丸亀製麺からすれば、「これいつまで叩かれ続けられないといけないの?」とゲンナリしているのではないか。
2月20日、J-CASTニュースが報じた『丸亀製麺が「本場」香川で苦戦 県内残り1店舗に「地元のうどん屋が強すぎる」の声』という記事が話題になったことを受けて、かれこれ10年もの間、ことあるごとに炎上を繰り返してきた例のネタが再び蒸し返されてしまったからだ。
それは“丸亀製麺、実は丸亀と全く関係ナシ問題”である。
あまりにも有名な話なのでご存じの方も多いだろうが、丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスは兵庫県が発祥で、創業時は焼き鳥屋である。「讃岐うどん」の本場である香川県と縁もゆかりもないし、屋号である丸亀市には店鋪はもちろん、製麺所を経営したこともない。
しかし、われわれ一般庶民の頭の中には、今や丸亀製麺は日本を代表する「讃岐うどんチェーン」というイメージがすっかりと定着している。また、海外10カ国200店舗以上で展開しており、そちらでも「A specialized Sanuki Udon」とうたっているので、世界には「丸亀製麺=日本を代表する讃岐うどんブランド」と信じて疑わない人たちがゴマンといる。
そんな「香川も丸亀も関係のない企業が、讃岐うどんのシンボルになっている」というモヤモヤする構図が、地元香川の讃岐うどん関係者や愛好家からこれまで幾度となく批判されてきた。「札幌ラーメンや信州そばの店だって地元と縁のない企業が運営しているだろ」という擁護派の主張もあるが、香川県民からすれば讃岐うどんは“唯一無二の職人文化”という誇りがある。しかも、地元経済を支える大事な産業でもあるので、「讃岐うどん」のイメージでガッチリ稼ぐ県外企業へ向ける視線は冷ややかだ。そんなネガな感情によって、今回のニュースが再燃してしまっているのだ。
丸亀製麺には気の毒だが、このパターンは繰り返されていくだろう。香川から撤退すれば、またこのネタは注目を集める。業績が好調なうちはいいが、少し悪くなれば「そういえば……」と蒸し返される。考えたくないだろうが、何かしらの不祥事が発生すれば、「ちなみに、丸亀製麺は丸亀と全く関係ないということで、一部で批判を受けていました」なんて余計な一言がつくかもしれない。
ひとつひとつはそれほど大きなダメージはないだろうが、積み重なっていくことでボディブローのように効いてきて、ブランドイメージを悪化させていく恐れもゼロではない。
関連記事
大きな問題を生む恐れ
では、丸亀製麺はこのような事態を避けるためにどうすべきか。筆者はどこかのタイミングで、「讃岐うどん」という看板を下ろすべきだと考えている。その代わりに「丸亀流うどん」など独自のジャンルを確立する。結果として、こちらほうがファンが増えていくはずだ。
理由はシンプルで、丸亀製麺が日本を飛び越えて世界的ブランドになったとき、日本人のように“グレー”を容認することができない外国人などから、「看板に偽りあり」「誇大広告」の誹(そし)りを受ける恐れがある。つまり、讃岐うどん業界と対立を続けていくことは、取り返しのつかない大きな問題を生む恐れがあるからだ。
それを分かっていただくために、讃岐うどん関係者が、丸亀製麺に向ける不信感がどこからきているのかを振り返っていこう。
きっかけは、2010年の不可解な「進出」にある。全国で次々と店舗を拡大するようになっていた丸亀製麺がいよいよ、本場の香川に出店するという話になったのだが、そこで香川県民と、讃岐うどん関係者は呆気に取られた。
できた店はどこからどうみても「丸亀製麺」なのだが、看板には「亀坂製麺」と掲げられていたのだ。ほどなくして「丸亀製麺」と変更になったが、このときから地元の人の中には「なんかおかしくない?」と釈然としないものがあった。
その不信感がさらに強まったのは13年に、米ニューヨークに「丸亀もんぞう」という店がオープンしたことを受けて、既に米国でブランド展開していた丸亀製麺が、「丸亀を使用するな」とクレームを入れたことである。
登録商標的な視点に立てば当然ということなのかもしれないが、当時、讃岐うどん関係者から「お前が言うな」のツッコミが入って大炎上した。何を隠そう、「丸亀もんぞう」は丸亀市のうどん店で修行をした人が開業している“リアル讃岐うどん店”だったからだ。
関連記事
「消費者をだましていた」という汚名
さらに遺恨を深めたのが、トリドールHDの栗田貴也社長が、テレビ番組に出演し、丸亀製麺誕生ストーリーを語ったことに端を発する騒動だ。
栗田社長によれば、田舎が香川ということもあって、讃岐うどんブームの現場を間近に見たことがあるそうだ。名もない小さな製麺所に、県外から車で食べにやって来て、お茶碗を盛った人たちで行列ができるという光景を見たことにインスパイアされたという。こうしたエピソードを語ったところ、「讃岐うどんブーム」を仕掛けた張本人である、「麺通団」の団長である田尾和俊・四国学院大学教授がブームの現場でそのようなシーンは一度も見たことがないと断言し、このような痛烈な批判を展開したのである。
『おそらく丸亀製麺が今、全国ネットのCMでバンバン流している「丸亀製麺は全ての店で粉から作る」というコンセプトをサポートするために後付けで加えたウソのストーリーとロジックではないかと思う』(麺通団公式ブログ 2019年9月14日)
「へえ、そんなことがあったのか、丸亀製麺を毎週のように利用していたけど全然知らなかった」と驚く人もいらっしゃるかもしれない。筆者が懸念しているはまさしくそこだ。
つまり、これから丸亀製麺が国内外に店舗網を拡大して、「日本を代表する讃岐うどん」という評価が高まれば高まるほど、このような批判に注目が集まり、「消費者をだましていた」という汚名を着せられてしまう恐れがあるのだ。
分かりやすい例が、中国における「味千ラーメン」だ。この豚骨ベースの熊本ラーメンチェーンは、中国で大人気を博して10年には中国国内で500店舗を展開、かの国の「日式ラーメン人気」の立役者ともなったが、ほどなくして店で提供している豚骨スープが、工場で煮込んだ濃縮液を沸騰したお湯に入れるということが発覚、中国のユーザーから”豚骨スープゲート事件”などと揶揄(やゆ)されるほど大きな問題となった。
中国の消費者の間には、「日本のラーメンは手間隙をかけている」というイメージが強く、それぞれの店で豚骨を何十時間も煮込んでてスープをつくっているというイメージが勝手に広がっていた。しかし、フランチャイズで中国全土で500店も展開するとなると現実的には、調理の効率化もしなくてはいけないし、味のクオリティーも各店で同じものにしなくてはいけない。
この事例から学ぶべきは、消費者側にあまりに高い期待感を抱かせすぎてしまうと、ストーリーに少しでも穴があった場合に「信頼を裏切られた」などと痛烈な批判に発展してしまうということだ。
関連記事
「讃岐うどん」の看板
さて、ここまで言えば、筆者が何を言いたいのか分かっていただけたのではないか。日本国内のみならず世界で「丸亀製麺=讃岐うどん」というイメージが広がれば当然、中国や欧米の外国人の熱心なファンの中には、「実際に日本のうどんの聖地に行って、本場の丸亀製麺を食べよう」となる。
しかし、丸亀市に行っても、丸亀製麺などどこにもない。それどころか、地元の讃岐うどん関係者からは、「ウソのストーリーとロジック」を広めたなどと言われている。この驚愕(きょうがく)の事実を知った「丸亀製麺ファン」はどう思うか。
「だまされた」と感じるのではないか。そして、自国に戻って、「おい、知ってるか、丸亀製麺って讃岐うどんじゃないらしいぞ」と人に伝えるだろう。日本のユーチューバーのように、スキャンダルをあおるスタイルのインフルエンサーならば、「豚骨スープゲート事件」ならぬ「讃岐うどんゲート事件」だなどと叩く恐れもある。
こういうリスクが控えている中で、「讃岐うどん」という看板に固執し続けるメリットはほとんどない。
ぶっちゃけ今、丸亀製麺へ通っている客の多くは、味、メニュー、ボリューム、価格、接客、店内の過ごしやすさなどを総合的に評価をして利用している。「讃岐うどんだから」ということで店を利用するのはそれほど多くないはずだ。
実際、先ほど申し上げたようにこの10年間、定期的に“丸亀製麺、実は丸亀と全く関係ナシ問題”が炎上して、「あれは讃岐うどんではない」という痛烈な批判も持ち上がるが、そのことによって丸亀製麺で閑古鳥が鳴いているなんて話はほとんど耳にしない。
影響がないのなら、そこまで固執する必要はない。「丸亀」は屋号なので今さら変えると、客の認知度が下がってしまうので致し方ないとしても、「讃岐うどん」に関しては、掲げれば掲げるほど本場の讃岐うどん関係者との溝を深めて、余計な批判を招くだけでメリットは少ない。
関連記事
くら寿司から「無添」が消えた
実はこのように、当事者たちは「ブランドの根幹だから譲れない」と思っているものが、客側はそれほど重要視をしていないことが外食には多々ある。
例えば、「くら寿司」の「無添」が分かりやすい。
これは「くら寿司」独自のこだわりで、「全ての食材において、化学調味料・人工甘味料・合成着色料・人工保存料を一切使用していません。それはお客様の健康を最優先したいという、私たちの基本思想」(同社Webサイト)だという。
同社がこれをどれほど大切にしているのかというのは、以下のようにネット上で批判した者に対して、プロバイダーに対して開示請求を求めて提訴したことからも明らかだ。
『何が無添なのか書かれていない。揚げ油は何なのか、シリコーンは入っているのか。果糖ブドウ糖は入っているのか。化学調味料なしと言っているだけ。イカサマくさい。本当のところを書けよ。市販の中国産ウナギのタレは必ず果糖ブドウ糖が入っている。自分に都合のよいことしか書かれていない』(産経新聞 2017年4月12日)
「社会的評価を低下させ、株価に影響を与えかねない」というくら寿司側の主張は残念ながら認められず、「公益性があるため違法性はない」と司法は判断した。だが、このバトルよりもわれわれが注目すべきは、20年1月にバラバラだったロゴを統一するとして導入した新しい「くら寿司」から、「無添」が消えていたことだ。
つまり、意図は分からないが「無添」という看板を取り下げたようにも見えるのだ。では、それで「くら寿司」がブランドイメージを失墜しただろうか。「えー、無添加じゃないの? じゃあ、もうくら寿司には行かないよ」なんて客離れは起きただろうか。
そんなことは全くなっておらず、コロナ禍においても好調さをキープしている。
つまり、「くら寿司」側からすれば、「無添」というのは食の安心のこだわりを象徴する大事な言葉だったのだが、消費者側からすればそれほど重要なものではなかったのである。もちろん、「やっぱりくら寿司は、無添加だから安心だよね」というファンもいるだろう。しかし、多くの「くら寿司」の利用者はその味や価格、サービスで選んでいるのだ。
関連記事
ハッピーになれる「落とし所」
丸亀製麺における「讃岐うどん」も、これと全く同じことが言えるのではないか。
うそだと思うのなら、どこかの店舗でこっそりと看板から「讃岐」の文字を消して、店内で讃岐うどんイメージ訴求のために掲げている「讃岐富士」の写真パネルも外してみたらどうか。おそらく、客足も売り上げもそれほど影響はない。
「讃岐うどん」を名乗ることをやめれば、「讃岐うどんに対するリスペクトが全く感じられない」と批判してきた、讃岐うどん関係者や愛好家も怒りの矛先を収めることができるはずだ。
この問題の本質は、その地域にしかない職人文化や独自の技術を、他県企業がマーケティングやブランディングに活用して、しかも本家を差し置いて第一人者としての社会的評価を確立するということなので、そこを「手放す」ことが最善の道なのだ。
「讃岐釜揚げうどん 丸亀製麺」ではなく、「香川風釜揚げうどん 丸亀製麺」くらいならば、誰も文句は言わない。それこそ「札幌ラーメン」や「信州そば」と同じようなレベルだと容認できるのではないか。
みんながハッピーになれる「落とし所」だと思うので、ぜひともトリドールHDに検討していただきたい。
関連記事
からの記事と詳細 ( 丸亀製麺は“讃岐うどん”の看板を下ろしたほうがいい、これだけの理由 - ITmedia ビジネスオンライン )
https://ift.tt/zXSWmf4
No comments:
Post a Comment