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Monday, July 25, 2022

経産省の元官僚が、起業家やクリエイターに抱いた「劣等感」 ロジカルな世界から一転し、苦手だった「創造力」を鍛えたワケ - ログミー

経産省やBCGなどを経て、コンサルタントとして活動

財前英司氏(以下、財前):本日の華麗なるゲスト、永井翔吾さんにご登場いただきたいと思います。みなさん、拍手でお迎えください。永井さんどうぞ。

(会場拍手)

永井翔吾氏(以下、永井):お願いします。

財前:永井さんのプロフィールは、こちらに書いてあるとおりです。

「わ、まぶしい!」という感じのプロフィールですが、今からお話をしていただけたら、永井さんのお人柄も含めてみなさんにいろいろと伝わるんじゃないかなと思っています。今はVISITS Technologiesという会社で、コンサルタントとして働いていらっしゃいます。

最初にちょっとだけお話ししたいんですが、みなさんはこの映画を知ってますか? ジム・キャリーの『イエスマン “YES”は人生のパスワード』。知ってる人、何人かいらっしゃいますね。ジム・キャリーといったら『マスク』が有名ですが、この『イエスマン』という映画があるんです。

「イエスマン」というと、日本だと信念がなくて、何を言われても「はい」って言うとか、「人の言いなりになって、無批判に従う」と揶揄されたり、あまりいい意味では使われないですよね。僕も今日、イエスマンって書いてあるTシャツを着てるんですけど。

永井:(笑)。

財前:映画の内容としては、主人公のジム・キャリーは消極的な銀行マンで、なんでも「ノー」って言うような人やったんですね。

離婚もして、なかなか仕事もうまくいかないから、「人生おもしろくねーな」と思ってるところに、友だちに「こんなセミナーあるよ」と言われてついて行ったら、めちゃめちゃ怪しい自己啓発セミナーだったんです。

「とりあえず、すべてにおいて『イエス』と言いなさい」といった内容のセミナーだったので、ジム・キャリーはそれを信じて「イエス」「イエス」と言っていたら、いろんなことが起きはじめた。簡単に言うと、そういう話なんですね。

「イエスバット」ではなく「イエスアンド」で返答する

財前:「財前、なんで今日はこんな話しとんねや」と思うと思いますが、実は「イエス」だけではなく、その後に続く言葉が大事だよということなんです。「イエスアンド法」というのがあって、イエスの後に「アンド」を加える話し方です。相手の意見を聞いた時にイエスと言って、そのあとに相手の意見に乗っかる方法です。

「明日、永井さんの講演があるんだって。行かない?」「いいね! じゃあせっかく梅田へ行くし、梅田でおいしいうどんでも食べようよ」とか、相手が言ったことに対して、さらに自分のやりたいことや自分のアイデアを出していく感じです。イエスアンドは「ツッコミ」じゃなくて、「相手のボケに乗っかってさらにボケる」みたいな感じなんです。

例えば、漫才の基本はボケとツッコミですよね。それを変えた笑い飯の漫才は「俺にボケさせろ、俺のほうがおもしろい」というのを相互にやり合うダブルボケですが、笑い飯みたいな感じじゃないんです。どっちかというと、ハライチ的な漫才のほうですね。相手がボケたことに対して、さらに自分のボケを重ねる。

みなさんにも部下や後輩がいらっしゃるかもしれないですが、「いいね。でも、こういうところがだめなんじゃない?」「わかる。でもこういう問題があるよね」という感じで、角が立たないように、いったんはイエスと言いつつも「BUT」で返している、イエスバットが多いと思います。これをアンドで返していくと、よりアイデアが盛り上がって、部下も前向きになりやすい。

仕事をする上で、自分なりの「型」を持つことが大事

財前:みなさんはそれぞれ、仕事で自分なりに「技化」しているものがあると思うんですが、相手と話す時や仕事をする際に自分の中に「うまくいくための型」を持つことが非常に大事だなと思っています。

我々もいろんな起業相談を受ける時に、いつもイエスアンドで話すようにしています。起業のアイデアや新規事業はどこまでいっても最初は完璧ではないし、ツッコミどころがあるので、結局そんなところにツッコミを入れたって仕方ないんです。

「いいね、もっとこうしたらいいんじゃない?」「わかる、さらにこのやり方もあるよね」といったものを使って、我々はそれを対話の「型」にしています。今日は「創造性の型」ということで、永井さんが経験から身に付けたフレームワークや思考法をお話しいただきます。

いつもよりちょっと多めに話しちゃいましたが、今日の永井さんのお話を聞いて、ぜひ自分なりに「型」を持つヒントを得ていただきたいなということで、みなさんも後でリフレクションするために、ぜひメモしてくださいね。というわけで、今から永井さんにバトンタッチして大丈夫ですかね?

永井:はい。

財前:じゃあ、よろしくお願いします。

永井:初めまして、永井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。今日はここから1時間ぐらい時間をいただきまして、本の内容も含めて、私からお話をさせていただければなと思います。

けっこう気合いを入れてスライドを作ってきてしまっていますが、本の内容と重複するところもあると思いますので、「だいたいこのへんの話をしてるなぁ」というのがあれば、本やノートにメモを取っていただくとか、ぜひそういうかたちでご活用いただければなと思います。

「ロジカル」が強みな一方で、創造的な発想が苦手だった

永井:簡単に自己紹介なんですが、実は長男を一緒に連れてきていて、今日は完全に「休日のパパモード」なところもありまして。

今は親戚に見てもらっているんですが、今日の午前中は梅田のポケモンセンターに行って、長男も大変喜んでいました。ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

それでは、さっそく中身に入っていきたいと思います。大きく1から6のテーマで、いろいろとお話をしていければなと思いますので、よろしくお願いいたします。

1つめは「創造力やイノベーションとは?」というところを、簡単にお話をさせていただいて、実際にフレームワークに入っていければなと思います。

私自身も信念として持っているのが、「創造力は鍛えられる」ということです。司法試験や国家公務員試験を受けて、さらに官僚になって、とにかく細かいことを詰める。ロジカルに説明しなければ、どんどん課長・部長・局長に潰されるような世界で生きてきました。

そうした中では、「ロジカル」は一定程度自分の強みだなと思っていたんですが、一方でクリエイティブな発想をするとか、創造的に物事を考えるところには非常に苦手意識がありました。

学生時代の仲間が起業していたり、クリエイターとして働いてるのを見ていて、自分にとっては一番遠い存在というか、むしろ劣等感を抱くぐらいだったんです。ただ一方で憧れもあり、「挑戦してみたい」という気持ちもありました。

現在は「デザイン思考テスト」という、クリエイティブな能力を可視化するテストの事業責任者をやらせていただいていたり、まがりなりにも本(『創造力を民主化するたった1つのフレームワークと3つの思考法』)を出させていただいて、少しは創造的になれたのかなと思っています。

創造力を“鍛える”と、後天的に伸ばすことができる

永井:私が少しでも変われた理由は、本書で書いているように、ふだんからフレームワークを意識しながら考えていくことによって、自分のクリエイティビティや創造力が育まれたなと思っています。「創造力は鍛えられる」「がんばれば伸ばせるんだ」と、ぜひみなさんも思いながらがんばっていただけたらなと思っています。

続いて、これも「ファクト」みたいな話になってしまうんですが、有名なクレイトン・クリステンセン教授も、「イノベーションに必要な能力のほぼ3分の2が、学習を通じて取得できる」と言っています。

創造力、イノベーションに必要な能力は、後天的に鍛えられる、伸ばせるんだという前提で話を進めていきます。

じゃあ、創造力って何なの? といった時に、もちろんいろんな解釈はあるんですが、私が一番頼りにしている解釈は「創造力とは、いろいろな物事をつなぐ力」です。これは私が言っているというよりは、有名なスティーブ・ジョブズが言っているものです。

スティーブ・ジョブズは「Connecting the dots」という言い方もしてるんですが、いろんな新しいものを生み出すだけではなく、人生も点と点を線でつないでいくことが非常に大事で、そういうものが創造力なんだと言っています。

創造力やイノベーションというと、どうしても真面目な方は「ゼロイチで無から有を生み出さないといけない」「それぞれをちょっとずつパクっているだけなので、それはいけないんじゃないか?」と思ってしまうと思います。むしろ、昔の私はそうだったんですね。

とてもじゃないですが、そういうふうに考えてしまうと、この世の中で0から1を生み出すことは本当に難しいです。「むしろ創造力やイノベーションは、いろんなものの組み合わせの中から生まれてくるんだ」「いろんなものを組み合わせてみたらいいんじゃないか?」くらいに、少しハードルを下げて考えていただくのが大事だと思います。

イノベーションとは、必ずしも「技術革新」ではない

永井:いろんな文献を読んでいて、初めて知って「おもしろいな」と思ったんですが、アインシュタインはアイデアを記号化・シンボル化した上で、組み合わせをしながらさらに新しいアイデアを考えていったと言われています。

要するに、いろんなアイデアを少し抽象的に、概念的に考えて組み合わせる。

また、このヨーゼフ・シュンペーターも非常に有名です。明確に言ったわけではないんですが、「一番最初のイノベーションが生まれる背景にも新結合がある」という旨のことを、文章で初めて言われた方です。

非常に有名な話なんですが、「イノベーションも新結合の中から生まれてくるんだ」という解釈を持って、新規事業やイノベーション、創造的な発想をすることを考えていただければなと思っています。

元役所出身の私が言うのもなんなんですが、「イノベーション」という言葉が日本に入ってきた時、官公庁系がそう訳してしまったこともありまして、「技術革新」という広がり方をしてしまったんです。

技術革新と考えてしまうと、「新しい技術じゃないとイノベーションじゃない」と思ってしまって、どうしても「じゃあ、やっぱりイノベーションって難しいよね」という話になってしまう。

ただ一方で、そうではないと。イノベーションは、今ある技術であっても、新しい組み合わせであれば起こせるんだということで、むしろ海外的に主流だったのが「新結合」です。昨今は日本の中でも、「イノベーションはどういうものから生まれてくるのかというと、新結合だ」と言われるのが多数派になってきていると思います。

補足的なことを言いますと、「イノベーションは新結合」と言うと、ちょっと違います。イノベーションは新結合から生まれてくる、ということです。

イノベーションとは「人々の生活を不可逆的に進歩させるもの」

永井:じゃあ、イノベーションってどういう状態のこと? という話なんですが、私自身は「イノベーションとは、人々の生活を不可逆的に進歩させるもの」だと考えています。

ちょっと紛らわしいんですが、さっきはイノベーションが生まれる理由や背景の話をしていて、今はイノベーションがどういう状態のものなのかの話をしています。このへんは、混在して話をしてしまう方がいらっしゃったりするんですが、分けて考えていただいたほうがよりクリアになるのかなと思っています。

この「イノベーションがこういうものである」という定義は私が考えたものなので、このとおりに解釈したり、定義いただかなくてもけっこうです。

まずイノベーションとは、多くの人々に対して影響を与えるものです。なので、「わあ、おもしろいものができた」と言って数人で楽しんでいるものは、イノベーションではないと思っています。

もちろん、それはクリエイティビティの発揮であったり、創造的な新しい物事かもしれないんですが、イノベーションは多くの方たちに影響を与えるものになりますので、一部の少数の人たちで盛り上がっているものは、イノベーションとは言い切れないなと思っています。

「イノベーション」と「ブーム」の違い

永井:そして次が「生活を不可逆的に」と書いたんですが、不可逆的にというのは、「これが広まっていったら、もう元の世界には戻れないようなもの」です。例えば、馬車から自動車に換わって広まった後に、「やっぱり馬車に戻りたい」と言っても戻れないじゃないですか。

おそらく今ですと、エンジンから電気自動車や水素自動車に換わっていくと思います。電気自動車に換わった後に、世の中がもう一回エンジンで動くガソリン自動車に戻るかというと、絶対に戻らないと思うんですね。そういう意味では、人々の生活を不可逆的に変化させるものがイノベーションだと思っています。

例えばなんですが、お洋服って毎年すごくブームがあるじゃないですか。ああいうものも、別に人々の生活を不可逆的に進歩させてるわけではないと思うんです。5年後、またブームが戻ってきたりするじゃないですか。だから、ああいうものは不可逆的ではないので、「イノベーション」ではなく「ブーム」だと解釈しています。

(人々の生活を)より良く進歩させるものということで、「進歩」と入れてます。これは私自身の価値観も入っていますが、多くの人々を不可逆的に変化させるもので、悪いものもあると思うんです。

例えば、刑事罰で罰せられるような麻薬系の薬とかも、多くの方たちに変化を与える。しかも1回ハマってしまったら後戻りできないものなので、もしかしたら、そういうものを「イノベーション」と捉える方もいらっしゃるかもしれません。

私はそこに対して、イノベーションのポジティブな価値観として、「人類を前進させているもの」という価値観も加えました。

なぜイノベーションの話をしたのかと言いますと、創造力やクリエイティビティ、イノベーションの関係の中では、この「イノベーション」が一番広いです。

クリエイティブや創造力は、一定程度は自分の周りの方たちでもできますし、発散していけばできるものなんですが、イノベーションは、そこからさらに多くの人々の生活を不可逆的に進歩させるものです。

創造力とイノベーションは、少しだけ解釈や定義を変えて考えるということで、事前にお伝えできればと思ってお話をさせていただきました。なので、みなさんの中でもイノベーションの話をする時があったら、この定義を思い出していただけたらうれしいなと思います。

<続きは近日公開>

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