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Thursday, June 4, 2020

社説 9月入学見送り 振り回した責任は重い - 信濃毎日新聞

 教育現場の状況を顧みず、政治主導で進めようとしたことに、もともと無理があった。学校が始まる時期を5カ月遅らせる「9月入学」の議論である。

 来年からの導入を政府が断念した。自民党の作業チームが見送りを提言し、安倍晋三首相が「確かに難しい」と応じた。官邸や側近が先に立った動きが方向転換に追い込まれた形だ。新型コロナウイルス対策の迷走や検察庁法の改定をめぐって政権批判が強まったことが背景に見て取れる。

 議論が起きたのは4月末だ。高校3年生によるインターネットでの署名活動をきっかけに、宮城、東京などの知事が導入を訴えた。首相は「前広(まえびろ)に検討したい」と述べ、5月になって「有力な選択肢の一つだ」と踏み込んだ。

 長期の休校による学習の遅れを取り戻せる。秋入学の欧米と合わせることで大学の国際化にもつながる―。利点を強調する導入論が当初勢いづいたものの、課題が次々と見えてくるに従って与党内にも慎重論が強まった。

 文部科学省は導入に向け、5年かけて段階的に移行する案や、「ゼロ年生」を設ける案も示したが、複雑な上、保育所や学童保育の待機児童が大幅に膨らむことが指摘された。教室の確保や教員の手当ても容易ではない。

 自治体や学校は感染拡大に伴う対応に追われ、疲弊を深めている。この上、重荷を負わす制度改変を見送るのは当然の判断だが、それで済まされないことがある。

 9月入学の議論に時間が割かれたために、この間、教育に関わって政府が本来取り組むべきことがおろそかになったのは明らかだ。政権の責任が厳しく問われなければならない。

 休校で失われた学校生活の時間を取り戻すための具体的な支援策を、文科省は早急に示す必要がある。加えて見過ごせないのが、大学入試への対応だ。初回となる共通テストは予定通り行うのか。出題の範囲はどうするか。入試全体の日程も見えてこない。

 そうでなくても今度の受験生は共通テストへの英語の民間試験や記述式の問題の導入をめぐって翻弄(ほんろう)されてきた。政府が前面に立って急いだあげくの破綻だった。政治の都合でさらに振り回すことがあってはならない。

 小中高校と異なり、大学は現在の制度でも入学の時期をそれぞれの判断で決められる。共通テストや個別試験の日程を後ろにずらし、入学時期を遅らせることを検討していいのではないか。

(6月5日)

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