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Tuesday, August 8, 2023

【レビュー】「発掘された珠玉の名品 少女たち—夢と希望・その ... - 読売新聞社

“無名作家”の見事な作品揃う 近代画壇の層の厚さ

少女を中心に、さまざまな女性たちを描いた121点の作品。北野恒富や島成園、甲斐荘楠音ら有名どころの作品も含まれてはいますが、来場された方は、恐らく初めて見る作家が大半ではないかと想像します。そしてそれが気にならないどころか、むしろ“無名作家“”の作品の見事さにこそ引き込まれます。洋画、日本画問わず、日本の近代画壇の層の厚さ、名前にとらわれず作品の魅力を見抜く眼力の確かさに感じ入ります。価値ある試みで、今夏、ぜひ見ておきたい展覧会のひとつ。各地で巡回展が予定されいるので、今後も注目ください。

発掘された珠玉の名品 少女たち—夢と希望・そのはざまで 星野画廊コレクションより
会場:京都文化博物館 4階・3階展示室(京都市中京区三条高倉)
会期:2023年7月15日(土)~9月10日(日)
開室時間:10:00~18:00(金曜日~19:30)※入場はそれぞれ閉室の30分前まで
休館日:月曜日(ただし、7月17日、24日は開館)、7月18日
入館料:一般1,500円(1,300円)、大高生1,000円(800円)、中小生500円(300円)
※()は前売券、団体
アクセス:地下鉄「烏丸御池駅」から徒歩3分、阪急「烏丸駅」から徒歩7分、京阪「三条駅」から徒歩15分
公式HP:https://www.ktv.jp/event/shoujyotachi/
巡回予定:福島県立美術館(2023年9/23~11/12)、新潟市美術館(2023年11/18~2024年1/21)、高知県立美術館(2024年7/6~9/22)、呉市立美術館(2024年9/28~11/10)、三鷹市美術ギャラリー(2024年12/14~2025年3/2)
京都市街の中心部に位置する京都文化博物館。古都巡りの途中に寄ってみるのもいいですね

京都・神宮通にある星野画廊。星野桂三、万美子夫妻が半世紀にわたって運営し、埋もれていた多くの優れた作家を見出して日本近現代美術史に大きな貢献をしたことで知られます。今展ではその星野画廊のコレクションから選りすぐりの作品を紹介します。ここでは「少女たち」というテーマもあり、まず女性作家の作品に注目してみました。「描かれる側」「描く側」双方の女性たちの姿に時代や歴史が映ります。

大胆で力強い筆致、悲運の生涯 松村綾子

2つの作品が紹介されている松村綾子(1906‐1983)。幻想的で、かつ迷いのないタッチに引き込まれます。

松村綾子《薫風》1943年頃 キャンバス・油彩

仙台に生まれ、京都で育った松村。都鳥英喜らに師事し、戦前は二科展で入選するなど注目を集めました。子どもを早くに亡くすなど悲運の人で、戦後は中央画壇には距離を置き、徐々に忘れられていきます。最後は自宅の失火で生涯を閉じました。《薫風》は子どもを亡くした直後に描かれたもので、絵筆を握る女性が描かれ、鯉のぼりに乗って宙に泳ぐ人は亡くした子どもを連想させます。彼女の人生を思わせるモチーフがちりばめられていますが、それを知らなくても魅力的な一作です。

松村綾子《少女・金魚鉢》1937年 第24回二科展 特待賞

戦前に二科展で高く評価された作品。シュールなモチーフ、少女の表情や肢体の表現など見どころ豊富で、評判になったのも納得の代表作です。制作年を考えても鋭敏なセンスが伺われます。松村が亡くなった際の失火でこの作品も被害を受けましたが、修復をうけてよみがえりました。記憶に残る作品です。本展を担当する植田彩芳子主任学芸員は「歴史に埋もれさせてしまうには惜しい作品。代表作が残ってよかったです」と話します。

谷出孝子《C嬢(モスリンの着物)》1932年 キャンバス・油彩 第19回二科展

こちらはおしゃれなファッションセンスの光る華やかな一作。谷出孝子(1907‐1987)は関西の女性洋画家の草分け的存在です。二科展などで活躍し、戦中は満州に渡り、戦後は40歳過ぎてから渡仏して絵画修行に努め、藤田嗣治の知遇を得るなど多彩に活動。のちにデザイナーに転身しました。

「余技」というにはあまりに巧み 平山成翠

展示風景 右は平山成翠《憶い》1917‐1920年 絹本彩色

日本画も出色の作品が揃います。平山成翠は島成園門下の女性画家で、東京の日本女子大学在学中に、成園の《宗右エ門町の夕》(1912年)を見て憧れ、卒業後に大阪へ。成園の家の前に住んだといいます。《憶い》は窓辺に座る可憐な少女の繊細な表現といい、背景の処理といい、相当の腕前を感じさせます。植田学芸員は「成翠は絵は余技的に行っていたようで、調べても詳細はほとんどわかりません。当時も絵を描く女性は少なくなかったのですが、生業にできたひとはほんのひと握りで、家庭に入って止めてしまうひとが多かったのです」と話します。時代を考慮しても、「もっと続けていたら」と想像すると惜しい気がしてしまいます。

展示風景 (左)田代正子《娘》1940年 絹本彩色、(右)松浦舞雪《花摘みの図》1914年 絹本彩色

田代正子(1913‐1995)は堂本印象に学び、女性を描いた作品を得意としました。日展などで活躍しました。

“作者不詳”でも魅力

作者不詳(東汀)《桑つみの少女》1912‐1926年 絹本彩色

作者不詳の作品もいくつかあります。こちらの作品は右下に「東汀女」の落款があります。植田主任学芸員は「作者は女性と考えられますが、詳細は分かりませんでした。でも作品がよければ展示する価値はあります」。

人気を集める作品を紹介

さて、ここからは作家の男女を問わず、来場者の人気の高い作品を紹介しましょう。場内では、一番気に入った作品にシールを付けてもらい、人気ランキングをおこなっています。

「どの作品が人気があるの?」と見るだけでも楽しいランキング
島崎鶏二《朝》1934年 キャンバス・油彩

開幕から一貫して人気を集める《朝》。水際に立ち、思いつめたような、あるいは挑むような表情の女性。薄手の着物の裾は端折られ、何やらただことではない雰囲気が漂います。作家の島崎鶏二(1907‐1944)は島崎藤村の次男。フランスに留学し、ピカソやマティスを研究するなど、最先端のアートに触れていました。帰国後はこうした詩的な作品を発表。大戦中は従軍画家として戦地に赴き、飛行機事故で無くなりました。

太田喜二郎《花摘図》1911‐1912年 キャンバス・油彩
笠木治郎吉《花を摘む少女》1897~1912年

洋画、日本画とも様々な作品がシールを集めていました。特に印象深かったのは洋画の充実ぶりです。昨今、日本画に比べて地味な印象の近代の洋画ですが、やはり見るべきものはいくらでもある、ということが分かります。

「絵画史」はほんの一部

ギャラリーツアーで、展示を紹介する星野桂三さん(右)作家の生い立ちや作品の背景まで、丁寧に教えてくれました

有名画家の大規模回顧展や、海外の著名美術館のコレクション展を見るのとは真逆の方向の展覧会ですが、充実度ではひけを取りません。植田主任学芸員は「有名な作家を中心に叙述されている絵画史が、歴史のほんの一部でしかないことが分かる内容だと思います」と言います。私たちアートファンも「誰が描いた」についつい目が向きがちになりますが、作品そのものにフォーカスすることの大切さを教えてくれる展覧会です。
(美術展ナビ編集班 岡部匡志)

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