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Wednesday, April 3, 2024

「アメリカで最も有名なナチハンター」が語る終章 知見はウクライナ戦争の追及にも:朝日新聞GLOBE+ - GLOBE+

第2次世界大戦の終わりから1952年までにアメリカが受け入れた40万人の難民のうち、約4分の1がホロコーストを生き延びたユダヤ人だった。一方で、ナチスの犯罪に関わった人々も人知れず海を渡り、アメリカ社会に溶け込んでいた。

裁きも受けずに、アメリカ市民として安寧に暮らすことは許されるのか――。ナチハンターらによって彼らの存在が明るみに出ると、次第にアメリカ国内でも責任追及の動きが高まり、1978年にナチスの犯罪に関わった人物の国外退去に関する法律が成立。翌1979年には司法省に追跡と訴追を担当する特別調査部(OSI)が設置された。

OSI創設期から40年近くナチスを追い続け、「アメリカで最も有名なナチハンター」とも呼ばれるイーライ・ローゼンバウムさん(68)は、ホロコーストの生還者で解放直後からナチスを追い続けたサイモン・ウィーゼンタールさんや、元ナチ党員の西ドイツ首相に「一撃」を放ったベアテ・クラルスフェルトさんらの名前を挙げ、「ナチスの犯罪者を裁かなくてはならないと、社会に気づかせた人々だ。彼らの努力がなければ、追及の動きは1970年代には終わっていただろう」と評価する。

「殺人者はそこにいる」などウィーゼンタールさんの著書を読んだ10代のころは、「まさか自分が追及する側になるとは夢にも思わなかった」というが、「私は司法の道を歩んだが、彼らの働きに影響を受けた一人だ」。

ローゼンバウムさんの両親は、1930年代後半にドイツを脱出したユダヤ系アメリカ人で、欧州で多くの親戚が犠牲になった。

両親はホロコーストについてほとんど語らなかったが、一度だけ、父親が米兵として解放直後のダッハウ収容所に入ったことがある、と口にしたことを覚えている。ローゼンバウムさんが14歳のころ、ひどい吹雪の中、2人で車に乗っているときのことだった。

そこで何を見たのか。答えは返ってこなかった。運転席の父を見ると、涙をため、口を開けたまま言葉に詰まっていた。「父は長い沈黙のあと、別の話を始めた。何も話せないほどに衝撃的だったということを、私は理解した」

ハーバード大のロースクールで学んでいたころ、新聞記事でOSIの創設計画を知り、すぐに司法省に電話してインターンの機会を得た。卒業後に入省し、ナチスの追及を続け、1995~2010年にはOSI部長を務めた。

「私が入省した1980年の時点で、訴追する度に、『最後のナチ裁判になるだろう』と騒がれ、常に残された時間はわずかだというプレッシャーがあった」と振り返る。

だが実際には、ソ連崩壊に伴って当時の記録が新たな証拠として明らかになり、訴追件数は増加。1990年から2010年の訴追件数は計68件にのぼった。同期間にアメリカ以外で訴追されたのは46件で、「アメリカはナチスの責任追及において大きな役割を果たしてきた」と自負する。

「だが、いま、本当に終わりの時が近づいている」

オンラインでインタビューにこたえる元米司法省特別調査部長のイーライ・ローゼンバウムさん=Zoomから
オンラインでインタビューにこたえる元米司法省特別調査部長のイーライ・ローゼンバウムさん=Zoomから

2020年、テネシー州に住んでいた元看守の男性(当時94)に国外退去令がくだされ、翌年、ドイツに移送された。ローゼンバウムさんが捜査を担当したケースで、米司法省にとって「おそらく最後になるだろう」とみる。1980年代後半には55人ほどの体制だったOSIは、2010年に別の部署と合併。ほかの戦争犯罪やテロ組織関連の捜査を担い、現在、ナチス関連の調査を続けるスタッフは3人を残すのみだという。

ナチスを追うという役目が終わりつつある中、2022年6月には、ロシアのウクライナ侵攻による戦争犯罪の責任追及チームが司法省内に発足され、トップに就任した。

膨大で多言語にわたる記録をひもとき、情報機関や歴史の専門家とも連携しながら、組織の意思決定プロセスを明らかにする。ナチスの犯罪を立証するために積み重ねてきたこうした努力とノウハウを、未来に向け、より普遍的に生かそうという試みだ。今年1月に司法省を退官した後も、後進の育成に力を入れる。

「ウクライナでの戦争でも同じだ。容疑者はロシアにいるか、今もウクライナで戦闘に加わっているかもしれない。それでも、我々がナチス犯罪を追い続けてきたように、忍耐強く追及を続ける」

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