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アニメハックの編集部員として働きはじめて約5年。スタッフインタビューからアニメに興味をもつようになった筆者は、声優方面にはほとんど関心がなかった。入社当時は有名な声優の名前もろくに知らず、試行錯誤しながら声優インタビューをやってきて、最近ようやく自分なりに取り組める実感がもててきた。インタビューのやり方は人ぞれぞれで正解はないという前提で、声優の取材に関する雑感を実例とあわせてご紹介したい。
思考型と憑依型
キャラクターとどう向き合い、どんなことを意識して演じているのかという話をとおして、演者のパーソナルな部分も浮かびあがる。そんな取材ができたら理想だと思うが、そもそも「演じる」ことを聞くのはセンシティブな行為で、ポンと聞いて簡単に答えてもらえるものではないなとつくづく思う。
インタビューをしてきて、声優には大きく分けて思考型と憑依型のふたつのタイプがあるように感じている。思考型は自身がどう演じているかをある程度言語化でき、人の演技を分析して評することもある。声優同士で演技論を戦わせることを好むような方はこのタイプにあたるはずだ。取材側からするとありがたく“撮れ高”の多いインタビューになることが多い。
一方、憑依型は自身の演技を言語化せず、無意識に近いかたちで役にアプローチしているようにみえる。こちらの場合、演技を言葉にして語っていただくのは非常に難しい。自分のなかで言葉にしていないのだから、取材で聞かれて「こう演じました」と話せるはずがない。聞く側がその前提に気づかないままインタビューが進むと、味気ない一問一答の繰り返しになりがちだ。
アニメ監督の取材の場合、作品を見て気になったことを聞くとだいたい「なぜそうしたか」を具体的に答えてもらえる。アニメの画面は基本的にすべてが意図してつくられ、監督はその意図をスタッフに言葉で説明しているからだ。そうした取材に慣れていた筆者は、声優インタビューの場合、そもそも言語化されていない部分が大きいのだと実感してから、質問の仕方を変えることができた。
最近の例を挙げると、「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」の公開にあわせて、野沢雅子氏と古川登志夫氏のおふたりにインタビューをした。野沢氏には前作「ドラゴンボール超 ブロリー」のときにも登場いただき、そのときは外部ライターの方に取材を担当してもらった(筆者は編集・写真撮影で同席)(注1)。野沢氏は筆者の印象では憑依型で、悟空や悟飯イコール私という姿勢で演じられている。なので、「どう演じましたか」と聞いても、収録現場では悟空になりきっている、その場では敵役のことを本当に憎いと思ってやっているという答えが返ってくる。お話は十二分に面白かったが、次の機会があったら別の切り口で取材ができたらと考えていた。
その経験をふまえて自分なりに予習をし、「スーパーヒーロー」の取材では、野沢氏が過去の取材でよく話していた、事前に台本を読みこみすぎないようにしていることを訊ねてみた。思考型の古川氏と一緒だったこともあり、野沢氏の役への向き合い方の一端をうかがえたように思う(注2)。
テンプレ質問の良し悪し
「あなたにとって〇〇とは?」は愚問だとよく言われるが、取材をしていると話し手にばかりに負担をかける“丸投げ質問”をしてしまいがちだ。テンプレートな質問は何も考えずにできるし記事にもしやすい。好きなシーンやキャラクター、アフレコ現場の様子、完成した映像を見た感想、今後の見どころ……究極、一切準備をしなくてもインタビューはできる。ただ、テンプレな質問にはテンプレな答えが返ってきがちだし、仮にそれで面白い話をしてくれたとしても、それは話し手と聞き手の共同作業とはいえないだろう。
ただ、テンプレ=定番という言い方もできて、限られた時間で実施される作品宣伝を主眼とした声優インタビューでは、それが最適解になっている面もある。それでも例えば、「私は〇〇だと思いましたが~」と聞き手の仮説をつけ加えれば、違った答えが返ってくるかもしれない。話し手に過度な負担をかけず、気持ちよく話してもらうため臨機応変に対応するノウハウは、場数を踏んで反省を繰り返すことでしか身につかないように思う。
取材のための予備知識
声優インタビューにかぎらないが、最初に何を聞くかで取材の流れが決まってくる。取材時間が短い場合は特にそうで、取材のいい導入になりつつ、読者にも興味をもってもらえる質問をしたい。原作の感想、オリジナル作品の場合は台本を読んだ印象などからはじめるのもいいが、筆者は最近オーディションの話を聞くことが多い。
アニメの場合、ベテラン・新人を問わずオーディションで役が決まるケースがほとんどなことが業界内外で周知されている。そのためオーディションの話がNGになることは筆者の経験ではまずない。オーディションの話を聞くことで、作品との出合い、役への最初のアプローチ、そのさい音響監督からどんな指摘をうけたのか、役が決まったときの喜びなどをまとめて聞くことができる。ただし、最近はコロナ禍の影響で対面のオーディションを行わず、指定されたセリフを録音して提出する「テープオーディション」のみで役が決まるケースもある。
収録の話を聞くときも、コロナ禍以降はキャスト全員がそろっての収録が行われていないケースも多いので聞き方に注意が必要だ。キャスト同士が収録では一度も会えず、取材やイベントが初めて会う場だったなんてことも珍しくない。また、最近では映像にあわせて演技するアフレコではなく、声優の裁量がより大きいプレスコ(声を先に収録して映像のほうをあわせる)収録の場合もある。
他のインタビューや声優・音響監督の著書などを読むことで声優の世界への理解が深まり、それらを踏まえた質問すると一歩進んだ答えを返してもらえる可能性が高まる。そうすると声優関連のトピックにも自然と関心が向き、これまで気にとめなかった声の演技の良さに気づけるようになってくる。
インタビューでは聞き手に関心や知識がないことは聞けないし、聞いて理解できないことは原稿にできない。知識と実践の積み重ねが大事で、話し手も裏付けのある「聞きたい」という熱意に答えてくれるのだと思う。その点では筆者が好きなスタッフへの取材と同じなのだと気がついてから、声優インタビューがより楽しくなってきた。(「大阪保険医雑誌」22年7月号掲載/一部改稿)
注1:「ドラゴンボール超 ブロリー」野沢雅子が実感する悟空の秘めたる力 拳を交わした強敵はみんな友だち
https://anime.eiga.com/news/107611/
注2:野沢雅子と古川登志夫が語る、孫悟飯と“ピッコロさん”の絆、コロナ禍の収録、今の声優業界
https://anime.eiga.com/news/116164/
編集Gのサブカル本棚
[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ) 映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。
作品情報
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かつて、孫悟空により壊滅した悪の組織<レッドリボン軍>。その意志を継いだ者たちが、新たに最強の人造人間・ガンマ1号、2号を生みだした。彼らは自らを「スーパーヒーロー」と名乗り、ピッコロ、悟飯らを...
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