1997年に刊行されて以来、世界中の人々を魅了してきた「ハリー・ポッター」シリーズ。世界一有名な魔法使いの少年をめぐる冒険は、2001年に公開された映画「ハリー・ポッターと賢者の石」によってその人気を不動のものとしました。
2021年12月18日から東京ステーションギャラリーで始まった「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展は、同シリーズをテーマに大英図書館が企画し、2017年にイギリスで開催された展覧会の日本版です。本国イギリスにおけるオリジナルの展覧会に、日本ならではの展示物を加え再構成した内容となっています。
今回は展覧会会場でしか入手できない貴重な日本版図録の魅力を紹介します。
こよなく愛する本場イギリスの「超マニア」が監修
今回の展覧会および図録をキュレーションしたのは、主に大英図書館の学芸員のみなさん。図録に収録した作品についても、ほとんどの解説を執筆しています。
古今東西の書籍から絵画まで、1億数千万点という気の遠くなるような収蔵点数を誇る大英図書館、その学芸員は比類なきスーパーマニア。物を集め、観察し、調べ、解説することにかけては、常人をはるかに超えた能力の持ち主です。
しかも今回の展覧会は、大英図書館が開催する初めての国際巡回展とあって、学芸員たちの意気込みも半端ではありません。その証拠に図録冒頭の序文として、主任キュレーターのジュリアン・ハリソン氏による7ページ7000字もの長大なエッセイが……。この巻頭エッセイを読むだけでも、本展覧会の全貌がだいたい理解できてしまうという優れもの。一般的な図録の場合、「はじめに」や「ごあいさつ」といった序文のボリュームは1ページ1000字がせいぜいですので、図録を開いた瞬間から、主催者の本気がビシビシ伝わってきます。
会場で見逃した解説も、図録なら自由に楽しめる
図録には二つのタイプがあります。一つは、展示内容のみを記録したもの。もう一つは、展覧会の世界観を詳しく展開し、図録として独自の魅力を放つもの。本図録は明らかに後者です。きっとキュレーターのみなさんは、世界中のハリポタファンの笑顔を思い浮かべながら、一つ一つの解説を精魂込めて執筆したことでしょう。
本展覧会では、原作のワンシーンなどを引用しながら解説する展示物がたくさんあります。それは、図録も同様です。
人気の高い展覧会の会場では、せっかくの充実した解説をじっくり読めないことも珍しくありません。原作と比較しながらじっくり展示物を味わいたい、でも、行列のプレッシャーから落ち着いて鑑賞することはできなかった……。こんな人でも、図録さえあれば、場所や時間の制約を受けずにゆっくり楽しめますよ。
内容はあくまで真面目。現代人を魔法の世界に導く格好の手引書
図録の最大の特徴は、ハリーたちが通ったホグワーツ魔法魔術学校と同じカリキュラムで構成されていること。この図録を読んで内容をしっかり理解すれば、ハリー達が受けた授業を(ぼんやりと、かもしれませんが)追体験できるわけです。
ホグワーツ魔法魔術学校のカリキュラムは現実世界の私たちからすると非科学的、なにせ“魔法と魔術”の授業なのですから。しかし中には、天文学や薬草学のように、人類が太古の昔から追究し、現代に至ってもなお情熱を傾ける科目もあります。
「魔法とは、魔法使いが独占する知恵ではない。マグル(魔法使いではない普通の人間)たちも等しく享受すべきである」
この図録には、そんな懐深きメッセージが込められているのかもしれません。
そして図録の内容は、端的に言って、相当に学術的です。
例えば、日本の河童。原作には少ししか登場しないにもかかわらず、本展覧会に展示され、図録でも紹介しています。これは本展覧会がハリー・ポッターだけでなく、魔法の歴史もメインテーマとしているからです。マグルにとって、魔法から受けるイメージとは“不思議”であり“神秘”。河童は不思議や神秘を象徴する存在として、日本人全体へのメッセージを背負っているのかもしれません。
河童のような異界の妖怪は、決して空想の世界の中だけで生きる存在ではありません。現実の世界でも古くから語り継がれています。例えば柳田國男の著した『遠野物語」は、山の神や妖怪、幽霊などにまつわる古い言い伝えを綴っていることはご存知の通り。同様の伝承は世界各地にあります。
このように本展覧会および図録では、ハリー・ポッターのファンタジックで神秘的な魔法の世界とはやや距離のある、地域に固有の怪しい伝承についても、決して茶化すことなく、大真面目に紹介しているのです。これは大英図書館キュレーターたちの“おたく気質”の表れであり、真摯な学問的態度は特記すべきポイントと言えるでしょう。
本図録を学術的だと評価すべき理由をもう一つ。本図録には、なんと索引があるのです。
作品の名称など簡単な情報を整理した作品リストはよく見かけます。しかし索引を持つ図録は、まれです。
索引を作れるということは、それだけ多くのキーワードが登場するということ。「索引とキーワードを活用して、魔法に関する理解をどんどん深めてもらいたい」そんなキュレーターからのメッセージが込められているように思います。
図録を手に作品のふるさとへ!イギリス魔法探しの旅はいかが?
本図録には、原作者J.K.ローリングが提供した編集途中の原稿やイラストなど、制作の裏側を明かす貴重な資料が数多く収められています。いずれもローリング本人や出版社が保管しているため、本展覧会を逃すと次回いつ現物を見られるかわかりません。
もっとも、大英図書館やボスキャッスル魔法博物館が所蔵する展示物は別。現地で再会できる可能性は大いにあります。イギリス旅行をする機会があるなら、本図録をお供に訪ねてみるのもいいですね。図録には、大英図書館所蔵の展示物について書架記号の一覧が付いています。現地に赴いたら、見たい資料の書架記号を学芸員さんに伝えてみましょう。遠い日本からやってきたファンのために、図書館の奥深くにある秘密の書庫まで案内してくれる……かも?
原作・映画・魔法の歴史を堪能できる「三方よし」の本図録、価格は2,800円(税込)です。会場ミュージアムでしか販売しないため、ファン必携の愛蔵品になること間違いなし!ぜひあなたのハリポタ・コレクションに加えてください。
(ライター・佐藤拓夫)
さとう・たくお=1972年生まれ、宇都宮市在住のライター。美術好きで図録コレクターだった亡父の影響で、“図録道”の沼にはまる。展覧会会場では必ず図録を購入し、これまでに2000冊以上を読破。購入した図録を眺めては悦に入る時間をこよなく愛する、自称「超図録おたく」。
「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展 |
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会場:東京ステーションギャラリー(JR東京駅 丸の内北口改札前) |
会期:2021年12月18日(土)~2022年3月27日(日) |
休館日:月曜日、2021年12月29日(水)~2022年1月1日(土・祝)、1月11日(火)※ただし、2022年1月10日(月・祝)、3月21日(月・祝)は開館 |
開館時間:10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)※入場は閉館の30分前まで |
観覧料(日時指定事前購入制):一般2,500円、高校・大学生1,500円、小・中学生500円など |
詳しくは公式サイト(https://historyofmagic.jp/)を参照 |
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