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Wednesday, September 29, 2021

息子の成長 私たちの希望 - 読売新聞

 今朝方思わず「あ!」と声をもらした。8月末のむせ返るような暑さはなくなり、涼しく爽やかな風が吹いていた。こうも急に気候が変わると、あんなに敬遠していた夏が少し恋しくもなってしまう。そんな肌で感じる季節の変化が私は好きだったりする。

 「もう9月ですよ。もうすぐ年末ですよ、どうしましょう!?」と瀬戸内寂聴先生に言うと、「どうしようもないじゃない」と素っ気ない返事。「今年もコロナのせいで何もできなかったですね。なのに時間だけは過ぎるのが速い」という私に、「何もしなかったから速いんじゃない? 何かあれば、その都度立ち止まるでしょう」と。

 確かに、と思いながらああ、今年も終わる、息子が12月には2歳になる。毎日そんなことばかり考える。来年は何か変わればいい。先生が満100歳の誕生日を迎える年だから。

 人が好きな先生はコロナ禍で人とも会わず、大好きな芝居にも外食にも行けずつまらなさそう。先生と私の唯一の希望が1歳9か月の息子であり、すくすく成長していく様子を楽しみにしている。

 先生は「あの子、私に命令するよ。ああしろ、こうしろって」と笑う。息子は老人を「 いたわ る」ことを知らない。先生の手を握り、色々な所へ連れ回す。先生の部屋では中を物色し、面白そうなものを片っ端から あさ る。梨をむいて出すと、小さく切ったものは気に食わないようで、先生の梨を奪う。なかなか我の強い子である。

 先生は「なんだか子どもと思えないのよね、思いがちゃんとあって」と感心する。確かに、私が想像していた1歳はもっと「赤ちゃん」だった。それが今は立派な人間で、人格が出来上がっている。育児って想像以上におもしろい。

 先生の秘書としてがむしゃらに頑張った20代の頃はそれはそれで楽しく、刺激的で充実していた。結婚し、子どもが生まれてからの30代は、スローペースにはなったけれどそれも悪くない。その幸せもすべて、先生がいるから感じられる。

 今は間違いなく私より息子の方が先生を喜ばせる力を持っている。一緒に恩返ししていこうね!

(瀬戸内寂聴秘書・エッセイスト 瀬尾まなほ)

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確かに

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