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Saturday, May 22, 2021

「心に刺さる」は新語? 知っておきたい言葉のいろいろ【コメントライナー】 - 時事通信ニュース

2021年05月23日09時00分

「刺さる」も選出された「2015ユーキャン新語・流行語大賞」の表彰式=2015年12月1日、東京都千代田区【時事通信社】

「刺さる」も選出された「2015ユーキャン新語・流行語大賞」の表彰式=2015年12月1日、東京都千代田区【時事通信社】

 ◆言の葉OFFICEかのん代表・川邊 暁美◆

 「川邊先生の言葉がたくさん心に刺さりました」

 講演の後、そう声を掛けられた時、背筋を冷たいものが流れた。言葉が過ぎたところがあったのか、知らずにこの方を傷つける発言をしてしまったのだろうか、と。

 ところが、続きを聴くと、むしろ「心に染みた」「心に響いた」という意味だと分かり、安堵(あんど)した。

 「心に刺さる」。数年前から引っ掛かっていた表現だ。初めは映画か本か、何かのCMコピーで目にしたように思う。確かにインパクトのある表現だった。

 三省堂によると「刺さる」は2015年の新語だそうだが、瞬く間に市民権を得て、やがて「心に」を省略して単に「刺さる言葉」「刺さる映画」などと使われるようになっていった。

 もちろん、肯定的な意味で「感動する」「共感できる」などと同義語の位置付けになっている。

 ◆強い衝撃のような語感

 同じように何かしら痛みを伴う表現であっても、「心を打たれる、揺さぶられる」などは「雨に打たれる」「風に揺さぶられる」などにも用い、さほど違和感はない。

 また、「言葉に刺激を受ける」「ハートを射抜かれる」なども痛いとは思わないが、「刺さる」はどうしても「とげや刃物が突き刺さる」様子を連想させて、見聞きするたび、胸がチクチクするように感じていた。

 「心を打たれる、揺さぶられる」だと、その人自身が選択するプロセスを経て、その状態を受け入れているように思えるが、「心に刺さる」は無防備で無力な自分に浴びせられた強い衝撃のような語感があるからかもしれない。

 ただ、言葉は世相を反映して変わっていくものだ。これまでは自分では使わないものの、これも若者言葉の一つ、とやり過ごしてきた。

 だが、自分が発した言葉に対し、面と向かって「心に刺さった」と言われた冒頭の件では、最初に受けた「自分の言葉がこの人の心を刺した」というショックが大きく、しばらく動悸(どうき)が収まらないほどで、改めて考えさせられた。

 「言霊」と言われるように、言葉は人から発せられ、そこには心が宿っている。表現を選ばないと、相手の心に響かないばかりか、本当に「突き刺す」行為になってしまわないか。

 ◆何のための言葉か

 新型コロナウイルス感染拡大を受け、昨年来、多くの言葉が生まれた。「コロナ禍」「ステイホーム」「ソーシャルディスタンス」「ワーケーション」…。

 中でも「3密」は昨年の流行語大賞にまでなったが、変異株の拡大でさらなる「3密」対策の徹底を呼び掛ける中で、実は必ずしも正しく国民に理解されていたのではないことがわかった。

 「3密」は危ないが、「1密」「2密」だから大丈夫だと解釈して行動した結果、クラスター(感染者集団)が発生したケースが次々判明したのだ。言葉が一人歩きしていくうちに、受け手の都合の良いように意味が変わっていったのだろうか。

 「まん延防止等重点措置」を縮めた「まん防」は非難が出てすぐに使われなくなったが、最初に聞いた略語が頭に残ってしまった。「まん延防止等~」と言われても、頭の中で「まん防」と置き換えてしまうから厄介だ。

 「何のためにその言葉を発するか」より「インパクトを与えればいい」という視点で言葉を選んでいないか。言葉に対する感覚、受け取る相手への感性が鈍ってはいないか。

 「一輪の花を選ぶように言葉を贈りたい」。最近、ふっと浮かんだこの言葉は、自分への戒めとしている。

 (時事通信社「コメントライナー」2021年5月17日号より)

 【筆者紹介】

 川邊 暁美(かわべ・あけみ) NHK神戸放送局ニュースキャスターを経て、1989年から7年間、全国初の県政スポークスパーソン「兵庫県広報専門員」。2008年、声と言葉のコミュニケーション力、表現力アップのコンサルティング「言の葉OFFICEかのん」を設立。講演、セミナー、企業研修に活躍。著書に『「声」と「言葉」で心に響くプロの話し方作法』。神戸女学院大学非常勤講師。

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確かに

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