住みたい街はどこですか――?
住宅情報誌などから「住みたい街ランキング」が発表されていて、首都圏でいえば「吉祥寺」「恵比寿」「横浜」は人気エリアとして上位に並んでいることが多い。このほかにも「目黒」「渋谷」「鎌倉」あたりも上位に入っていることが多いが、実は埼玉県の“2つの街”も健闘しているのだ。
不動産サイト「SUUMO」が発表したランキング(2021年関東版)をみると、4位に「大宮」、8位に「浦和」がランクインしているではないか。「たまたまでしょ。近くにマンションが建つので、人気が上昇したのでは?」と思われたかもしれないが、実は大宮と浦和は4年連続でトップ10入りしているのだ。
だが、しかしである。「住みたい」という人は多くても、街を元気にするような面白いモノは? と聞かれると「うーん。なにかあったかなあ。特に、大宮は浮かばない」と感じたかもしれない。なにもディスっているわけではなく、駅前には「ソニックシティ」があるし、プラネタリウムを楽しめる「さいたま市宇宙劇場」があるし、「鉄道博物館」もある。このほかにも、駅前の「大宮すずらん通り」はにぎわっているし、パワースポットとして有名な「武蔵一宮氷川神社」もある。
地元住民も「あるにはあるが、うーん、ちょっと違うかも」と感じたかもしれない。であれば、自虐的に強引に引っ張り出せば、面白いモノになるのではないかと考えた人がいる。大宮駅前のファッションビル「アルシェ」で、社長を務める中島祥雄さんだ。
さいたま市大宮区にある、知る人ぞ知る“名所”をキーホルダーにした「大宮ガチャ」(1回300円)をつくったところ、売れに売れている。2021年3月に第1弾(8種類)を限定1000個で販売したところ、わずか2日で完売。その後も、新しいアイテムを投入しところ、いすれも好評で累計販売数は3万個を超えている。また、9月に浦和版のカプセルトイを発売したところ、こちらも好評で初日に1800個が売れて、累計1万5000個を突破した。
■地元版カプセルトイがウケている秘密
それにしても“地元版カプセルトイ”は、なぜここまで人気を集めているのだろうか。生みの親である中島さんに聞いたところ、「『えっ、そこ? その発想はなかったわ~』と“地元住民を驚かせるコンテンツ”をつくることが大切なのでは」と見ている。
「地元住民を驚かせるコンテンツ」とは、どういう意味なのか。第1弾で販売されていたキーホルダーを見ていて、個人的に喫茶「伯爵亭」のロゴが入ったモノが気になった。店内はレトロな雰囲気が漂っていて、昭和にタイムスリップしたような感覚を味わえるところである。ドラマのロケ地としても使われているが、地元住民の多くが「なぜ、伯爵亭なの?」「これ、つくると思わなかったわ」と感じるほど、知る人ぞ知る店なのだ。
第1弾で、気になったモノがもう1つある。建物のデザインは「そごう大宮店」なのに、「SOGO」のロゴが入っていないのだ。SNS上では「なぜ?」「トラブルがあったの?」など、さまざまな憶測が飛び交ったわけだが、デザインミスでもなければ、ケンカをしたわけでもない。「商品をつくるにあたって、そごう大宮店さんからは『OK』をいただきました。ただ、本部の承認に時間がかかったようでして、発売のタイミングに間に合わなかったので、先方と協議して『ロゴも説明書もなしで』ということになりました」(中島さん)
こうした背景があって、ロゴなしのキーホルダーが完成したわけだ。いや、正確にいうと、未完成なわけだが、結果的にそれがよかったのかもしれない。“そごう大宮店”らしいモノを手にするために、何度もカプセルトイを回した人がいたそうだ。
このほか、学生服を扱う洋品店「DAIMARU」、JR大宮駅のオリジナルキャラ「まめおとまめこ」、大宮駅構内で毎年開催される「大宮駅東口・西口対抗連結大綱引き大会」など、大宮に縁もゆかりもない筆者でも「えっ、そこ?」と突っ込みたくなるものばかりである。
■キーワードは「懐かしさ」
これまで30種以上(大宮)のキーホルダーを展開しているが、人気があったアイテムが2つある。1つめは、第2弾で発売された「中央デパート」だ。
「ほう。大宮に『中央デパート』ってものがあるのね。今度、行ってみようかな」と思われたかもしれないが、今はもうない。駅の東口にあった大宮中央デパートは、黒い壁が特徴でレトロな雰囲気が漂っていたが、2017年6月に閉店した。
もう1つは、第3弾で発売された娯楽施設の「ハタボウル」である。こちらも11年4月に閉店しているが、当時は映画館やボウリング場などが入っていた。地元の人に聞いたところ「子どものころ、親と一緒に行ったなあ」「初デートでハタボウルに行ったよ」といった声も。
SNSをチェックすると、「中央デパート」と「ハタボウル」のキーホルダーが話題になっていて、その背景に何があるのかというと、懐かしく感じられるかどうかである。ロゴを見るだけで、建物を眺めるだけで、当時の思い出が蘇(よみがえ)る。100人いれば100通りのストーリーがあって、その話を聞いた(または読んだ)人たちが共感する。「オレもそーいえば……」「ワタシも子どものころに行ったなあ」といった感じで。といったこともあって、購入しているのは40~50代が多い。
ちなみに、中央デパートとハタボウルにとってのメリットはなんだろうか。現在、大宮に存在しないので、キーホルダーをつくっても宣伝になるわけでもなければ、お客が来るわけでもない。中島さんはロゴなどの使用許可を得るために、現在の担当者と面会することに。先方にとってのメリットはあまりないので、「断られるかな」と思ったそうだが、快く承諾してくれたそうだ。
なぜ、先方は「OK」の返事をしたのか。これは推測になるが、大宮で働いていた人たちが楽しかったからではないだろうか。当然、職場を失うというつらい思い出もあるはずだが、キーホルダーという形で“復活”させると、地元の人は「懐かしいなあ」「楽しかったなあ」と喜んでくれるかもしれない。そんな心意気から、この商品が生まれたのではないだろうか。損得勘定抜きの世界である。
■次は「与野」
さて、気になるのは次回作である。3月に大宮(第5弾)と浦和(第3弾)のカプセルトイを販売する予定だが、もう1つの目玉を用意している。大宮と浦和の地図をよーく見ると、間に「与野」がある。隣街のヒットを受けて、地元関係者から「なぜ与野をイジらないの? ネタはいっぱいあるよ」という声があって、商品化を進めているそうだ。
こうした動きは、さいたま市を越えて、同じ県の川越市にも広がりつつある。さらに、東京の東銀座からも「地元のカプセルトイをつくってくれないか」といった依頼が来ているという。この話が舞い込んだとき、中島さんは「銀座には有名なモノがたくさんあるし、大宮のような面白さを引き出すのは難しいかな」と思っていたが、先方からこのように言われた。「東銀座は、築地と銀座に挟まれていて、“せつないエリア”なんですよ」と。
この言葉を聞いたとき、中島さんがワクワクしたのは言うまでもない。東銀座、川越、与野のどんなところに目をつけるのか。自虐的なネタを掘り起こすことで、新たな話題が生まれそうである。
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