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Saturday, December 17, 2022

【権力は必ず腐敗する】「孤独な権力者」にならないためにリーダーが知っておきたいこと - ダイヤモンド・オンライン

「部下との関係がギクシャクしている」「チームにまとまりがない」「上司が強権的で不快だ」…。こういった”職場のネガティブな感情”を「妬み」「温度差」「不満」「権力」「信用」の5つに分け、それぞれの対処法をまとめた『武器としての組織心理学』という書籍が話題だ。最先端のエビデンスをもとに、マネジメントする側、される側それぞれに向けたアイデアが丁寧に書かれている。本記事では、本書をもとに「自分の身を守ってくれる防具にも、人を動かす武器にもなる組織心理学」の活用法をご紹介する。(構成:瀬田かおる)

武器としての組織心理学Photo: Adobe Stock

「権力が人を変える」を実証した有名な実験

立場が人をつくる」という言葉がある。

 責任がある立場についた途端、仕事に対し積極的になり、やがて人として成長していく。

 しかし、人はそう強くない。肩書を与えられたことで勘違いする人もいる。

 だが、権力という武器を手に威圧的な態度を取れば、一瞬で部下からの信頼を失ってしまうことになる。

 このことを実証した、1971年に行われた心理学者のフィリップ・ジンバルドーたちによる有名な実験がある。

スタンフォード監獄実験」だ。

 実験用に改造された大学の地下室。そこを刑務所に見立て、ジンバルドーたちは実験を試みた。

 まずは、実験参加者を囚人役と看守役に分ける。

 囚人役は、胸と背中に囚人番号が記された囚人服を着る。看守役には制服や警棒、匿名性を守るためにサングラスを着用させ、それぞれの役割を演じさせた。

 最初は戸惑っていた被験者たちだが、数日後にはそれぞれの役割(看守役は威圧的に、囚人役は囚人らしい言動を見せる)を演じるようになっていく。

この実験から、人間はいかに置かれた環境によって形づくられるのか、役割を付与されて強い権力を得た人間がいかに倫理観を崩壊させ、非人道的な悪魔のような存在に変化していくのかを私たちは知ることになりました(P.174) 

「立場が人をつくる」ということが明らかになったのだ。

権力の扱い方を間違え、部下の信頼をなくすまで

 地位や権力を手にしたした人は、次のような傾向にあることが組織心理学の研究から明らかになっている。

・他人をコントロールする権力を失わないように努める
・部下が利己的に動くのは嫌うが、自分自身は、地位を揺るがされるような事態に敏感で、自己利益に走る(P.175) 

 さらに別の研究から、権力に執着するリーダーは、優秀なサブリーダーに無理難題を指示することで権力を行使し、あろうことか正当な評価をしないことが分かった。

 社会心理学者のデービッド・キプニスたちは、この現象を「権力の腐敗」と名づけた。

 相手の立場や感情を読むことが十分にできなくなることで、権力の腐敗が起こっていくそうだ。 

「権力の腐敗」を防ぐヒントは部下

 リーダーは「部下からの要求の仕方」を内省することで、権力の腐敗から身を守ることができるという。

 まずは、部下が上司に要求するときの方法をみてみよう。

 このことは組織心理学では「(上方向への)影響戦略」と呼ばれており、9つに分かれている。

 1. 合理性:事実に基づく証拠や専門的な情報を示して、論理的に説明する
 2. 情熱性:熱意を込めて、相手の価値観や理想に訴えかける
 3. 相談性:意思決定や計画立案への参加、あるいは支援やアドバイスを求めたりする
 4. 迎合性:上司の機嫌を伺い、意見に同調する。”偽の民主主義”的なふるまい
 5. 交換性:承諾してくれたら次は必ず援助すると約束する。昔の恩を思い出させる
 6. 個人性:要求する前に、個人的な関わりを持ち出して依頼する
 7. より上の権威性:より高い権威者の支持、ルールや慣習などを盾にして訴える
 8. 主張性:従うべきルールを指摘し、繰り返し要求する。ときには脅しや圧力を含む
 9. 結託性:同僚や自分の部下の支持を取り付けて訴える(P.182) 

 部下からの要求が、これらの中で数字の大きいものほど、上司と部下の関係はかなり危険な状態であるという。

 部下から信用されていない状況であることが分かるというのだ。

 影響戦略を見ることで、上司は部下からどのように見られているのか、内省することができる。ヒントは部下からの要求の仕方にあるのだ。

「発言力」を高めて上司を動かす

 ここで、部下が権力を持つ上司に立ち向かうため、何ができるのかみてみよう。

 自分の意見が上司に聞き入れられた方が仕事はやりやすい。自分のためだけではなく、メンバーにとっても良い環境をつくることになる。

 政治経済学者のアルバート・O・ハーシュマンによると、組織に属する人には、3つのオプションがあるという。

 離脱:組織のメンバーであることをやめること
 発言:組織のメンバーとして声をあげて、組織を改善に向かわせること
 忠誠:組織への関わりの程度を強めること 

 強い忠誠心を持つ人ほど、離職する覚悟をもち工夫を凝らして発言する。組織のためを思うからこそ、辞める覚悟でモノを言うのだ。

 そんな「離職をちらつかせた発言」をされたら、大抵の上司は何らかの対応をせざるを得ない。忠誠心のある優秀な部下を手放すのは大きな損失だからだ。

 組織への関わりを強めておくことは、組織内で発言力を高め、やがて上司を動かす有効な手段なのである。

 しかし、発言の際に注意すべき点がある。

 それは、自己利益を守るための発言だと認識されないことだ。

 上司に「結局は自分の都合だけでモノを言っているだけじゃないか」と思われたら、かえって心証を悪くしてしまう。本末転倒である。

 あくまでも、組織やメンバーのためになるからだと上司に意識してもらうような発言を心掛けることが大切だ。

優れたリーダーに求められること

 では、忠誠心のある部下から要求されたとき、どんな対応をしたら良いのだろうか?

 もし、次の3つの行動をとっているなら、行動を改めたほうがいいだろう。

黙殺:発言を無視する
惰性:ルーティンワークをあてがう
排除:組織から追い出す 

 覚悟して発言しにきた部下に対しこれらの行動をとったなら、部下はさっさと組織を見限るだろう。部下の忠誠心をムダにしてはいけない。

 優れたリーダーに必要なのは、リスクを負って発言した部下の心情を推し量ることなのだ。

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