「安~い!」「安くしてぇ~!」と社長にオネダリする女性。あの「夢グループ」の通販CMを、一度は見たことがあるのではないか。
「夢グループ」石田重廣社長のアシスタントとして出演する保科有里は、社長との「愛人疑惑」が取り沙汰される。これも一種の話題なのだが、実はジャズ、シャンソンから歌謡曲までを歌い、あの橋幸夫をして「大人の歌をしっとり歌える、今の日本には珍しい本格的な女性シンガー」と言わしめるほどの実力者。ただのCMタレントではないのだ。
8月12日に出たばかりの彼女の著書「愛人!? 困っちゃう…」(山中企画)を読むと、その歌手人生が平坦なものではなかったことがよくわかる。生まれ故郷の金沢でOL生活を続け、上京して歌手活動を始めたのが30年あまり前。しかし、ずっとヒット曲に恵まれず、もう故郷に戻るしかないかと諦めかけた15年ほど前に出会ったのが、石田社長だったという。保科が回想する。
「ただし、社長は明るく賑やかなステージが大好きで、最初は私のムーディーな感じの歌に『やる気あんのか、って眠くなっちゃった』みたい。それでも、私を夢グループ社員として雇ってからは、いろいろなステージで使っていただいて。そうすると、周りからは『なんでヒット曲もない保科を舞台に上げるんだ』って抗議があったみたいです。言われた社長、逆にムキになって『じゃ、僕が保科さんをスターにする』って張り切ってくれました」
それから彼女は、島倉千代子や小林旭、橋幸夫などをはじめ、数々のビッグスターたちと共演することになった。そして共演すればするほど、自分だけヒット曲がないことが引け目になっていく。現に面と向かって「お前みたいなのが出ると、コンサートの格が落ちる」と罵倒されたりもしたという。
最近になってようやく「自分のためじゃなく、人のために歌おう」と考えることで、気持ちは吹っ切れたという。うまく歌おう、この曲を当てよう、ではなく、目の前にいるお客さん、CDを買ってくれたお客さんが幸せな気分になったり、心が癒やされたり励みになったり…そういう歌を歌うのだと。
ヒット曲を持たず30年以上も歌手活動を続けられているのも、いわば「奇跡」。その上、今や「CMタレント」としてすっかり有名になってしまった。
「挫折」と「奇跡」に彩られた彼女の歌手人生は、まだまだ続く。もちろん、石田社長とのあのCMも続く…はずだ。
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