アメリカで最も有名な“マフィア”
柳川範之氏(以下、柳川):大学もある意味で、かなりスタートアップ、ベンチャーの大きな苗床になりつつあるわけですけど、ぜひ今度は各務さんから、そのあたりをお話しいただければと思います。
各務茂夫氏(以下、各務):どうもありがとうございます。今日は櫛田さんと久しぶりにこうやって対面でお会いして、久しぶりにシリコンバレーのことを思いました。
シリコンバレーで有名なフェアチャイルドセミコンダクターという会社があるんですね。シリコンバレーの名前が示す通り、半導体ビジネスの会社です。実はこの会社にいた人で、辞めて会社を作った例がいくつもあります。
ボブ(ロバート)・ノイス、という人と、ゴードン・ムーアとアンディ・グローブ。アンディ・グローブは少し後に参画するのですが、この3人が創業したのが、1968年に生まれたインテルという会社ですね。
それから1976年にジェネンテックというバイオベンチャーができました。コーエン・ボイヤー特許という、スタンフォード大学とカリフォルニア大学サンフランシスコ校の2人の教授が1972年に開発した遺伝子組み換え技術で、短い論文で発表されました。
この遺伝子組み換え技術を使って、大腸菌を介してクローン化して、いわゆるヒトインスリンという糖尿病の薬を作る会社が生まれた。これが早々と上場し、今はロシュというグループの一部になっています。
さっき言ったように、フェアチャイルドという会社にいた人が辞めて会社をつくる。日本的に考えると「のれん分けをしている」と言ったほうが感覚的にわかるかなと思うんですけど。同時にジェネンテックを辞めた人が、後のバイオベンチャーをつくるんですね。
辞めた人がこうした新会社をつくることはいっぱいあります。フェアチャイルドにいた人が辞めてつくった会社は「フェアチルドレン」なんて言い方をして、ジェネンテックを辞めた人は「ジェネンテックマフィア」という言い方をするんですね。
アメリカで最も有名なマフィアはペイパルマフィアと言って、さっきのイーロン・マスクを含めて、きらびやかな創業・起業家の中にペイパルの出身者が多いわけですね。
日本での「のれん分け」事例
各務:これを当てはめると、グリーの田中(良和)さんは実は楽天にいた人です。楽天の創業間もない頃で、ご本人が、カオスとスーパーハイグロース(Super High Growth)とおっしゃっていました。半月で倍になっていくようなゲームの中にいた。
シュレッダーの紙を詰めたビニール袋を枕にして寝たみたいな、スーパーハイグロースでカオスの世界にいたという経験。半年もすると、まったく従業員がわからなくなってしまうような世界にいたことが、会社を作る時に重要だったとご本人はおっしゃっています。
メルカリの小泉(文明)さんは、mixiにいらっしゃったと思うんですね。私も起業家教育でmixiのケースはいくつか書いたことがあるんですけど、その時に小泉さんが大和証券から来られて、mixiのチーフフィナンシャルオフィサーになられた。
日本でも、どこかの会社を辞めたあとののれん分けは、ITビジネスの世界では進んでいるんですよ。それからリクルートものれん分けは結構あります。
これは江副(浩正)さんが築いた企業文化です。自分はホットペッパーをやったとかゼクシィをやったとか、あるいはSUUMOをやったとかいうのはやはり偉いと考えて、失敗した人は場合によっては外へ出て会社を作る。でも不思議と、こうした退職した方々が、リクルートもエコシステムを作っているわけですよね。
ソニーも同じことが言えて、ソニーを辞めた人は会社をいっぱいつくっている。この前お亡くなりになった出井(伸之)さんは私も何回もお会いしたことがありますが、出井さんはデジタルを強く前に打ち出した方で、いろんなスタートアップを支援された。
出井さん、次のCEOのハワード・ストリンガーさんの時は出井さんの方向付けの成果はあまり出なかったんですが、平井(一夫)さんや今の吉田(憲一郎)社長になって、ものすごく成果が出た。その間、ソニーの時価総額が1兆円を割った時もありますが、今は17兆円ぐらいありますから。そのプロセスを見ると、やはりいろんな辞めていった方が、実はのれん分けをしている。
米国のベンチャーキャピタリストは金融の人ではない
各務:今日冒頭にお話があった出雲(充)さんは起業家ですけど、出雲さんは今度はリアルテックファンドという、ベンチャーキャピタルファンドもやっていて、これが大きい。
アメリカのベンチャーキャピタリストは、基本的には銀行員でも金融の人でもなくて、もともと起業家の人です。エコシステムは時間軸の中でのれん分けをしていくのが本来の筋と考えた時に、日本に今欠けているものはディープテック(科学的発見や革新的技術で世界の大きな問題を解決する取り組み)系で、まだこののれん分けが起きていない。
ユーグレナはその一端を担うかもしれません。副社長の永田(暁彦)さんがリアルテックファンドの責任者で、今回もいらっしゃると思いますけど、殊によると高橋祥子さんは、そのうちのお一人かもしれません。
自分に近い東大で言うと、私と同じ工学系研究科という専攻にいる松尾豊先生のところの学生さんは、大学院を修了すると多くが会社をつくります。
会社をつくった人たちが、また次の人を育てる感じでぐるぐる回りが起きていて、AIとかディープラーニング、深層学習におけるところでは、時系列で見てのれん分けをする文化が生まれてきている。
こういうロールモデルが、周りにけっこう出ており、これは明らかに、私がこういう仕事を始めた20年前に比べると、随分と様変わりをしています。
学生の時に会社をつくって、今立派な会社になっている例がいろいろ周りにあるとすると、それが自然になってくると言うんでしょうか。しかもいよいよ我が国も起業家がベンチャーキャピタルファンドのほうに回る。
今日、例えば大企業にお勤めの参加者の方もいると思うんですけど、そこからスピンオフして、カーブアウトしてベンチャーが生まれる。それが会社の全体のエコシステムを作るような流れが生まれると、もっと日本は進展していく。いよいよその時になってきた。
ここにいらっしゃるみなさんが、次に来る人たちの担い手かなという感じがしています。そうやって考えるとわくわくします。ちょっと長くなりましたが、以上です。
個々の仕事が外部から見えづらい日本
柳川:とても重要なポイントがあったと思います。会社を作った人がのれん分けをして下の世代を育てるような、ネットワーク、エコシステムを作るには、ある程度時間がかかるわけです。日本はようやくそういう第2世代、第3世代、場合によっては第4世代ぐらいが出てきていて、そこからすると、かなり大きなチャンスがあるというお話だったと思います。
大企業のスピンアウトの話でいくと、なんでそこにいたほうがいいのか、どうしてのれん分けみたいなことが意味を持つのか。ある種のコミュニティネットワークとか、アルムナイ(卒業生)ネットワークとか、さっきのリクルートの話で言えば元リクみたいな、ここのネットワークが結局のところ意外に強いのではないか。
そういう意味では、このあすか会議、そしてグロービスのアルムナイネットワークは非常に強力なものになってくるんだと思うんです。私がシリコンバレーとかを見ていても、そういうネットワークが実際すごく強い感じがするんですけれど、そのあたりにお詳しい櫛田さんから意見をいただければと思います。
櫛田健児氏(以下、櫛田):人材の流動性が高いということは、「個」が評価されているわけです。なので、「個」が見えるかたちでのチームワークが非常に大事です。
私はいろんな日本の大企業で、シリコンバレーのスタートアップのカルチャーマネジメントや多文化活用みたいな話をしますが、そうするとネックになるのが、日本型のチームワークは、誰が何をやっているかよくわからないんですよね。
出てくるものはすごくいいけど、個別で誰が何をやっているのかが外から見えないので、評価ができなくて困ってしまうんです。向こうはちゃんとそれが見えている。それは、アルムナイにとっても影響します。
というのは、各務先生がおっしゃったように、インテル、AMDとかクライナー・パーキンス、有名なVCを作った(ユージン・)クライナーさんとか、いろんな人が出ているフェアチャイルドをはじめ、アップルマフィア、グーグルマフィア、ペイパルマフィア、テスラマフィア、あらゆるネットワークがあるんですけれども。
急拡大して、一気に大量にいい人を捕まえようとした時に、「どうやってその人を評価するんですか?」「その人は前職のグーグルとその前のアップルで一緒だった確かな人です。これは絶対このスタートアップに必要ですよ」と、そのスタートアップの中の人が言う。あるいはベンチャーキャピタルの人が「いや、この人はいいから」と薦めてくれる。
人材の流動性の高さが、企業と個人にもたらす価値
櫛田:なので、さっきのいくつものコンポーネントで言うところの、人材循環。例えば日本の大企業から出ていく矢印は、だいぶできていますよね。ただ、また大企業に入る矢印は、まだM&Aがあまりないのでそんなにないんですよね。
私は向こうで草サッカーを毎週やっているんですけど、そういう時にたまにこういう話がある。レバノン出身の42歳ぐらいのフレンドリーな人と「どうも」と話し始めた。「どこに勤めているんですか」と聞くと、彼は「オラクルです」と。数ヶ月経った別の日にその人が元気そうにしています。「どうしたんですか?」「大企業はもういいやと思って、自分の会社を作りました」と言われて。
しばらくすると、この人は忙しくなりすぎて草サッカーに出てこないわけです。久しぶりに出てくると、いい車に乗っているんですよね。昔、高かった時のテスラ。ちなみに、今テスラは大衆車です。でも当時の高級車しかなかった時のテスラに乗っていたわけです。
「大型の資金調達でもしたんですか?」と言ったら、「いやいや。買収されてまたオラクルの社員になってしまったんだよ」と。そして数ヶ月すると、また元気そうにしているので「どうしたんですか?」「いや、またまた辞めちゃったよ。もう大企業は無理」。
オラクルは大企業です。大企業は、何をやらないといけないかがだいたいわかっているんです。でも、事業部署でやろうとすると、ものすごくコストと時間がかかる。
優秀な社員が辞めて会社をやるとなったら、大企業は「うまくいかなかったらさようなら。でも、うまくいったら声を掛けてよ。なんかできそうなら買収しますよ」と考える。
この人はまた起業して、また忙しくなって来なくなりました。かなり久しぶりにまた現れたので、「今回はどうだったんですか?」と聞いたら、「またオラクルの社員になってしまいました」。2回買収されたんです。
(会場笑)
最初のM&Aが高く評価されたんでしょうね。その人は大企業の中にもネットワークがあって、そういう信頼を得ていた。こういうストーリーが日本でもっと一般的になるには、出ていく矢印の次の、入っていく矢印が必要です。
<続きは近日公開>
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