2社目の企業はオルゲン食品であり、粉末調味料・粉末スープ・デザートなど加工食品の製造や販売を行っています。
譲受側企業の概要
譲受側の企業は、日本企業である味の素です。有名な味の素をはじめとする調味料のほか、インスタント食品・飲料・健康食品などの製造・販売を行っています。
味の素は35の国・地域に事業所を置いており、従業員数は32,509名 (連結:2020年3月31日現在)、2021年3月期の連結売上高は1兆714億5,300万円です。
M&Aの目的・背景
日本の大企業である味の素がM&Aを行った目的は、トルコを中心とした中東での事業の拡大にあります。キュクレ食品・オルゲン食品の販売網や収集・解析したマーケティングを利用して、事業の強化を図りました。
自社技術を活用した新製品開発のほか、中東エリアに向けた商品の輸出力向上も狙っています。
M&Aのプロセス・スキーム
味の素は、2011(平成23)年7月、トルコにイスタンブール味の素食品販売を設立します。そして、トルコでの事業拡大を目指し、2013(平成25)年にはキュクレ食品の株式を50%、2017年8月には100%の株式を取得しました。
2017年4月にはオルゲン食品の株式100%を取得し、同じく子会社化しています。2018年7月、新たにイスタンブール味の素食品を設立し、上記3社を統合したのです。
村田製作所による米のベンチャー企業の買収
2017年10月、村田製作所はアメリカのヴァイオス・メディカルを買収しました。
譲渡側企業の概要
譲渡側の企業は、アメリカのヴァイオス・メディカルです。医療機器の開発を手掛けるベンチャーであり、IoTを駆使した院内・患者の監視システムや胸部に取りつけるワイヤレスセンサーの開発(呼吸数・心拍数・姿勢などのモニター)を行っています。
譲受側企業の概要
譲受側の企業は、日本企業である村田製作所です。主にセラミックスを用いた電子部品の研究・製造・販売などを行っています。会社の連結売上高は1兆6,301億9,300万円 (2021年3月期)、従業員を75,184名 (連結:2021年3月31日現在)抱える大企業です。
M&Aの目的・背景
村田製作所が行ったM&Aの目的は、安定した収入の獲得にあります。村田製作所が取り組む電子部品業は市場の影響を受けやすいため、収益が安定している医療機器の会社・ヴァイオス・メディカルの買収を行いました。
M&Aのプロセス・スキーム
村田製作所は、買収で114億円を支払い、ヴァイオス・メディカルを完全子会社しました。M&A手法は現地の子会社を通じた買収・三角合併です。
ヴァイオス・メディカルの大株主は売却を受け入れる代わりに、所有する自社株50万株強分の現金およそ29億円を得ています。
主要製品と見込まれる医療用の小型センサーは、米食品医薬品局(FDA)から製造認可を受けたばかりです。数年後の販売を目標としたために、買収時点ではインドなどの現場で試験を実施している状況です。
4. M&A成功事例5選!~日本の大企業のシナジー効果〜
ここでは日本の大企業が行ったM&Aから、シナジー効果を生んだ5つの事例を紹介します。企業買収では、販売ノウハウ・販売網・設備などを共有するほか、大量生産によるコストダウンを図れるため、お互いの企業に利益がもたらされるケースが多いです。
- 日本電産による買収
- 大正製薬による買収
- 楽天による買収
- ソフトバンクグループによる買収
- JTによる買収
日本電産による買収
シナジー効果を生んだM&Aの1つ目の成功事例として、2017年2月に日本電産が行ったEmerson Electric Co.(以下エマソン・エレクトリック)のモータ・ドライブ・発電事業の買収を取り上げます。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業であるアメリカのエマソン・エレクトリックは、電気や電子部品の開発・製造・販売を手掛けています。産業向けのほか一般向けにもサービスを提供しており、売上高は2015(平成27)年9月期時点で223億400万ドルです。
譲受側企業の概要
譲受側の企業である日本電産は、小型・大型モータや精密機器や電子部品などの製造・販売を行う大企業です。1980年代からM&Aを実施しており、自社の技術力と買収によって業績を伸ばしてきました。
2021年3月期の連結売上高は1兆6,180億6,400万円、従業員数は117,206名(連結:2020年3月末現在)です。
M&Aの目的・背景
エマソン・エレクトリックの事業を買収した目的は、産業・商業用事業の成長力向上にあります。本件買収前にも2社の企業を買い取っており、世界市場でも基盤を固め、取扱い製品の拡充を行っていました。
本件買収も、成長戦略を進めるための買収といえます。エマソン・エレクトリックは、ヨーロッパと北米に強固な地盤を持つ企業です。
買収を実行に移すことで、該当エリアでの販売事業を獲得して、自社製品と絡めた製品の提供と細かなニーズに応えられる体制を整えました。日本電産は、買収を行うことで関連商品の購入によるシナジーを期待したのです。
大正製薬による買収
成功事例の2つ目として、2016年12月に大正製薬がドクタープログラムを買収した事例を紹介します。本件買収では、大正製薬がドクタープログラムの株式を全て取得して完全子会社化しました。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は日本のドクタープログラムです。美肌をつくる基礎化粧品の開発と販売を手掛けています。買収前である2016年3月期の売上高は1,285百万円であり、従業員数38名の中小企業でした。
譲受側企業の概要
譲受側企業は日本の大正製薬であり、消費者の健康維持を目的としたセルフメディケーション事業や新薬の開発・医薬品の販売事業を行う大企業です。2021年3月期の売上高は1,901億5,600万円、従業員数は2,885人(2021年3月31日現在)となっています。
M&Aの目的・背景
大正製薬がM&Aを行った目的は、通信販売・スキンケア事業の拡大にあります。大正製薬は、セルフメディケーション事業を成長させるために、通信販売の拡充を目標に据えていました。
スキンケア事業は、自社のセルフメディケーション事業と既存製品のシェア獲得で培ったノウハウを生かせると判断しています。対象事業の買収により、短期間での成長が見込めると考えました。他にも、販売網やノウハウの共有によるシナジー効果も期待されています。
楽天による買収
3つ目の成功事例として、楽天が行った買収を紹介します。2016年9月、楽天はフリマアプリサービスを提供するFablicを買収しました。楽天は、Fablicが発行している株式を全て取得して完全子会社化しています。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は日本のFablicであり、個人間の売り買いをサポートするフリマ型の事業を手掛けていました。2017年には日本初となるフリマアプリ「フリル」の提供を開始しており、女性が好む商品を多く取り扱うことで若い年齢層から支持を集めていた企業です。
譲受側企業の概要
譲受側の企業は、日本の楽天です。楽天市場を中心としたインターネットサービスのほか、金融サービスやスポーツ事業などにも取り組んでいます。
2000(平成12)年には店頭上場を果たしており、30の国と地域にサービスを提供するなどグローバルな事業展開を進める大企業です。社内の公用語は英語としており、従業員は連結で23,841名(2020年12月31日現在)が在籍しています。
M&Aの目的・背景
楽天がM&Aを行った目的は、個人間取引の事業強化にあります。M&Aに至った背景としては、フリルが抱える客層の獲得です。楽天はさまざまなジャンルの商品を取り扱っていましたが、特化したジャンルを持っていませんでした。
今後の事業拡大には、500万人を超えるユーザーと女性の支持が必要と考えたために、フリルを買収したのです。
M&Aのプロセス・スキーム
楽天は、自社のフリマサービス「ラクマ」と買収した「フリル」の顧客による相互利用でシナジー効果が得られると期待しました。楽天の予測は見事に当たり、2017年の流通総額は約1,400億円に達しています。
そして、2018年7月、楽天を存続会社とする吸収合併をFablicとの間で行いました。
ソフトバンクグループによる買収
4つ目の成功事例として、ソフトバンクグループによる買収を紹介します。2013年7月、ソフトバンクグループは、アメリカのスプリント・ネクステル・コーポレーションが所有する事業を買収しました。買収額は約1兆8,000億円です。
このM&Aにより、スプリント株の約78%を取得して子会社化しています。
譲渡側企業の概要
譲渡側の企業は、アメリカのスプリント・ネクステル・コーポレーションです。携帯電話や長距離通信事業を行っています。買収前の資本金は、60億1,900万ドル(2012年12月31日時点)でした。
譲受側企業の概要
譲受側企業は日本の大企業であるソフトバンクグループであり、自社では事業を行わない純粋持株会社です。子会社が行う事業には、日本やアメリカでの通信事業・インターネット広告・Eコマースなどがあります。従業員数は58,786名(連結:2021年3月末現在)です。
M&Aの目的・背景
ソフトバンクグループがM&Aを行った目的は、世界における事業基盤の確保と買収事業の強化を図る点にあります。自社の経験を生かせば、アメリカにおけるスプリントの通信事業を強化できると考えました。
ソフトバンクグループは固定通信から移動通信への移り変わりを予測しており、2004(平成16)年には日本テレコムを、2006年にはボーダフォン日本法人をそれぞれ買収しています。
ソフトバンクグループは、日本で培った経験を海外事業に生かせると踏んでアメリカへの参入を決めたのです。
M&Aのプロセス・スキーム
ソフトバンクグループはスプリントを買収したことで日本とアメリカで顧客数トップに躍り出ました(日米合算値)。移動体通信事業の売上高は世界第3位となっており、2014(平成26)年3月期の決算では前期に比べて売上高が3兆4,641億1,500万円も増加しています。
このうち、スプリント買収による効果は2兆6,010億3,100万円です。2018年3月期には、売上高を3兆6,019億6,100万円まで伸ばしています。ソフトバンクグループは、買収によって十分なシナジー効果を得ているといえるでしょう。
JTによる買収
日本の大企業がM&Aによるシナジー効果を得られた事例の1つに、JTによる買収も挙げられます。大企業であるJTは、1999(平成11)年5月に米RJRナビスコの米国外たばこ事業を買収し、2007年4月にはイギリスのギャラハーをM&Aによって獲得しました。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業の1社目はアメリカのRJRナビスコホールディングスであり、たばこをはじめスナック・ビスケットなど食料品の製造・販売を行う会社です。
2社目はイギリスのギャラハーであり、タバコの製造・販売事業を展開してヨーロッパ・アフリカ・中央アジアなどで販売していました。買収当時は、紙タバコの販売数で世界第5位に位置していた大企業です。
譲受側企業の概要
JT(日本たばこ産業)は、たばこ事業を中心とする日本の大企業です。海外に数多くの子会社を置いており、従業員を58,300名(連結:2020年12月31日現在)抱えています。紙タバコにおける世界シェアは第4位であり、日本では第1位でした。
2020年12月期の連結売上高は、2兆925億6,100万円と発表されています。
M&Aの目的・背景
JTがアメリカおよびヨーロッパ市場で買収を行った目的は、市場とシェアの拡大にあります。海外の既存企業を買収してブランド力・販売網・ノウハウなどを共有し、コスト削減や自社のブランドと技術との融合によるシナジー効果獲得を狙いました。
近年は、電子タバコへの進出が遅れたことで株価の低迷を受けていたため、海外市場のブランド強化や新興市場におけるシェア獲得に狙いを定めています。
2016年から2017年にかけては、アメリカのNatural American SpiritやロシアのJSC Donskoy Tabakを買収しています。高価格帯・低価格帯の市場を強化しました。
新興市場に対しては、エチオピア・インドネシア・フィリピン・バングラデシュなど、アフリカ・東南アジアにおけるシェア獲得を図っています。
5. 日本のM&A成功事例5選!~大企業の大型買収〜
ここでは、日本の大企業が行った大型買収事例を5件紹介します。M&Aが成功した要因はどのような点にあったのか、買収企業や買収目的などから成功につなげたプロセスを確認しましょう。
- ビックカメラによるエスケーサービスの完全子会社化
- 住友重機械工業によるイタリアの機械メーカーの買収
- マネックスグループによるコインチェックの買収
- ソニーによる米国Funimationの子会社化
- りそな銀行によるAFC Merchant Bankの全株式取得
ビックカメラによるエスケーサービスの完全子会社化
1つ目の成功事例として、ビックカメラによる株式取得を紹介します。2018年8月、ビックカメラはエスケーサービスを完全子会社化しました。取引には簡易株式交換の手法が用いられました。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は日本のエスケーサービスです。家電の配送・製品の納品・産業廃棄物の収集・運搬のほか、家電の取り付け工事などを行っています。買収前である2017年6月期の売上高は24億8,400万円、純資産として2億1,400万円を計上した中小企業です。
譲受側企業の概要
譲渡側企業は日本で事業を行うビックカメラです。家電製品や白物家電などを販売しています。ビックカメラは、店舗販売のほかネットを通じた通販事業も展開する会社です。
2020年8月期の連結売上高は8,479億500万円であり、社員を9,024名(連結:2020年8月31日時点)抱える有名な家電量販店となっています。
M&Aの目的・背景
ビックカメラが株式交換を行った目的は、配送サービスの向上にあります。エスケーサービスは、首都圏を中心に家電の配送と家電工事を行っている会社でした。自社店舗でエスケーサービスに業務を任せることで、配送サービスの質を向上できると見込んだのです。
家電の取り付け工事も任せられるため、配送から設置に至るまでトータルでカバーでき、販売・配送・取り付けまでの一貫したサービス提供によって利用客増加を図れると考えました。
M&Aのプロセス・スキーム
株式交換比率は、ビックカメラ対エスケーサービスで1:301の割合です。比率を決定する際には第三者機関に算定を依頼しています。示された数字をエスケーサービス側に提示し合意を得たうえで株式交換比率を決めました。
住友重機械工業によるイタリアの機械メーカーの買収
2つ目の成功事例として、住友重機械工業による株式取得を紹介します。2018年6月、住友重機械工業はイタリア企業Lafert S.p.Aの株を取得しました。この株式取得により、Lafert S.p.A.を子会社化しました。
取得額は213憶5,600万円ですが、株式取得時には追加の支払いを盛り込みました。追加支払いの限度額は7億6,900万円としており、2019〜2020年の業績を鑑みてLafert S.p.A.に支払われます。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業はイタリアのLafert S.p.A.であり、産業用のモータ・モーションコントロールの製造や販売を手掛けています。一部機械では顧客の要望に応えた製品を提供しており、機械の自動化や省エネルギー化を進める会社です。
買収前である2017年の売上高は約200億円であり、2017年9月時点の従業員数は796人でした。イタリアのほか、スロベニアや中国にも製造拠点を置いています。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、日本の総合機械メーカーである住友重機械工業です。精密・産業・建設機械の製造や、船舶の建造・販売などを行っています。2021年3月期の連結売上高は8,490億6,500万円、従業員を24,050名(2021年3月31日現在)抱える大企業です。
M&Aの目的・背景
住友重機械工業による株式取得の目的は、顧客満足度の向上・ヨーロッパ市場の強化・技術の共有によるシナジー効果獲得などにあります。Lafert S.p.A.はヨーロッパの広大な市場において、顧客との強いつながりを形成していました。
顧客の求めに応じたカスタム品の提供も行えるほど高い技術力を持っています。住友重機械工業はこのM&Aにより、満足度の高い製品や特殊な機器の提供だけでなく、ヨーロッパにおける生産拠点の確保・技術の向上・事業領域の拡大などを進めようとしました。
マネックスグループによるコインチェックの買収
3つ目の成功事例として、マネックスグループによる買収を紹介します。2018年4月、マネックスグループは仮想通貨の取引業を行うコインチェックを買収しました。買収額は36億円で、株式を全て取得してコインチェックを完全子会社化しています。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、有名な仮想通貨「ビットコイン」の取引所などを運営する日本のコインチェックです。2017年にはビットコインの取引高で日本一を記録しています。買収前には、社員105名で事業を行っていました。
譲受側企業の概要
譲受側企業は日本のマネックスグループであり、金融事業会社の株式を所有する持株会社です。傘下の企業には国内外で事業を営むネット証券があり、ベンチャー企業への投資事業などを行っています。2021年3月期の連結売上高は779億500万円です。
M&Aの目的・背景
マネックスグループがM&Aにより株式を取得した目的は、仮想通貨交換業に将来性を見いだした点にあります。成長が見込める仮想通貨の交換業から、特に利用者の多いコインチェックを買収先に選びました。
自社の知識や経験とコインチェック側が持つ仮想通貨ノウハウの融合により、成長を早められると考えています。コインチェックが業務改善命令を受けた仮想通貨NEMの不正送金問題もありましたが、経営管理体制・内部管理体制の改善を図っています。
マネックスが全面的にバックアップし、金融業で培った管理能力や顧客へのサポート力により、継続した仮想通貨の交換業が営めると発表しました。
M&Aのプロセス・スキーム
マネックスグループは、コインチェックに対して条件付きで追加の対価支払いを行います。支払額の上限は、2021年3月までの3年間に計上された純利益の合計額の半分としました。リスクが生じる可能性を鑑みたうえで、追加による支払いを取引条件に加えています。
ソニーによる米国Funimationの子会社化
4つ目の成功事例として、ソニー(Sony Pictures Television Networks)が行った買収を紹介します。2017年8月、Sony Pictures Television NetworksはFunimation Productions, Ltd.を買収しました。
売却される株式は全体の95%に及び、売却額は約165億円と発表されています。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業はアメリカのFunimation Productions, Ltd.であり、英語版のアニメなどを配給する会社です。日本アニメのライセンスや多数のタイトルを抱えており、北米エリアでは有名な配給会社として知られています。
数ある事業の中でも、特にストリーミング配信サービス「FunimationNOW」が有名です。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、Sony Pictures Television Networksです。アメリカ企業であるSony Pictures Television Inc.が抱える1つの部門に位置しています。
展開する事業はテレビチャンネルの運営であり、世界各国に拠点を置いて親会社であるソニー・ピクチャーズエンタテインメントの番組や他社の番組・映画などの配信を行っている会社です。
M&Aの目的・背景
Sony Pictures Television NetworksがM&Aによる株式取得を行った目的は、アニメ配信先の増加にあります。
買収したFunimation Productions, Ltd.は、さまざまな媒体でアニメ配信事業を展開しており、PlayStation®Store・Google Play・Amazon Appsのほか、モバイル端末で視聴できる「FunimationNOW」などの配信サービスも手掛けている会社です。
Sony Pictures Television Networksは、これらの媒体を利用して、さらにサービスの利用者拡大を図れると考えました。Funimation Productions, Ltd.も買収側が展開する媒体を利用して顧客を増やせると判断していました。
テレビやデジタルチャンネルのサービス強化を図ったために、M&Aによる買収が成立した事例です。
りそな銀行によるAFC Merchant Bankの全株式取得
日本の大企業による成功事例の5つ目として、2017年7月のりそな銀行によるシンガポールのAFC Merchant Banの買収を紹介します。本件買収では、全ての株式を取得して完全子会社化しました。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、シンガポールに拠点を置くAFC Merchant Bankです。東南アジアのシンガポール・マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピンの金融会社が中心となり設立されました。資本金は、約55億3,700万円です。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、日本のりそな銀行です。りそなホールディングスの子会社であり、有人店舗数326店、店舗外ATMは556カ所、設置しています(2021年4月1日現在)。
M&Aの目的・背景
りそな銀行が買収を行った目的は、日系企業に対する金融サービスの提供にあります。アジア地域ではインドネシア・シンガポール・バンコック・ホーチミン・上海・香港に事務所を置いています。しかし、東南アジアまでサポートが行き届いていない状況にありました。
AFC Merchant Bankの買収により、シンガポールを中心に、マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピンへの金融サービスを提供しています。
トヨタによるマツダとの資本提携
3つ目の成功事例として、トヨタとマツダの資本提携を紹介します。両社は2017年8月、マツダの第三者割当増資をトヨタが、トヨタの第三者割当による自己株式をマツダがそれぞれ引き受けることで関係強化を図りました。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、日本のマツダです。ガソリンレシプロ・ディーゼルエンジンを搭載した乗用車や、トラックの製造・販売などを行っています。国内外に生産拠点と販売会社を置き、従業員数は連結で50,479人(2020年3月31日時点)です。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、日本のトヨタ自動車です。自動車の生産と販売を行う大企業であり、世界中で事業を展開しています。国内外に研究・生産・販売拠点を構えており、従業員数は連結で359,542人(2020年3月末現在)です。
M&Aの目的・背景
本件M&Aは、業界変化に対応するために実施されています。資本提携により、両社の独自性を高めることが主な目的です。資本提携の具体的な内容は以下の4項目となります。
- アメリカでの合弁会社設立
- 共同で行う電気自動車の技術開発
- マルチメディアシステムと安全運転を支援する技術の開発・連携
- 国内における小型商用車の供給(マツダからトヨタへ)
M&Aのプロセス・スキーム
両社は第三者割当増資・第三者割当によって、それぞれ株式を引き受けました。本件取引によって得られた資金は、共同で設立する合弁会社の設備資金として使用されます。
6. 中小企業のM&A成功事例
ここでは、中小企業によるM&Aの成功事例10件を紹介します。
- 多角化を目指したM&A成功事例
- 垂直統合を図ったM&成功A事例
- 事業譲渡を実現したM&A成功事例
- 事業承継せずM&Aを選んだ成功事例
- 家庭の都合をM&Aで解決した事例
- ITシステム開発会社のM&A成功事例
- 運送業のM&A成功事例
- 金属プレス加工メーカー同士のM&A成功事例
- 飲食事業のM&A成功事例
- 異業種へのM&A成功事例
①多角化を目指したM&A成功事例
M&Aの仲介業者を間に入れた中小企業の成功事例を紹介します。合成樹脂材料と製品販売を行うA社は、男性用のカジュアルシャツを製造するB社を買収しました。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業であるB社は、中部地区で男性用のカジュアルシャツを製造する中小企業です。資本金は4,000万円で、売上高は20億円ほどの規模を持っています。抱える従業員は20名であり、経営者が高齢のために後継者を社外に求めていました。
譲受側企業の概要
譲渡側企業のA社は、中部地区で合成樹脂材料および製品の販売を行う中小企業です。資本金は3,000万円、売上高は100億円程度の商社であり、アパレルに関連した事業を拡大する目的のもと買収先企業を探していました。
M&Aの目的・背景
B社はM&Aの仲介業者に依頼して、事業承継が行える譲渡先を探しました。該当する会社が見つかり交渉を進めましたが、社内整備などが行えないことを理由に中止していたのです。
その一方でA社は、アパレル事業の買収先を求めていました。仲介業者から両社が引き合わされたことで交渉がスタートし、基本合意・デューデリジェンスを経て譲渡契約に至っています。
M&Aのプロセス・スキーム
A社はB社の株式を全て取得しており、B社の取引先・従業員・不動産をそのまま引き継ぎました。B社のオーナーは、引き継ぎ後に社長職を引退しています。
B社の社員たちからの反発を予想したため、B社の営業部長を取締役に据えたうえで、A社の社長がB社の代表取締役として就任しました。
わずか2カ月ほどで譲渡契約に至った理由は、オーナーを除いた株主たちに作成してもらった株式譲渡の委任状があったためです。交渉する人物をオーナーに限定したため、長期間に及ぶ交渉を避けられました。
②垂直統合を図ったM&A成功事例
M&Aにより製造品の一貫した供給体制を整えた事例を紹介します。遊戯機器の製造・販売を行うC社は、ソフトウエア開発を事業とするD社を買収しました。C社は、M&Aにより株式の全てを取得したうえで、D社を子会社化しています。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、九州に拠点を置くD社です。事業内容はソフトウエア開発であり、大手からの受注を受けて事業を行っています。資本金は2,000万円で、売上高は1億5,000万円でした。20人の従業員で構成される中小企業です。
譲受側企業の概要
譲受側企業は関東で事業を営むC社であり、遊戯機器の製造と販売を行っています。資本金は5,000万円で、売上高はおよそ250億円、150人の従業員を擁する中小企業です。
M&Aの目的・背景
D社は安定した経営を目指すべく一度、大手のグループ傘下に入る資本提携を行っていました。しかし、求めていた受注量・受注環境に至らなかったため提携を解消し、新たな提携先を探しています。
C社は企業の成長を図るため、機械の製造・開発に加えて、システム開発事業への進出を検討していました。ソフトウエア開発から製品製造までを一貫して行えれば、フレキシブルな対応ができると判断しました。
M&Aのプロセス・スキーム
D社は新たな提携先を求め仲介業者へ依頼して数社と交渉を行いましたが、条件が合いませんでした。そこへ九州に関連会社を持つC社と出会って交渉を開始し、現地への視察などを経て譲渡契約を結んでいます。
契約が合意に至った理由は、両者の求める条件にありました。D社の経営者は引退するには若く、譲渡後も経営に携わることを希望している人物です。
C社は経営権の獲得を希望していましたが、雇用継続する社員たちや取引先との関係などを鑑みて、買収後もD社の経営者に会社のかじ取りを任せたいと考えました。そのため、交渉やデューデリジェンスも滞りなく進み、譲渡契約を完了させています。
③事業譲渡を実現したM&A成功事例
M&Aによる事業譲渡事例を紹介します。通信・電子機器の販売を行うE社は、飲食業を展開するF社から一部店舗を事業譲渡によって取得しました。
譲渡された事業はE社が出資する100%子会社へ移されたうえで、事業の継続が決まっています。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、東京に拠点を構える飲食店のF社です。複数の店舗を経営しており、和食ジャンルを中心に出店を行ってきました。売上高は3億円で、10人の従業員を抱える中小企業です。
譲受側企業の概要
譲受側企業は関東を中心に通信・電子機器を販売するE社です。携帯・PCの販売により事業拡大を行ってきました。売上高はおよそ100億円で、従業員の数は200名です。
M&Aの目的・背景
F社は、出店場所の選択や外食産業の好調な流れに乗って店舗数を増やしていました。しかし度重なる出店により、開業資金などの借金がかさんだことで苦しい財政事情を抱えていたのです。
その一方で、E社は事業の多角化に乗り出しており、通信・電子機器の販売のほかにサービス業への進出を画策していました。これまでの経営スキルを生かせるとして、飲食業の買収を検討していたのです。
M&Aのプロセス・スキーム
はじめに、F社がM&A仲介業者に相談を持ちかけました。希望する条件(譲渡する店舗はシナジー効果への関与が少ないところ)を提示して、買収候補を待ったのです。
いち早く名乗りを上げたE社とコンタクトを取り、交渉を開始しました。F社は一刻も早く資金を調達したかったため、E社とのみ交渉を進めています。
条件の折り合いがついたことで、事業譲渡契約を締結しました。設備・在庫・資産を引き継いだうえで、従業員の雇用・取引先との契約を改めて結び直しています。
④事業承継せずM&Aを選んだ成功事例
事業承継せずM&Aを選んだ事例を紹介します。金属加工業を営むG社は、地方進出と工場の拡大を検討する同業大手のH社へ会社を売却しました。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、金属加工業のG社です。顧客の要望に合わせた製品の加工により、生産数を抑えた製品づくりを行ってきました。G社は周囲の工場からの信頼が厚く、強い経営地盤が確立されていた会社です。
譲受側企業の概要
買収側の企業は大手の金属加工H社であり、G社と同じ事業を展開しています。
M&Aの目的・背景
G社の経営者は、後継者を見つけられずにいました。子どもたちはそれぞれ独立し、自身が還暦を迎えていたことと、経理を担当していた妻が体を壊したことで、M&Aによる買収を検討していたのです。H社は、事業拡大のため、地方に新たな工場の設置を考えていました。
M&Aのプロセス・スキーム
G社は、会社の売却先を求めて信用金庫へ相談して候補者を探しました。しかし、なかなか見つからず、1年半後にようやくH社と出会ったのです。交渉から契約まではスムーズに進み、短期間での売却が完了しました。
従業員の雇用と取引先との関係も継続させています。H社が提供する職場環境や待遇によって従業員に良い環境を与えられたほか、懇意にする取引先への影響もありませんでした。
会社の売却が成立した要因は、G社が所有する金属加工の技術にあります。廃業を考えていても必要とする第三者が見つけてくれれば、会社売却は可能なのです。
⑤家庭の都合をM&Aで解決した事例
家庭の事情によりM&Aを選択した事例を紹介します。ネイルサロンを経営するI社は、健康食品を販売するJ社に対して会社売却を行いました。会社の売却には、株式譲渡が選ばれています。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、東京でネイルサロンを運営するI社です。売上高1億5,000万円の中小企業であり、会社の経営者は既婚者で子どもを抱える主婦でした。
譲受側企業の概要
会社を買収した企業は、東京で健康食品の販売業を営む中小企業J社です。
M&Aの目的・背景
I社の経営者は、第2子の出産を望んでいました。そこへ夫の転勤が重なり、家庭と事業の両立は不可能と判断したため、M&Aによる会社売却を希望したのです。
J社は、健康食品の販売のほかにネイルサロン業への事業進出を検討していました。自社で新たに事業をはじめるより、リスクの少ないM&Aを希望し、買収先を探していたのです。
M&Aのプロセス・スキーム
I社は、M&Aの仲介業者に会社売却を相談しました。提示した条件は、従業員に対するきめ細かな対応・スムーズな売却・譲渡額の下限を提示するなどです。
その後、仲介業者を通じてJ社が紹介されました。I社の条件に合致したことで売却が決定し、契約締結までの期間は約2カ月と短期間での会社売却を実現しています。
⑥ITシステム開発会社のM&A成功事例
独立会社であるK社が、持株会社であるL社に株式譲渡した事例です。
譲渡側企業の概要
K社は、広島県でITシステム開発を行っている会社です。
譲受側企業の概要
L社は、傘下にインフラ系のシステム開発会社4社と複数事業を展開する事業会社6社を持つ持株会社でした。
M&Aの目的・背景
K社の目的は、M&Aによる事業承継です。一方、L社は事業の拡大・拡張を目的に、傘下に加える新たな事業会社を探していました。
M&Aのプロセス・スキーム
株式譲渡によって、K社はL社の傘下に加わりました。L社では、グループ横断でプラットフォームを構築する新事業展開に向け、K社の開発力に期待しています。
⑦運送業のM&A成功事例
運送業者であるM社とN社による、M&Aの成功事例です。
譲渡側企業の概要
1984年創業のM社は有限会社で、輸出入貨物・産業廃棄物の処理・事務所の移転・引越などを請け負う運送業を行っています。当時の経営者は2代目でした。
譲受側企業の概要
N社は、運送業者として海上・航空輸送、通関ロジスティクスサービスを行っている会社です。
M&Aの目的・背景
M社の経営者は間もなく70歳と高齢であるにもかかわらず、後継者不在の状態が続いていました。そこで、M&Aによる事業承継を決断したのです。N社は事業拡大のため、同業者を探している最中であり、両社の思惑が合致しました。
M&Aのプロセス・スキーム
M社とN社は、M&Aのマッチングサイトで出会っています。交渉後、株式譲渡を実施しM&Aが成立しました。
⑧金属プレス加工メーカー同士のM&A成功事例
ともに金属プレス加工を行っているO社とP社によるM&A成功事例です。
譲渡側企業の概要
O社は、埼玉県で金属プレス加工を行っている会社です。
譲受側企業の概要
P社は、千葉県で金属プレス加工を行っている会社でした。
M&Aの目的・背景
O社の経営者は年齢が70代に達しており、近々引退するのを決定しましたが、後継者不在での廃業を免れるため、M&Aによる事業承継を決意しました。P社は、事業を拡大し会社を成長させるためにM&Aでの規模拡張を図ったのです。
M&Aのプロセス・スキーム
O社とP社もマッチングサイトで巡り会っています。交渉後に株式譲渡が成立し、O社はP社の子会社となりました。O社の社名は、そのまま継続されています。
⑨飲食事業のM&A成功事例
飲食事業を行ってきたQ社とR社によるM&A成功事例です。
譲渡側企業の概要
Q社は、本場インド料理店7店舗を運営しています。
譲受側企業の概要
R社は、カレー・チェーン店の運営、カレー商品の開発・販売を行っている会社でした。
M&Aの目的・背景
Q社は、手作りの自社商品をデパートなどに卸していましたが、売れ行きは不調でした。そのため、販売力のある相手に自社工場を含めて事業ごと売却することを決意したのです。
一方、R社は、インドカレー事業をブランド展開する中で、ハラール料理に対応できる工場を探していました。Q社の工場はハラール料理に対応可能であり、両社のマッチングが実現したのです。
M&Aのプロセス・スキーム
Q社の自社工場と展開する商品を含めた事業譲渡が、R社との間で締結されています。
⑩異業種へのM&A成功事例
旅館Sと写真スタジオTによる異業種間のM&A成功事例です。
譲渡側企業の概要
旅館Sは、静岡県の伊豆地方にある旅館です。予約が取れない旅館として、旅行好きには知られた存在でした。
譲受側企業の概要
写真スタジオTは、写真スタジオだけでなく結婚式場の運営も行っています。
M&Aの目的・背景
旅館SのM&Aの目的は、後継者不在によるM&Aでの事業承継です。一方、写真スタジオTは、結婚式場運営事業の業績が不調で、思い切って異業種への転換を決意しました。
M&Aのプロセス・スキーム
旅館Sは旅館業について、事業譲渡のスキーム(手法)で写真スタジオTと成約しました。M&A後、写真スタジオTは、通常の旅館業だけでなく、旅館全体を使った結婚式の運営や、旅館にウエディングフォトスタジオを設営するなど、事業が成功しています。
7. なぜ?M&Aに失敗するケースの特徴
数多くの成功事例を紹介しましたが、M&Aは失敗に終わってしまうケースも少なくありません。個々のケースにより、その理由はさまざまですが、買い手側に共通する特徴としては、以下の3点が挙げられます。
- 想定していた効果が得られない
- 現地でトラブルに巻き込まれる
- 従業員の離職が発生する
①想定していた効果が得られない
M&Aで買い手が期待する効果とは、シナジー効果により買い手と売り手双方の事業の業績が向上するものです。しかし、PMI(Post Merger Integration=M&A後の経営統合プロセス)がうまくいかないなどで、思ったような業績向上が果たせない場合があります。
M&A時のデューデリジェンス(売り手企業の精密監査)は、売り手企業の事業計画やその事業の市場動向など外部環境を十分に精査しなければなりません。想定外の下方修正となることもよく見かけられます。
②現地でトラブルに巻き込まれる
近年、実施件数が増してきているクロスボーダーM&Aの場合、国内企業と同じような感覚でM&Aを行っていると、思わぬトラブルに遭うケースも報告されています。海外では、法規制や許認可、商慣習など、日本と同じではありません。
その地域の法規制や許認可、商慣習を十分にリサーチせずにM&Aを行うと、ビジネスを進める際に、現地で想定外のトラブルに巻き込まれてしまいます。業績を上げるどころではなくなるケースがあります。
③従業員の離職が発生する
売り手企業の事業計画は、その時点で在籍する社員が従事することが前提での立案です。したがってM&A実施時は、売り手企業の経営者にも協力してもらい、M&A後も従業員が会社にとどまる、あるいは買い手企業に移籍するよう説得するのが必要になります。
売り手企業の従業員にとって、M&Aは今後のことを考える契機となったり、あるいは不安や不満を感じたりするなど、離職しやすい心情になりがちです。特に事業を担うキーパーソンが離脱した場合には、事業は想定どおりには進まず、売上も大きく下がってしまうでしょう。
8. M&Aの失敗事例10選!
ここでは、M&Aで起こった実際の失敗例を紹介します。10の事例から、どのような原因で失敗に至ったのかを確かめてみましょう。
- LIXILによるグローエの買収
- セブン&アイホールディングスによるニッセンの買収
- 日本郵政によるトール・ホールディングスへの投資
- マイクロソフトによるノキアの買収
- 丸紅による穀物大手ガビロンの買収
- キリンホールディンググスによるスキンカリオールの買収
- パナソニックによる三洋電機の買収
- 第一三共によるランバクシーの買収
- 古河電工によるルーセント・テクノロジーズの買収
- 富士通によるICLの買収
①LIXILによるグローエの買収
1つ目の具体例として、LIXILによる買収事例を紹介します。2017年1月、LIXILはドイツのグローエの株式を87.5%取得しました。本件買収によって、グローエとその子会社ジョウユウを関連会社としています。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、有名なドイツのグローエです。従業員はおよそ9,000人で、水栓金具メーカーの中ではヨーロッパで随一の規模を誇ってきました。高い品質とデザイン性に特徴があり、130を超える国々で製品を販売しています。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、日本の有名企業であるLIXILです。2001(平成13)年に設立した会社であり、住宅のリフォーム・設備・建材関連の事業を行っています。資本金は684億1,800万円で、従業員数は59,360人(連結・2020年11月現在)です。
損失額
2014年3月期から2016年3月期の期間で、ジョウユウの不正会計による損失額は約660億円と報告されています。
M&A失敗の要因
買収が失敗に終わった原因は、リスク管理の不備にあります。LIXILは買収によって、グローエとその子会社・ジョウユウを取り込みました。ジョウユウは中国人がトップを務める企業です。
中国ではトップによる不正会計が珍しくないため、こうした企業を買収する場合には、徹底した調査が必要でした。しかし、グローエは子会社の調査を怠りつつ、ジョウユウを子会社化しています。
そこへLIXILが買収に乗り出したため、買収先の子会社が抱える不正会計をそのまま取り込んで多額の損失を被ったのです。
②セブン&アイホールディングスによるニッセンの買収
2つ目の具体例として、2016年8月に行われたセブン&アイホールディングスによるニッセンホールディングスの買収事例を紹介します。セブン&アイホールディングスは、ニッセンホールディングスの株式を全て買い取り完全子会社化しました。
譲渡側企業の概要
株式の交換に応じた企業は、日本のニッセンホールディングスです。女性向けの衣料品や雑貨の通信販売を中心に、レディース服の店舗販売などを運営しています。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、日本のセブン&アイホールディングスです。有名な持株会社であり、コンビニ・スーパー・デパート・飲食・金融サービス事業などを傘下に収めています。資本金500億円、135,332人(連結・2021年2月末現在)もの従業員を雇用する大企業です。
損失額
2016年2月期におけるセブン&アイホールディングスの通信販売事業は、84億51百万円の営業損失を計上しました。
M&A失敗の要因
セブン&アイホールディングスが買収に失敗した要因は、カタログ通販の行き詰まりにあります。購入時機を逸したカタログの配布や不十分な品揃え、ファストファッション台頭によるブランド価値の喪失などにより、通販事業は赤字が続いていました。
親会社であるセブン&アイホールディングスの能力を十分に使えていなかったことも要因の一つです。オムニチャネルの戦略に加われず、相互利用の顧客を獲得できませんでした。
③日本郵政によるトール・ホールディングスへの投資
3つ目の具体例として、日本郵政による買収事例を紹介します。2015年5月、日本郵政はオーストラリアのトールの株式を全て取得しました。本件買収によって、日本郵政はトールを子会社化しています。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、オーストラリアのトールです。メルボルンに本社を置き物流事業を展開しています。資本金が29億7,700万豪ドルであり、2014年6月期の純資産は連結で27億3,300万豪ドルです。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、日本郵政です。日本のグループ企業であり、郵便・銀行・生命保険業を行っています。資本金は3兆5,000億円、従業員数は2,031名(2020年3月31日現在)です。
損失額
2017年3月期における日本郵政の損失額は4,003億円でした。赤字は400億円です。
M&A失敗の要因
日本郵政の買収が失敗に終わった要因は、資産価値を正しく評価できていなかった点にあります。中国やオーストラリアの経済が低迷したことや、固定費のコストが削減できなかったことなどにより、資産価値が見直されて4,003億円の特別損失を計上するに至りました。
④マイクロソフトによるノキアの買収
具体例の4つ目として、マイクロソフトによる買収事例を紹介します。2014年4月、マイクロソフトはフィンランドのノキアから携帯電話事業を買い取りました。買収額はおよそ72億ドルです。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、フィンランドのノキアです。主な事業として、携帯電話の通信設備・IoT・ネットワークサービスなどを手掛けています。
譲受側企業の概要
譲受側企業はアメリカのマイクロソフトであり、ソフトウエアやタブレット端末などの開発・販売などを手掛けている有名企業です。2017年6月期の売上高は233億2,000万ドルを計上しています。
損失額
2015年、マイクロソフトが買収した携帯電話事業は約76億ドルの評価損を計上しました。
M&A失敗の要因
マイクロソフトが買収に失敗した要因は、スマートフォン市場のシェアが低かった点にあります。3%の市場シェアにより赤字が続いたため、マイクロソフトは携帯電話事業を売却してノキアを手放しました。
⑤丸紅による穀物大手ガビロンの買収
失敗事例の5つ目として、丸紅が行った買収を紹介します。2013年7月、丸紅はアメリカのGavilon Holdings, LLC(以下ガビロンという)が持つ2つの事業を持分譲渡契約により取得しました。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業はアメリカのガビロンであり、穀物・肥料・エネルギー分野などで仲介を行っています。買収前である2011年12月期の売上高は178億5,220万ドル(連結)です。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、日本の有名企業である丸紅です。食料・繊維・資材・紙パルプ・化学品などの輸出入を中心に事業を展開しています。丸紅は国内と海外を合わせて133の拠点を持っており、従業員数は4,389名です。
損失額
丸紅は、買収後の2015年3月期連結決算で、1,200億円の減損損失を出しています。
M&A失敗の要因
失敗の要因は、中国への穀物輸出に制限が加わった点にあります。中国は、丸紅とガビロンによる市場の寡占化を危惧しました。両社が手を組めば、中国国内における穀物の安定供給に支障が生じる可能性があるためです。
そこで、中国商務省は丸紅のガビロン買収を許可する代わりに、大豆の輸入と販売業務を独立して行うよう命じました。これにより、ガビロンは中国での事業が思うように運ばず、事業がもともと持っていた価値を低下させる結果となったのです。
⑥キリンホールディンググスによるスキンカリオールの買収
6つ目の具体例は、キリンホールディンググスによる買収事例です。2011年8月、キリンホールディンググスはブラジルのスキンカリオールを買収しました。
スキンカリオールの株式を所有するアレアドリの株を全て買収したことで、キリンホールディンググスはスキンカリオールを子会社化しています。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、ブラジルのスキンカリオールです。ビール・清涼飲料業を営む企業であり、ブラジル国内でのビールのシェアは2位、炭酸飲料では3位のシェアを誇っています。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、日本の有名企業であるキリンホールディングスです。国内外で飲料事業を展開しており、資本金1,020億4,579万3,357円、従業員数は連結で31,151名(2020年12月31日現在)です。
損失額
譲り受けた事業の価値を見直した結果、減損損失は約1,412億円に達すると報告しました。
M&A失敗の要因
キリンホールディングスがM&Aに失敗した要因としては、ブラジルの景気が落ち込んだことによる消費減少や、ライバル企業との競争激化、そして、ブラジルの通貨が安くなったことなどが挙げられます。
上記の要因によって売上が減少したため、事業価値を再評価したところ大幅な評価損を計上する事態となったのです。
⑦パナソニックによる三洋電機の買収
具体例の7つ目として、パナソニックによる三洋電機の買収事例を紹介します。2010(平成22)年10月、パナソニックは、株式公開買付けにより三洋電機を連結子会社化しました。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は日本の三洋電機であり、取り組む事業には電気・電子機器の製造と販売などがあります。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、日本のパナソニックです。家電・住宅・車載・B2B事業などを展開しています。資本金2,590億円、グループ会社数582社、従業員数は24万3,540人(2021年3月31日現在)です。
損失額
2012年3月期の連結決算で、パナソニックは7,721億円の赤字を計上しました。
M&A失敗の要因
パナソニックがM&Aに失敗した要因は、リチウムイオン電池事業の価値が下がった点にあります。円高とウォン安によりリチウムイオン電池の価値が3割ほど下落してしまい、赤字が続きました。
三洋電機との間で利用できる技術が少なかった点も、買収が失敗に終わった要因に挙げられます。
⑧第一三共によるランバクシーの買収
8つ目の具体例として、第一三共による買収事例を紹介します。第一三共は、2008(平成20)年6月から11月にかけインドのランバクシー社の株式63.9%を取得しました。
株式取得にあたっては、公開買付け・第三者割当増資・新株予約権のほか、創業者一族からも株式を買い取っています。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業はインドのランバクシーであり、デリーなどに拠点を構える製薬会社です。ジェネリック医薬品の開発・製造・販売などを行っています。ランバクシーは国内外に製造拠点や子会社を置いており、買収当時は約12,000人の従業員を抱えていました。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、日本の第一三共です。有名な製薬会社であり、医薬品の研究・開発・製造・販売事業を営んでいます。資本金は500億円、グループ全体の従業員は約16,000人です。
損失額
2009(平成21)年3月期に、第一三共は3,500億円の評価損が出たことを報告しています。
M&A失敗の要因
第一三共が買収に失敗した要因は、ランバクシーの医薬品に輸入禁止命令が出た点にあります。医薬品のデータ管理に問題が見つかったため、米国食品医薬品局から指摘を受けてしまいました。
以前にも抗生物質の扱い方に問題があるとして同局から問題点を指摘されていましたが、改善に至っていなかったのです。輸入禁止は第一三共が買収を発表した後だったため、多額の減損損失を強いられました。
⑨古河電工によるルーセント・テクノロジーズの買収
具体例の9つ目として、古河電工による買収事例を紹介します。2001(平成13)年11月、古河電工は、アメリカのルーセント・テクノロジーズから光ファイバ部門を買収しました。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、アメリカのルーセント・テクノロジーズです。アメリカのAT&Tから独立した企業であり、情報・通信業を展開していました。
譲受側企業の概要
譲受側企業は、日本の古河電工です。資本金は693億9,500万円、従業員数は48,449名(連結:2021年3月末時点)となっています。展開する事業は、エネルギー伝送や光ファイバに代表される通信事業・自動車や電子部品の開発事業などです。
損失額
2004年3月期に、古河電工は1,000億円の評価損を計上しました。
M&A失敗の要因
古河電工が買収に失敗した要因は、北米エリアの不況にあります。光ファイバによる通信が好調だったため、3年間で900億円もの設備資金を投じました。しかし、不況に陥ったことで、2002(平成14)年に多額の赤字を計上してしまったのです。
獲得した光ファイバ事業は、買収後に4期続けて赤字を出しました。
⑩富士通によるICLの買収
10個目の具体例として、富士通によるICLの買収事例を紹介します。1990(平成2)年11月、富士通は1,890億円でICLの株式80%を取得し子会社化しました。
譲渡側企業の概要
譲渡側企業は、イギリスのICLです。国策IT企業であり、3社が合併して誕生しました。
譲受側企業の概要
譲受側企業は日本の富士通です。PCや携帯電話の製造・販売、電子部品やITを利用したソリューションなどのICTサービスを行っています。2020年度の連結売上収益は3兆5,897億円、従業員数は126,400名(連結:2021年3月末現在)です。
損失額
2007年3月の単独決算で、富士通は約2,900億円の評価損が出たことを発表しています。
M&A失敗の要因
富士通の買収が失敗した要因は、純資産の低下と子会社事業の上場中止が重なった点にあります。ドイツ企業や北欧ビジネスの買収などを続けた結果、富士通の純資産は著しく低下しました。
買収した子会社を上場させれば株式の売却益が得られるため、投資簿価を下回ることはないと捉えていたのです。しかし、海外にITサービスを広げるには子会社として抱える方が得策と判断して上場を見送ったため、約2,900億円の評価損を計上しました。
9. M&Aの目的とは?
ここではM&Aを実施する際の目的に関して、買い手・売り手ごとに分けて解説します。
買い手側の目的
M&Aを用いて買い手が買収を行う代表的な目的には、以下の3つが挙げられます。
- 規模の経済
- 範囲の経済
- 多角化経営
規模の経済
買い手が望む目的の一つに、規模の経済があります。簡単にいうと、多くの製品を作って製造にかける費用を抑えることです。生産費用を抑えられれば多くの収益が得られるため、企業は同業他社の買収・合併を画策します。
買収・合併される企業は、同業他社の中でも、自社のエリア外で小規模の会社が対象となりやすいです。同業でエリア外の会社を買い取ると、企業が所有する生産・販売エリアを拡大できます。
規模の小さい会社であれば数社まとめて買い取ることも可能です。規模の経済を実現しやすいといえるでしょう。
範囲の経済
2つ目の目的は、範囲の経済の獲得です。範囲の経済とは、一つの企業が複数の製品・サービスを生産した方が、別々の企業でひとつひとつ作るよりも、コストや無駄を抑えられることを意味します。
一つの企業で生産を行えれば、設備や資源の共有が図れます。近年ではこれを目的に買収や合併を行う企業も多いです。中間素材などの製造が自社で賄えることも目的の一つです。他社への依頼費用や運搬時間のロスを減らすために他社を買収するケースもあります。
買収先企業には、いわば自社の川上・川下に位置する会社を選ぶケースが多く見られます。資源調達・研究開発などを強化したり、販売部門を新たに加えたりして、企業の垂直統合を図る仕組みです。
多角化経営
3つ目に挙げられる目的は多角化経営です。新しい事業を始めるとき、M&Aによって既存企業・事業を買収すれば、新規参入への費用・時間・リスクを減らせます。エリア外や海外への進出では、土地の風土・ルール・許認可などの問題に悩まされるケースが多いです。
ゼロから事業を始めると、多大なコストの支払いを余儀なくされることもあります。買収を行い、進出先で事業を営む企業を獲得できれば、短期間で人材やノウハウを得ることが可能なのです。
売り手側の目的
会社や事業の一部を売却する企業は、どのような目的で会社を手放すのでしょうか。一般的に売り手側は、以下4つの目的からM&Aを行っています。
- カーブアウト
- 事業承継
- 会社の存続
- 売却利益の獲得
カーブアウト
売却する企業の目的の一つに、カーブアウトがあります。カーブアウトとは、子会社や事業の一部を切り離して、新しい会社を作る経営戦略です。大企業の場合は、子会社・事業のさらなる成長を求めるために、会社などの譲渡が行われます。
会社を独立させることで新しい資本や経営陣が加わるため、所有する技術・ノウハウの正当な価値を引き出せるのです。カーブアウトは、新会社創設のほかノンコア事業を切り離すときにも活用されます。
事業の選択を行って、人材・設備・得られた売却益をコア事業に集中させることも目的です。
事業承継
売却する目的の2つ目は、事業承継です。今後の経営を任せる人材が見つからない場合、M&Aによる事業承継を行い、第三者へ会社を譲ることで会社を引き継げます。親族内での承継が難しい場合にも、M&Aを利用すれば事業承継が可能になるのです。
子どもや親族に経営権を譲ると個人保証や相続税などの負担がかかるため、身内で引き継ぎを希望する人物が現れないケースも往々にしてあります。親族内で後継者が見つからないケースでは、第三者に会社を売却する事業承継が有効策です。
会社の存続
売り手側が望むM&Aの目的には、会社の存続も挙げられます。資金力に乏しい中小企業の中には、たとえ優れた技術やノウハウがあっても、実際の利益につなげられていないケースも見受けられます。
会社を売却し、グループ企業として大企業の傘下に加われば大手資本を利用可能です。必要な資金を得て財務状況を改善できれば、研究開発や特許技術などを生かした新商品の開発も夢ではありません。
売却利益の獲得
売却利益そのものの獲得も、売却を希望する経営者の目的となるケースがあります。M&Aによる売却は、会社や事業を買い手に譲り渡す取引であるため、売り手は売却利益の獲得が可能です。
獲得した売却利益は、引退後の生活資金として活用できるほか、ほかの事業への投資資金にも充てられます。最近では、サラリーマンの定年よりも早いタイミングで引退を希望する経営者が増加傾向です。
売却行為による創業者利益の獲得を狙って、自社および自社事業を売却する経営者も多いのが実情です。
10. M&Aの成功事例まとめ
買収・合併を成功させるには、買収前の準備はもちろん、買収後も十分に注意しておくべき点があります。これから買収や合併に取りかかる場合には、失敗した実例にも目をとおしておくようにしましょう。
M&Aで会社の売却を考えるなら、信頼できる仲介会社を探すことも重要です。仲介会社を選ぶときは、自社に合った企業を紹介できる・費用が抑えられる・経験豊富なスタッフが在籍している、などを基準にするとよいでしょう。
からの記事と詳細 ( M&A成功事例30選!【2023年最新】買収・合併の失敗事例も併せて紹介! - M&A総合研究所 )
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