アメリカのギャングスター、フランク・ルーカス
「俺の間違いから若い子たちは学んで欲しい。学校に残り、出来るだけ高い学位を取得して卒業して欲しい。それこそが生きる道だ」ーー 2019年6月1日のニューヨーク・タイムズの紙面に掲載された訃報記事の最後には男の言葉がそう記されている。世界的に有名なニューヨーク・タイムズに訃報記事が掲載された前日、フランク・ルーカスは88歳の生涯を終えた。 政治家でもなく芸能人でもないフランク・ルーカスの訃報記事が載った理由は、デンゼル・ワシントンがフランク・ルーカスを演じた映画『アメリカン・ギャングスター』(07)の存在があるからに他ならない。その映画タイトルが示す通り、フランク・ルーカスはアメリカのギャングスター……犯罪者なのだ。 本作は、フランク・ルーカス(デンゼル・ワシントン)が、ハーレムの闇社会を仕切っていたバンピー・ジョンソン(クラレンス・ウィリアムズ三世)が亡くなった後、その後釜となるべくライバルと縄張り争いをしながら、他のギャングたちがやらなかった画期的なシステムを確立し麻薬売買で成功、麻薬刑事リッチー・ロバーツ(ラッセル・クロウ)と対立していくことを描くクライム・ドラマだ。 『エイリアン』(79)や『ブレードランナー』(82)などのリドリー・スコットが本作の監督であり、大物プロデューサーのブライアン・グレイザーと共に製作も担当している。リドリー・スコットは、本作に出演しているラッセル・クロウが主演の『グラディエーター』(00)などで3度もアカデミー監督賞にノミネートしている鬼才である。脚本は、『シンドラーのリスト』(93)でアカデミー脚色賞を受賞しているスティーヴン・ザイリアンが担当だ。成功が約束された本作も当然ながら、第80回アカデミー賞の助演女優賞(ルビー・ディー)と美術賞にノミネートされた。
「サタン」フランク・ルーカスの正体
フランク・ルーカスは、確かに「アメリカン・ギャングスター」ではあるが、決して大物ではない。確かに本作で描かれたように、一時期は宮殿のような家に住めるほどのお金を稼いだが、それでも大物ギャングと呼ばれるほどではなかった。大物ギャングと言えば、本作でもフランク・ルーカスの師匠として登場するエルスワース・”バンピー”・ジョンソン(以下バンピー・ジョンソン)だ。 『奴らに深き眠りを』(97)では、ローレンス・フィッシュバーンがバンピー・ジョンソンを演じた。最近でも、フォレスト・ウィテカー主演で『Godfather of Harlem』(19-現在/日本未放映)というテレビシリーズまで作られている程だ。あの名作『黒いジャガー』(71)の悪役バンピーは当然ながらバンピー・ジョンソンから作られたキャラクターだし、フランシス・フォード・コッポラ監督の『コットンクラブ』(84)にもバンピーのキャラクターが登場している。 しかも、フランク・ルーカスと同じ時期のライバルだったニッキー・バーンズ(本作ではキューバ・グッディング・Jrが演じる)の方が、まだフランク・ルーカスよりも有名で大物だ。『ニュー・ジャック・シティ』(91)で主演ウェズリー・スナイプスが演じたニーノ・ブラウンのモデルはニッキー・バーンズだと言われている。 では、なぜフランク・ルーカスを描いた『アメリカン・ギャングスター』は製作されたのだろうか?これは、フランク・ルーカスが語ったことを元に本作が作られたことが大きい。本作は、ニューヨーク・マガジンに掲載された『The Return of Superfly』が元になっている。ジャーナリストが出所後のフランク・ルーカス本人に話を聞いて書いた記事である。 スティーヴン・ザイリアンも、何日にも渡ってフランク・ルーカスから話を聞いて脚本を書いている。また、本作が公開され、注目を集めたことで、史実通りなのか調べた元捜査官やジャーナリストたちがいる。彼らによると、どうも異なる点はあるらしい。筆者は、元となった『The Return of Superfly』を読んだことがあるが、確かにそれを読むと、フランク・ルーカスが語る物語の信憑性は危ういことが分かる。 本章の冒頭で、フランク・ルーカスを大物ではないと書いたのには訳がある。劇中でも描かれているように、フランク・ルーカスは目立つことを嫌った。なるべく自分の存在を消し小物であるように振る舞うことで、刑事たちに目を付けられないようにするためだ。しかし、『The Return of Superfly』を読むとその印象はガラリと変わる。恐らくインタビューの時にはもう逮捕される可能性がないというのもあるだろう。フランク・ルーカスはまるで若いラッパーのように自分の高価な所有物を自慢していた。 そして劇中でも描かれていたのが、フランク・ルーカスの残虐さだ。劇中でも描かれた、イドリス・エルバ演じるタンゴの結末は酷いもので目を逸らしたくなる(白昼堂々、フランク・ルーカスに頭を撃ち抜かれる)。しかし、『The Return of Superfly』で読んだ時の方がもっと衝撃を受けた。フランク・ルーカスは、「あの馬鹿……」と笑いながらタンゴを思い出し語っているのだ。 取材時の録音テープを聞きながら記事を書いていたジャーナリストは、側にいた彼の妻に「あなたはサタンの話でも書いているの?」と言われたという。フランク・ルーカスに良心の呵責というものは存在していない。
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確かに
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