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Monday, October 24, 2022

「未利用魚の缶詰」でつくる新市場と社会価値 島根県浜田市の水産加工会社が提示した新機軸 | 未来コトハジメ - 日経BP

日本海有数の漁港、島根県の浜田漁港にある水産加工会社・シーライフが始めたユニークな缶詰商品「今朝の浜」が注目を集めている。原料として使うのは、朝、浜に揚がった鮮度抜群の「未利用魚」。未利用魚とは、一般の消費者に知られていないため、水揚げされたものの業者に買われることなく、市場に流通しない魚のことである。未利用魚は実は、サバやアジなど、都会のスーパーの鮮魚売り場で見かける魚よりも圧倒的に種類が多い。しかし地元では「美味しい魚」として知られているケースも少なくない。そんな隠れた資源を有効活用したのがシーライフである。雇用を増やし、地元の産業を育成し、水産業に興味を示す若い世代を応援する新しい取り組みを紹介する。

豊富な未利用魚を利用する新しい缶詰ビジネス

島根県の浜田漁港に臨む水産加工会社、シーライフによるユニークな缶詰商品「今朝の浜」の製造は、早朝から始まる。その原料には、目の前の港に揚がったばかりの「未利用魚」が多く含まれる。未利用魚とは、様々な理由で市場に流通しない魚のことである。サバやアジなど消費者に知られている有名な魚ではないものの、資源の総量としては多い。

早朝の浜田漁港の水揚げ風景(写真提供:シーライフ)

早朝の浜田漁港の水揚げ風景(写真提供:シーライフ)

「都会の人に名前を知られていないから売りにくい。あるいはさばきにくい・食べにくい。そのような、人間側の勝手な理由で流通に乗らず、海洋に廃棄される魚が本当に多いんです。地元の人間は、おいしさを知っているので、もったいないと思ってきました。そんな未利用魚を、よく知られているサバやアジなどと同じように扱い、刺身にできる鮮度のまま缶詰にするのが、私たちの缶詰シリーズ『今朝の浜』なんです」。このように話すのは、缶詰事業を担当する同社の専務・河上清貴さん。

未利用魚を使った「今朝の浜」のパッケージと中身。写真の原料は甘鯛(写真提供:シーライフ)

未利用魚を使った「今朝の浜」のパッケージと中身。写真の原料は甘鯛(写真提供:シーライフ)

「今朝の浜」のネーミングは、今朝、浜に揚がったばかりのフレッシュな魚を詰めた缶詰という意味。鮮度が高いため、少量の塩のみを使った水煮缶だ。開けると全く臭みはなく、そのまま食するのも良いが、魚をトマトやオリーブオイルと一緒に煮るイタリア料理のアクアパッツァ、シーフードサラダ、炊き込みご飯、雑炊など、いろいろなアレンジができる。

筆者は2年前から「今朝の浜」を買っては食べてきたのだが、ホウボウ、カガミダイ、アラなど初めて食べる魚が多く、そのどれもが上質なグルメ体験だった。

水煮缶はその製造工程において高圧釜で仕上げる。骨をとろとろに柔らかくなるまで煮るので、「今朝の浜」はどれも出汁が良く出ており、カルシウムなどの栄養価も高いという。

「今朝の浜」の製造風景。徹底した衛生・安全管理の下、製造ラインにおいて手詰め作業による小ロット生産を得意とする(写真提供:シーライフ)

「今朝の浜」の製造風景。徹底した衛生・安全管理の下、製造ラインにおいて手詰め作業による小ロット生産を得意とする(写真提供:シーライフ)

「今朝の浜」を製造する現場の特徴は、徹底した衛生・安全管理の下、製造ラインにおいて写真のような手詰め作業による小ロット生産を得意とするところだ。これにより、魚種も獲れ高も日によって変わる未利用魚の缶詰製造にフレキシブルに対応可能となる。

「利用されにくかった魚も、缶詰にすれば簡単に美味しく食べられるし、しかも常温で3年の賞味期限があります。弊社は、もともと干物の製造販売をメインにしてきた会社で、通常10種類くらいの魚介類を利用してきましたが、『今朝の浜』はこれまで、未利用魚を含む50種類の缶詰を製造販売してきました。スーパーに並ばない美味しい魚があることをもっと知ってもらいたい。浜田沖の海の多様な海の豊かさを、少しでもたくさんの食卓に届けたいです」

今や高級魚として認知されているのどぐろも、かつては一般の認知度が低い未利用魚だった。 北陸や山陰地方で獲れるのどぐろは、島根県が全国トップクラスの漁獲量を誇る。島根県出身のプロテニスの錦織圭選手が、2014年全米オープンで準優勝した際に「のどぐろとかあったら食べたい」と語ったことや、2015年3月の北陸新幹線の開通などでその認知度が高まった。同じく高級魚として知られるキンメダイも、かつては漁師が積極的に獲らない未利用魚だった。今では、そのどちらもが、水産業界の売り上げに大きく貢献する魚となっている。

「この先、私たちの『今朝の浜』を食べることで美味しいと知られるようになり、のどぐろのように未利用魚を卒業する魚が出てくるかもしれません」

「今朝の浜」は、マイナスなイメージあった未利用魚を「宝の山」ととらえ、ヒットを生み出す可能性を秘めたプロジェクトでもあるのだ。

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