新型コロナウイルスの感染拡大による自粛要請に伴い、観光業界や飲食業界などで解雇が広がっている。特に中小企業では、その影響は致命的だ。
確かに、経済全体が停滞する中ですべての雇用を維持することは難しいだろう。しかし、政府は「雇用調整助成金」を大幅に拡充し、解雇を回避するように経営者に呼び掛けている。
それにもかかわらず、私が代表を務めるNPO法人POSSEには、「会社が政府の助成金を利用せずに解雇されている」という相談がいくつも寄せられている。
(尚、NPO法人POSSEとその連携団体には、3月5日18時現在で413件のコロナ関連相談を受けている。末尾に無料労働相談窓口一覧)。
参考:「倒産する」「業務進まぬ」などで在宅勤務を拒否 従業員から不満の相談相次ぐ
そんな中、解雇された労働者たちが、会社に政府の助成金を利用するように求める動きも各所で出始めている。
大相撲無観客、上野動物園閉園の影響で…草加せんべい製造会社で解雇
4月4日、コロナウイルス対策の営業自粛の影響によって、勤めていた会社から解雇通告を受けた40代の男性正社員Aさんが、個人加盟の労働組合・総合サポートユニオンに加入し、解雇撤回を求めて同社に団体交渉の申し入れを行った。
Aさんが勤めていたのは、草加せんべいの製造・販売を行っている埼玉県内の会社である。同社では、両国国技館や上野動物園などの都内有数の観光施設に売店を構えており、力士や動物をかたどった草加せんべいを製造・販売していた。
Aさんはこの工場で、草加せんべいの記事を乾燥させるという「中心的」な業務を担っていた。しかし、大相撲は3月の春場所が無観客開催となり、夏場所に至っては中止も検討されている。上野動物園も臨時休園が2月末から始まっており、ゴールデンウィーク開けまでこの状態が続くことが発表されている。
春休みどころか当面の間、多くの観光客が集まる大口の販売先の見通しが立たず、同社の工場の稼働は大幅に削減したという。営業自粛の影響を大規模に受けている観光業界の中でも、より深刻な打撃に見舞われている中小企業の象徴的な事例と言っていいだろう。
しかし、労働者からすれば、解雇は生活の破綻を意味する。Aさんは3月中旬に退職勧奨を受け、40代という年齢からしても再就職は容易ではないため、退職を拒否していたのだが、「退職しないなら4月で解雇になる」と迫られていた。
「コロナだから解雇は正当」ではない! 鍵を握る雇用調整助成金
法的な観点から言えば、コロナウイルスの影響を理由として、解雇が無条件に認められるわけではない。解雇には正当性が求められるのだが、特に整理解雇の場合は、4つの要件によって判断される。
(1)人員削減は本当に必要なのか、(2)解雇を回避するための努力を尽くしたか、(3)解雇される対象者が合理的に選ばれているか、(4)説明や協議を尽くしているかという4点を満たさなければ、正当な解雇とは言えず、解雇は無効となるのである。
具体的には、解雇する前に、企業の預貯金や借入金はどうなっているのか、役員報酬を削減したのか、それらをちゃんと労働者と話し合っているのかなどの条件が問題になる。これはコロナウイルスの感染拡大についても、変わらない原則なのである。
ここで、整理解雇に当たって企業が解雇を回避するために果たすべき努力の一つとして、今回のコロナウイルス問題で挙げられるのが、冒頭で述べた厚生労働省の雇用調整助成金の特例措置である。
この助成金は、新型コロナウイルス感染拡大の影響による経営悪化を原因として、今年1月24日から6月30日の期間、会社が労働者に対して解雇をせずに、休業補償を支払った場合、その支払った金額のうちの9割・上限1日8330円(中小企業の場合)を国が助成するという制度である。
厚生労働省:「新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置の拡大」
この制度を使わず、あるいはその利用を真剣に検討せずに、コロナ問題を理由として解雇をしているのであれば、その整理解雇は違法なものと判断される可能性がある。
草加せんべい製造・販売会社のAさんが加盟した総合サポートユニオンでは、団体交渉を同社に申し入れた際、この助成金についてあまり理解していなかった経営者に対して、解雇の撤回要求と同時に、この制度の概要を説明し、利用を優先するように求めている。
「まだ詳細はわからない」!? 4月5日時点でも不明点ばかりの助成金
とはいえ、企業側が雇用調整助成金を使いあぐねているのにも理由がある。実は、この制度が厚生労働省によって公式発表されたのは今年3月末で、現在はホームページにも概要は公開されているのだが、4月5日時点で、まだ詳細が明らかになっていないのだ。
私たちがハローワークや、厚生労働省の雇用調整助成金コールセンターに電話で確認してみると、「厚労省からまだ正式な通達が来ていないので、詳細は答えることができない」と回答されてしまった。
申請から支給まで、どの程度の期間がかかるのかもわからない。中小企業からすればこれは死活問題であり、数ヶ月などではなく、申請後に一刻も早い支給が望まれる。
また、実際に会社が労働者に休業補償を支払ってからでないと助成金は支給されないのかについても、私たちが取材したハローワークの担当者は把握していなかった。
これでは経営者が「助成金の存在は知っているが、それを頼りにできるかわからない」と考えてしまっても無理はない。助成金の詳細がわからないということを理由として、既に解雇に踏み切ってしまった会社も少なくないだろう。
厚労省による、助成金受給についての詳細発表と、労働者の休業補償がなされやすい制度設計が、大至急求められている。
労働組合と飲食店が、全額補償付き休業計画を協議する例も
最後に、今回のコロナウイルス感染問題によるシフト削減を受けて労働組合に加入した労働者たちが、企業に対して雇用調整助成金の利用を継続的に協議しているという画期的な事例を紹介しよう。
都内を中心に20~30店舗の居酒屋などの飲食店を展開する会社で、今年2月末から3月頭、コロナウイルスの影響による売り上げ悪化を理由とした給与補償なしのシフト削減が一方的になされた。
そこで、6名のホールスタッフアルバイトが、個人加盟の労働組合・飲食店ユニオンに加入し団体交渉を行っている。
ユニオンの団体交渉で、同社のシフト削減は全面撤回され、それまでの通常シフトに戻された。また、すでになされたシフト削減分については全額補償金が支払われた。
さらにその後、3月末から、コロナウイルスのさらなる感染拡大によって売り上げの悪化に拍車がかかり、感染防止対策も迫られる中、ユニオンは新たに、雇用調整助成金を活用した給与補償付きの休業を提案したという。
現在は労使で相談しながら、休業実施の準備をしている。その休業の内容も、原則全額の給与補償を行いながら、休業や時短勤務を行い、その計画をユニオンと会社が実施前に相談するというものだ。
確かに経済危機で経済的なコストとリスクが経営者にのしかかっている。だがそれを、一方的に労働者おしつけるのはアンフェアだ。例えば、コロナで縮小した需要に対し、製品やサービスを共同してつくる「取引先」に対し、一方的に解約してリスクを押し付けることは許されないだろう。
同じように、労働者も「労働契約」を結んだ対等な契約当事者だ。しかも、経営者は「経営権」があるために経営上のリスクを第一義的に引き受ける責務がある。だからこそ、解雇の前に行政の施策を最大限活用することは、「当然の義務」だと考えられるのだ。
飲食店ユニオンの事例は、労働者が行動を起こすことで、経営者に雇用維持の努力を促すことができることを示している。またそれは、「政府の政策を有効に機能させるための方法」でもある。
コロナウイルスの猛威の前に、特にダメージの大きい観光や飲食行界の中小企業では、自分の解雇撤回を要求することに萎縮してしまっている労働者多いと思われる。
しかし、労働者が自分の持つ権利を主張しなければ、積極的に国の制度も利用せず、安易な解雇に流れてしまう企業も少なくないのが現実である。
世界的な危機においても、労働者の命や生活を守るために、労働組合が重要な役割を果たせることを、ぜひ知っておいてほしい。
【労働組合による新型コロナウイルス関連労働相談ホットライン】
日時:2020年4月11日(土)13時~17時、4月12日(日)13時~17時
電話番号:0120-987-215
※相談料・通話料無料、秘密厳守
共催:
総合サポートユニオン
首都圏青年ユニオン
介護・保育ユニオン
私学教員ユニオン
美容師・理容師ユニオン
飲食店ユニオン
無料労働相談窓口
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。
03-6804-7650
info@sougou-u.jp
*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。
022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)
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*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。
03-3288-0112
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April 06, 2020 at 10:00AM
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