海岸に流れついた北朝鮮からのゴミ。
有名なキャラクターを模したデザインまで…。
北朝鮮の実情に迫ろうという活動を取材しました。
(ソウル支局 長砂貴英)
北朝鮮の漂着ゴミは数千点に
「北朝鮮の住民たちが直接使用したものですから、暮らしの一部をうかがい知ることができます」
こう話すのは、韓国・トンア(東亜)大学のカン・ドンワン(姜東完)教授です。韓国の海岸に流れ着く北朝鮮のゴミを集め、そこから北朝鮮の内情を読み取ろうとする研究を続けています。
収集を始めたのは3年前。北朝鮮に近い韓国の離島を繰り返し訪れて、海岸でゴミを集め続けてきました。その数は数千点に上ります。
北朝鮮の製品かどうかは、規格の表記や国営工場の名前が記されているのかなどで判断するそうです。
カン教授が注目しているのは、食品のパッケージや生活用品です。人びとの暮らしに身近なものを中心に収集しているといいます。特徴的なものを紹介してもらいました。
“消費者ニーズは無視できない”
まず見せてもらったのは、食品の袋。なかでも、目についたのは、キャラクターが大きくプリントされている袋です。どこかで見たことのあるようなキャラクターですが…。
カン教授は、日本のキャラクターを模したデザインだと指摘します。
カン教授
「これはキャンディーの袋で、イチゴ味だから目はピンクなのでしょう」
赤と黒の配色が特徴的な即席麺の袋もあります。韓国の即席麺とデザインがそっくりだとカン教授は言います。
カン教授
「袋にキャラクターを入れるのは住民の趣向を反映しているといえます。添加物は入っていないとか、天然の味をそのままいかしたという宣伝文句も商品ごとに使われているのもわかります。当局が商品を作って一方的に供給するのではなく、企業所ごとに広告表記やデザインの入った製品をつくって消費者の目を引こうとしています」
かつて北朝鮮の経済は配給制が中心でしたが、1990年代の経済の混乱以降、配給制は事実上破綻し、各地に市場が拡大しています。キム・ジョンウン(金恩正)政権下で市場での取り引きは一段と活発になり、中国などからの輸入品は庶民にも身近なものになっているとみられています。
カン教授は「いまや市場を抜きにして北朝鮮の経済を語ることは難しい。漂着したゴミは北朝鮮の市場経済の様子をしっかり表しているといえる」と話しています。
国家や党は、消費者のニーズを意識せざるをえなくなっているという指摘です。
北朝鮮の体制を示すものも
さらに注目しているのが、収集物のなかでも特に多い乳製品のパッケージだそうです。
北朝鮮の国営メディアは、キム・ジョンウン総書記が2021年に朝鮮労働党の重要会議で子どもたちへの乳製品の提供に力を入れると表明したと伝えました。
カン教授は、乳製品のゴミが多いのはこのことと関係があるとみています。
カン教授
「『乳製品を円滑に供給せよ』との指示が出ると、それが商品生産において最優先されます。北朝鮮は外部との交流を絶ち、限られた原料で限られた商品を作るしかありませんが、その言葉に従って国の資源が乳製品に集中的に投じられたのです」
人びとの暮らしの実態は
ただし、これが国民生活の向上につながっているかというと、カン教授は疑問だといいます。
海岸からは、北朝鮮の商品名が書かれた歯磨き粉のチューブが数多く見つかっています。これらの多くは端の部分が切り取られています。
さらに破れた部分を補修した履物も数多く見つかっています。
日本や韓国でも歯磨き粉のチューブの端を切って最後まで使い切ることや、生活用品を修理して大切に使うことは、珍しいことではありません。
ただカン教授は、北朝鮮では商品の流通や人の移動が制限され、新型コロナ対策として外国との貿易を規制されていることを踏まえ、「北朝鮮内部の物資不足を確認でき、住民たちの実生活がうかがえる」と分析しています。
これからもゴミを集める
韓国政府は2023年2月、北朝鮮の一部の地域で餓死者が出ていると発表しました。また韓国の情報機関・国家情報院は北朝鮮で年間80万トンのコメが不足しているとの分析も明らかにしています。
2023年3月に開かれた国連安全保障理事会の非公式会合で、アメリカの国連大使は「北朝鮮は栄養よりも弾薬を、人びとよりもミサイルを優先させている」と非難しました。
北朝鮮の内情がさらに見えなくなっているいま、カン教授のように漂着ゴミの分析も含めたあらゆるアプローチでベールに包まれた北朝鮮の内情に迫ろうとすることの意味は、ますます重要になっています。
からの記事と詳細 ( 北朝鮮からの漂着ゴミ ベールに包まれた実情に迫る | NHK - nhk.or.jp )
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