いま地方自治体では休日に許可を得て農家などで働く公務員の副業を推進する動きが広がっています。どういう背景があるのか。シリーズ「地域発」として仙台放送局の広池健大解説委員がお伝えします。
■全国の産地で公務員の副業推進■
りんご産地の青森県弘前市、さくらんぼ産地の山形県、日高昆布で有名な北海道日高地方、みかん産地で有名な和歌山県有田市…。地図で示したとおり、農作業や漁業の手伝いを副業として推進する自治体は各地に広がっていました。しかもこの1,2年で増えていました。
日本一のりんご産地、青森県弘前市でその理由を探ることにしました。訪れたのは10月末の土曜日、りんご畑ではたわわに実ったりんごを収穫したり、選別したりする作業が行われていました。1年で最も忙しいこの時期、弘前市の調査では3割の農家が必要な人手を確保できていないという結果もあり、この現状を打開しようと市は去年から職員に副業で収穫作業を手伝うよう呼びかけました。
弘前市観光課に勤務する渡邊一樹さんは、去年から副業を始めた1人です。この時期は土日の休みのうち1日を副業に当てています。作業はりんごの収穫と運搬が中心で、今では作業手順を理解し、受け入れ先の農家からも信頼されています。1日働いた分の報酬については教えてくれませんでしたが、副業の理由について質問すると「ふだんデスクワークばかりで、週に1度、仕事で体を動かせてリフレッシュにもなります。賃金が発生するため甘えは許されず、きちんと仕事しないといけないという気持ちです」と話していました。農家からも「2年目で作業の流れをわかっているし、本音では毎日でも来て欲しい」と喜んでいる様子でした。弘前市によりますと、りんご農家で副業した職員は去年34人、今年12人と、実際に副業に携わった数は決して多くはありませんが、時間や場所など条件があえば自分も副業したいという職員は増えているそうです。
■補助労働力が不足 背景にコロナも■
それにしても農業現場の人手不足は今に始まったことではありませんが、なぜいまこうした動きが広がっているのでしょうか。今回、不足が問題になっているのは、農家を手伝う「補助労働力」とされる人たちです。「補助労働力」は収穫や袋詰め、運搬などの作業を行う人たちですが、地方では高齢化や人口減少で年々、集めにくくなっています。特に果樹の産地では短期間に作業が集中し、一時期に大量の補助労働力が必要ですが、家族や近所の人が総出で作業に当たっても足りず、県外で求人募集して必要数を確保してきた経緯がありました。しかし、新型コロナの感染拡大で状況が一変しました。コロナで県をまたぐ移動が制限されたり、外国人材に頼っていた産地では、入国制限が長期化したりして、必要な人手を確保できなくなりました。このままでは地域の基幹産業が守れなくなるとの危機感からやむにやまれず職員に副業を呼びかける産地が増えています。
■公務員が副業 制約は?■
これまでも役場に勤めながら自宅の田んぼで農作業を行う「兼業農家」はいました。しかし、今回、産地で広がっているのは家業で行う農作業でなく、役場から許可を受けて行う副業、いわばアルバイトという位置づけです。最近は民間企業でも副業推進の動きが広がっているとはいえ、公務員が副業を行うことに制約はないのでしょうか。
地方自治体の職員は法律で「任命権者の許可を受けなければ(中略)報酬を得て事業や事務に従事してはならない」と規定されています。逆に解釈すると、許可があれば副業ができるということですが、これまでは許可基準が不明確で、手続きも煩雑だったことから、これまでは制限的な運用がされてきたといわれています。総務省でも民間企業の副業促進の動きにあわせるかたちで、令和2年、全国の自治体に具体的な許可基準を設定し、公表するよう通知を出しました。こうした背景もあり、人手不足に悩む産地を抱える自治体は地場産業を手助けする仕事に限って副業を認める動きにつがったとみられています。
副業を推進する自治体は、新たに制度を作って副業の条件を細かく定めています。副業の目的はあくまで地場産業の保護や地域貢献につながる活動で、副業で扱える品目や働く期間を特定する自治体もあります。副業である以上、本業に支障がないのが原則ですが、労働時間は国家公務員の兼業規定に沿って週に8時間以内、月に30時間以内を上限とし、報酬は「社会通念上、相当と認められる程度を超えない額」としています。民間企業でも働き過ぎを防止するため本業と副業を合算した労働時間をどう把握するかが課題となっていますが、それは地方自治体も同じです。
副業を希望する職員は「兼業許可の申請書」を職場に提出し、一度、許可されると副業を行うごとに申請は不要です。どの程度働いたか、実績を報告するのも年に1度でいいとする自治体も多いため、労働時間の管理は職員本人に任されているのが現状です。役場として副業の実態をどう把握するかは課題といえます。
■どう増やす農業の「関係人口」■
もちろん公務員の副業だけで産地の人手不足が解消できるわけではありません。国や民間企業では、公務員ではなく一般の人を対象にした対策も進んでいます。例えば、国が今年から本格的に取り組んでいるのが、産地どうしで「補助労働力」の人手を融通しあうのを促す「産地間連携推進事業」です。収穫など作業のピークは産地によって異なりますが、繁忙期のずれを利用して、作業が落ち着いている地域の「補助労働力」の人たちに忙しい産地に応援に行ってもらいやすくしようと国が必要な交通費や宿泊費の一部を支援する取り組みです。今年度は、この制度を利用し、福岡や大分の農業現場で働く人たちが山形でさくらんぼの収穫を、長崎で働く外国人材が夏場、長野や北海道で野菜や果樹の収穫を手伝いました。
民間企業でも産地を手助けする取り組みが進んでいます。例えば、旅行会社が、旅行と農作業を組み合わせた「アグリワーケーション」の商品を販売したり、航空会社が社員研修として農業現場に派遣したりする動きもあります。農業現場のいわば「関係人口」を増やす取り組みが官民挙げて進んでいます。
地域で進む人口減少や高齢化、産地が抱える人手不足の問題は、個々の農家の努力では 限界があります。また産地だけで解決できる問題ではなくなっています。コロナをきっかけにそうした課題が表面化したいま、官民挙げて実効性のある対策をみんなで考える必要があると思いました。
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