けれどもオープニングは大きく異なる。モノクロ画面で、なんと第1次世界大戦の戦場から始まるのだ(筆者は冗談抜きで、違う映画が始まったのかと思ってしまった)。これは今回の映画版オリジナルのエピソードであり、語られるのはポアロの痛ましいふたつの喪失の記憶と、かの有名な口ひげの起源である。
場面変わって、時代は一気に1937年へ。ロンドンのクラブでブルースシンガーが愛について歌う(それに合わせてフロアでは、婚約中のジャクリーンとサイモンが、あからさまに性的なダンスを繰り広げる)。
その後この映画は一貫して、「愛とは何か」をめぐって展開される。われらが名探偵はもちろん鮮やかに謎解きをするのだけれど、その過程でしばしば失った恋に思いをはせたり、ある聡明な登場人物から──おそらくは冒頭場面で語られた喪失に部分的に由来する──人間的欠陥を真正面から指摘されてぐうの音も出なかったりで、なかなかメランコリックなムードを漂わせる。『オリエント急行殺人事件』に続いて2本目のポアロ映画となった主演・監督のケネス・ブラナーは、さらに3本目、4本目に意欲を見せているとのことだが、この調子でポアロの過去と内面を掘り下げていくつもりなのかもしれない。
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