数年前、友達に教えてもらったお店があります。なんでも、「アイスティーが金魚鉢で出てくる」とか、「パフェとドリンクがひとつになって出てくる」とか。
そんなことある? と思って行ってみたところ、本当にドリンクがクソデカだったので、思わず笑ってしまいました。大盛りで有名な名古屋発祥の喫茶チェーン店がありますが、サイズではこっちだって負けてはいません。
その喫茶店の名は「珈琲屋OB」。埼玉県南部を中心に19店舗を展開する一大グループ。それなのに、不思議なことにインターネットで調べてみても、このお店の情報は驚くほど少ないのです。
だったら、直接行って確かめてみたい! われわれ取材班は、本店のある埼玉県八潮市に飛びました。
八潮駅からバスで25分。ふと目に入ってくるログハウスのお店。
珈琲屋OB ログ八潮にお邪魔しました。
取材に応じてくれたのは珈琲屋OBを運営する有限会社珈琲茶館オービー・本部長の千葉さん。よろしくお願いします!
※本インタビューは2021年12月上旬に、新型コロナウイルス感染症対策を徹底した上で実施しています。
OBのドリンク、どうしてこんなに大きいの?
──珈琲屋OB(以下OB)の特徴と言えば、なんといっても超大盛りのドリンクです。いったいなぜこんなことに?
▲頼んだアイスコーヒーは、明らかに量が多い。4.2インチのスマホと比べてもこのサイズ
千葉さん(以下、千葉):それが、創業当時は別にそんなに大盛りじゃなかったみたいなんですよ。
──えっ、そうなんですか!?
千葉:大盛りじゃなかったんだけど、だんだんファミレスが増えてきたじゃない? そこで、「喫茶店もちょっと厳しい時代になるだろうな」って社長が考えたのね。ご飯が大盛りのお店って結構あるし、人気でしょ。
でもドリンクの大盛りってないよねってことで、ちょっと大きくしたらお客さんから喜ばれて。そしたらだんだんエスカレートしちゃって、今に至るみたいなね(笑)。
──いつごろから大きくなったんですか?
千葉:ここのお店ができた時にはもう大きかったから、創業7年目ぐらいかな。1980年代半ばですね。
──今、ドリンクはどれぐらいの量が入ってるんですか?
千葉:アイスコーヒーは500mlぐらい。ホットコーヒーはホット対応のカップで大きいのがないから、ちょっと少なくて350ml。アイスティーが一番多くて1.8Lで、その他の飲み物はだいたい1Lあるかな。氷が多いんだけど、氷が溶けても味が変わらないように、普通より濃く作ってるんですよ。
当時は……まぁ今もだけど、そんな大きなグラスもなかったから、結構探したよね。
▲「ちょっと少ない」というホットコーヒーも350ml。普通のマグカップの約1.5倍だ
──「OBのグラスは金魚鉢」なんてよく言われてますが、あれはどこから仕入れてるんですか?
千葉:アイスコーヒーはビール用の中ジョッキ。ホットコーヒー用のカップなんかはなかなか見当たらないので、100円ショップとかでまとめ買いしますね。
──100円ショップ!?
千葉:そう。昔は食器屋さんとかで必死に探したんだけど、やっぱりそうそうないからさ。だから今はもうだいたい100円ショップ。割れたら困るから、よさそうなのを見つけたら100個単位でまとめ買いして(笑)。
あとはパフェの容器はワインのデキャンタで、アイスティーの容器は本当に金魚鉢。コーヒーや紅茶に付けるミルクはショットグラスだったかな。それから、そうめん用の器や花瓶もよく使ってますよ。
▲これが金魚鉢で提供されるアイスティー。サイズが筆者の顔ぐらいあるぞ!
──ものの例えじゃなくて、本当に金魚鉢だったんですね! ガムシロップの容器はピッチャーですか……?
千葉:私にはもうガムシロ入れにしか見えないんだけど、そうかな。ああ、そういえば初めて来たお客さんが間違えてお水のコップに入れちゃうなんてこともあるから、やっぱりピッチャーなのかもね。あはは。
▲そう、ガムシロップはピッチャーに入っているのだ。全てが規格外!
──規模感が大きすぎて感覚がバグってきますよね……。
千葉:食事やケーキを出すと「あっ、こっちは大きくないんですね……!」って逆にびっくりされちゃうことも多いね(笑)。別に食事が小さいサイズってわけじゃなくて普通なんだけど、とにかくドリンクが大きいから。
▲ケーキは決して小さくない。相対的に小さく見えてしまうマジックだ!
戦略はない!? OBの経営方針
──OBのことはSNSでもちょくちょく話題になっていますが、インターネットを調べてもほとんど情報がないんです。そこで今回は色々教えていただこうと思ってやってきました。
千葉:うち、自己発信しないんですよ。全部お客さんが載っけてくれるから。ホラ、自分でいいこと言ってても、いまいち信用ならないじゃない。
お客さんはいいことも悪いことも、全部素直に書いてくれるから、それを見ていいなと思ってまた新しいお客さんが来てくれたらさ。それが一番いいなって思って。めんどくさくないし(笑)。
──そういう理由なんですか! じゃあ、SNSをエゴサしてお客さんの意見を調べたりなんかは……。
千葉:しないしない、全然しない。悪いことも知らないし、いいことも知らないの。単に私や社長がITに弱くて、そもそも触れられないってのもあるけどね。
やっぱり見ちゃうと揺らいじゃうじゃない? 今は自分たちがいいと思うことをやって、お客さんが来てくれてるから、それでいいのかなって思うね。お客さんが離れていっちゃったらまた考えないとダメかもしれないけどさ。それまではこれでいこうって。
──なるほど……。あえて見ないっていうのもひとつの方法なんですね。わたしもあまりにも情報がないので、気になって来てしまいましたし。
千葉:ふふふ。何でも聞いてちょうだい。
──こちらの本店がオープンしたのはいつですか?
千葉:2021年で創業44年目だから……1977年かな。でもね、それはこのお店じゃないの。今はここを本店にしてるんだけど、実は6店舗目。元々はここの斜め向かい100mぐらいのところに本店があったのよ。
──6店舗目! そうなんですか。
千葉:そう、今残ってる中で一番古いのは、3号店の谷塚店(埼玉県草加市)かな。次がここですね。
▲なんと、本店は創業店ではなかった
──OBは諏訪、神戸にも出店していますし、新百合ヶ丘や藤沢などにもお店がありますが、基本的には埼玉県南部を中心とした狭いエリアに数多くお店を出している印象があります。
千葉:だいたいここから車で20分以内の範囲だよね。越谷はちょっと離れてるけど、越谷にある4店舗はそれぞれ車で10分ぐらいの範囲にあるし。
──やはりそれは集中して出店するドミナント戦略が……?
千葉:いや、それはたまたま。うちは建物やお店は大家さんに建ててもらってて、自分のものじゃないのよね。設備とか什器は自前なんだけど、建物は全部借りてて、毎月賃貸料をお支払いして借りてるんですよ。
だから、店舗が集中してるのは、この近辺に土地を持ってて、建物を建ててくれる大家さんがいたからですよ。その辺は社長の人徳かな。言われてみればちょっと近すぎるかもしれないけどね。戦略なんて全然ない(笑)。
▲OBの店舗一覧。埼玉県の比率がかなり高い(「珈琲屋OB」ホームページよりキャプチャ)
──なんと! では遠く離れた神戸や諏訪にはなぜ出店しているんですか?
千葉:あれは商業施設さん経由かな。全国に店舗があるファッションビルにお声をかけていただいて新百合ヶ丘店ができたんですよ。そしたら「じゃあここはどうですか」「ここに出しませんか」って言っていただけて。ほんとに全部ご縁なんですよ。
──あと、OBはフルサービス店とセルフサービス店の2つに分かれていますが、これはなぜですか?
千葉:駅前はどうしても敷地が狭いから、コーヒーもそんなに大きくないカップでね。券売機でお客さんにチケットを買ってもらって、コーヒースタンドみたいなイメージかな。逆に郊外は広いから、お客さんにお家のようにゆっくり過ごしてもらおうと思っていますよ。
セルフサービス店は「カフェOB」って名前になっているので、店名でわかりますよ。
──そうなんですね。直営とフランチャイズで分けてるのかな、と思っていました。
千葉:うちは全部直営なの。直営だからこうやって適当にできるのよ(笑)。
──いやいや、独特なサービスで存在感を発揮されてると思います。
OBの名前の由来と歴史
──名前の由来には所説あるようなんですが、なぜ店名がOBなんですか?
千葉:ほんとは、社長の名前をもじって付けたんですよ。昔そういうお店がよくあったでしょう。社長が「小尾」って名前なんでね。
──おお、社長の名前説が正解だったんですね!
千葉:でも、ウケないでしょ? みんなそんな答え期待してないじゃん。だから、今は「Oh Big!」の略ってことにね、しました(笑)。
──名前の由来が変わっちゃった!
千葉:適当だからさ。あはは。
──そんなOBの歴史について教えてください。
千葉:社長は結構苦労人でね、山梨出身なんだけど、貧乏だったんですよ。頭がよくて、高校は奨学金で行ったんだけど、卒業したらお金もないしで、家出同然、帰り賃も持たずに片道切符だけで東京に出てきたんだって。
──はい。
千葉:上野駅で「今日ご飯が食べられるところ」を狙って1泊2食付きの求人を探して、キャバレーだったり、港湾労働だったりを、転々としていたらしいんですよ。そして最後にいたのが新宿の「コーヒーロードしみず」って喫茶店で。そこで結構厳しく教えられて、「将来やるならコーヒー屋やとんかつ屋だ」って思ったんだって。
▲このお店も、もしかしたらとんかつ屋だったかもしれない!?
──もしかしたら、とんかつ屋OBが生まれてたのかもしれないのか……! それにしてもなぜとんかつだったんです?
千葉:とんかつなんて当時食べられなかったから。
──自分でやればお腹いっぱい食べられるぞと。
千葉:そうそう。そういう時代だよね。1964年かな。「スポーツの祭典に裸足で走ってたマラソン選手がいた」って言ってたから。で、それからお金を貯めるためにこの辺でトラックの運転手を十数年やったって言ってたかな。
──本当に色々されていたんですね。
千葉:社長、今も毎日お店の材料を運んでますよ。簡単な修理とかもできるし、一家に一台ほしい人材です(笑)。
──今でも毎日働いてらっしゃるんですか。
千葉:そうなのよ。で、1号店を開店しても最初は閑古鳥が鳴いてたんだけど、自家焙煎を始めて、半年ぐらいしたら急にお客さんが増え始めたんだって。
──へぇ! それは何かきっかけが!?
千葉:それが全然わかんないんだけど(笑)。何かあったら書けるのにね、ごめんね。でも、そこから2年に1店舗ずつぐらいのペースでお店を出して、今があるような感じだね。
自家焙煎だから安くできる
──そういえば、OBのコーヒーは自家焙煎なんですよね。「適当」なんて言ってますけど、すごく手間をかけているじゃないですか。やはり味にこだわって……?
千葉:ううん、それはね、安いから(笑)。
──そうなんですか!? 「コーヒーロードしみず」さんで教わったとかではなく?
千葉:そうそう。焼いた豆を買うより、自分で焼いたほうが安いじゃない。それで始めたって言ってましたね。うちは「OB券」っていつでも何度でも使える10%割引券があるじゃない? 自家焙煎じゃなきゃ、この値段でコーヒーは出せないですね。
▲何度でも使える、全品10%OFFになるOB券。ホームページにもクーポンがある
──確かに……。OB券を持ってない人向けに、ホームページにも10%引きクーポンがありますよね。この価格で本当に儲かってるのか不思議でした。
千葉:やっぱり、原価が全然違うからね。うちはそんなに高い豆は使ってないんですよ。もちろん悪い豆は使ってないんだけど、ほんとに普通の豆だから。
──コーヒー豆は最近価格が高騰してますしね。
千葉:確かに、今年(2021年)の夏ごろから数年前の倍ぐらいになったよねぇ。まぁ、でも安い時もあるわけだから、高い時だけ文句を言うのも違うしね。
▲自家焙煎したOBの豆
──自家焙煎って言うと、どうもすごくこだわりがあるお店が多いイメージなんですが、そういうわけでもないんですね。いい意味でこだわりがないというか。
千葉:だって、高い豆を使ってすごくいいコーヒーを淹れても、限られたお客さんしか来られないでしょ? やっぱり色んなお客さんに広く親しんでもらって、落ち着いて時間を過ごしてもらいたいじゃない。あとはちょっと濃く焼いたりとか、夏と冬でちょっと変えたりとかもできるし。
▲本店には焙煎室がある
──お店で豆を焼いてるんですか?
千葉:そうそう、ここ(本店)で私が焼いて、社長が各店舗に届けてますね。営業中に焼いたり、夜焼いてる時もあるかな。1週間に15時間ぐらいは焼いてると思う。焼いてる時は煙突から煙が出るのね。前、夜焼いてる時に大きな地震があってさ、黒い煙がもくもく上がってるもんだから消防車呼ばれちゃって。
──ええっ!?
千葉:幸い、水をかけられる前に気付いたからよかったけどね。まぁ、そんな感じで「焦げた!」とか言いながら(笑)、楽しくやってますよ。
▲豆を焙煎するのはもっぱら千葉さんの仕事
──楽しみながら仕事をされているのが伝わってきます。でも自分で焙煎したコーヒーっておいしいですよね。
千葉:そうそう。やっぱりいい豆でも時間が経つと、どうしても悪くなっちゃうじゃない? うちだと焙煎してすぐ使えるから。そういう部分も自家焙煎でよかったところかもしれないね。
▲店内で自家焙煎したコーヒーは格別だ
「適当」だけど、手作りにはこだわる
──コーヒー以外にも、ドリンクとパフェが合体した「クリームソーダパフェ」など、さまざまなメニューがありますよね。
千葉:パフェはね、食べるのが難しいですよ。みんなだいたい上から食べるんだけど、アイスやバナナが落っこちちゃったら取れないですからねこれ。気を付けて食べないと、あはは。
▲これがOB名物の「クリームソーダパフェ」だ! 顔になっているのがかわいい
──飲み物とパフェが合体したメニュー、よそにはないですよね。
千葉:ないと思うね。これは何かの取材を受けてる時に「変わったメニュー、作らないんですか」なんて言われてね。いやー、何か考えますかなんて答えちゃったから、適当にね(笑)。
──フルーツジュースや紅茶については何か秘密はありますか?
千葉:紅茶もオリジナルのブレンドにしてもらってるんですよ。プライベートブランドとまではいかないけど。フルーツジュースは半分近くが牛乳だから、ここだけの話、結構原価は高いよ。だから、うちは普通の喫茶店よりは利益が薄いんじゃないかな。
▲牛乳をふんだんに使っているイチゴジュース
──千葉さんは「適当」って言っていますけど、「できたて」にはこだわってますよね。
千葉:そうだね、そこだけはこだわってるかな。案外知られてないんだけど、うちはマヨネーズもドレッシングも手作りしてるんですよ。あとはピザのソースとかも。
──そうなんですか? ではそれも千葉さんがオリジナルのブレンドを……?
千葉:ううん、バイトの子が作ってますよ。そんな秘伝でもなんでもないし、難しくないから誰でもできちゃう(笑)。でも、お客さんにへんなもの出すわけにはいかないじゃない。すごいものではないけど、手作りで新鮮なものを出したいと思ってますね。ありふれた材料かもしれないけど、ちょっと手間を加えてね。「我が家の味」じゃないけど。
──材料にはこだわってないけど、手作りとか家庭的な雰囲気づくりにこだわってる感じがしますね。
▲「手作りにこだわってます」
千葉:雰囲気は確かによく言われるかな。うち、お皿が空になっても下げにいかないんですよ。
──えっ? それはどうしてですか?
千葉:お店に行くとさ、後で食べようと思って残してるのに下げられちゃうことない? あれが嫌でさ。だから、追加の注文を持っていって、テーブルがいっぱいだったら聞くけど、「そうじゃなかったらほっといて」ってバイトの子にも言ってる(笑)。
──ああ、居心地のよさはそういうところから生まれてるんですね……!
千葉:木をふんだんに使った店内で、非日常性を楽しみながら家庭的な雰囲気をね……。まぁ、適当なんだけどさ(笑)。お客さんが喜んでくれるうちは大丈夫かな、って。
▲非日常的な店内と家庭的な雰囲気も魅力
──わたしもそうなんですが、たぶんファンはそういう雰囲気とか親しみやすさも込みでOBのことが好きなんでしょうね。
千葉:そうだとありがたいですね。そうそう、うちは商標登録とかもしてないんですよ。だから、「もし誰かに名前取られちゃったらどうすんのよ」なんて話もされたんですけど、社長は「そしたらCBにするからいいんだ」って(笑)。適当だし、もしかしたら名前すらも変わるかもしれないけど、今後も多くのお客さんに愛してもらえたらうれしいですね。
▲おいしかったです。ごちそうさまでした
お店情報
珈琲屋OB ログ八潮
住所:埼玉県八潮市緑町4-12-9
電話番号:048-998-1969
営業時間:9:00~22:00(※営業時間は新型コロナウイルスの影響により随時変更あり。ホームページをご確認ください)
定休日:なし
HP:https://coffee-ob.com/store_yashio.html
書いた人:少年B
食べることが大好きなフリーライター。「高カロリーなものを食す罪悪感をあらゆる屁理屈で肯定する宗教」セーフ教の教祖をしています。お腹がすくと凶暴になり、満腹になると眠くなる機能を搭載。
からの記事と詳細 ( 金魚鉢のアイスティー!?ドリンクがとにかくデカい珈琲屋OBに、ヒミツを全部聞いてきた - メシ通 )
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