会期:2022年1月5日(水)~1月30日(日)
会場:太田記念美術館(東京都渋谷区神宮前、JR山手線原宿駅から徒歩5分、東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅から徒歩3分)
観覧料:一般800円、高校生・大学生600円、中学生無料
※最新情報は、公式HP(http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/)で確認を
江戸という街は、恋愛についてとっても大らかだったようだ。
「家」とか「しきたり」とかに色々と縛られていたお侍や上流の人々はともかくとして、町場で暮らす庶民はのびのびと「愛」だの「恋」だのを謳歌していたようだ。そういう「色の道」に通じているのが「通人」であり、人々の憧れの的でもあった。〽恋はゲームじゃなく、生きることね――という歌が昔あったが、江戸の人々にとって恋はゲームであり、生きることでもあった。
太田記念美術館の今回の展示は、そういう「江戸の恋」を描いた浮世絵をセレクトしたものだ。様々な恋愛模様や遊郭での恋の駆け引きをテーマにした「恋に恋して」と恋愛を扱った芝居などをモチーフにした「ドラマチックに恋して」の二部構成。叙情的な鈴木春信からリアルな無残絵で有名な月岡芳年まで、江戸中期から明治期までの様々な「恋の形」を見ることができる。
第一部で紹介されるのは、だれもがあこがれそうな美男美女の比翼連理な姿、素敵な若衆に興味津々の娘たち、いかにも「恋はゲーム」な吉原事情……。当時の風俗が目の当たりに迫ってくる。間夫(まぶ、「お客」ではない本当の恋の相手)とツンケンし合っている花魁の姿を見ると、「間夫がいなけりゃ女郎は闇」という歌舞伎十八番『助六』のせりふを思い出して、「この2人にどんなやり取りがあったのかな」とニヤニヤ見入ってしまうし、ヒマに任せてお客に「遊びに来て」と手紙を書いている遊女を見ていると、《立膝で文を書くのも姿なり》という古川柳が浮かんでくる。華やかな遊郭、でもそこは苦界である。人生の光と影が透けて見えても来る。
続いて、第二部でまず目を引くのが、月岡芳年の「松竹梅湯嶋掛額」。ご存じ「八百屋お七」を描いたものだが、恋する男に会いたいがため火付けをしたお七が、いずれ死罪になるだろうという運命を悟ったような表情が哀しい。数ある八百屋お七の芝居の中で、芳年はなぜこの作品を題材にしたのだろうか。この絵にどんな思いを込めたのか――。同じ芳年の「新撰東錦絵 佐野次郎左衛門」は、歌舞伎狂言『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』でも有名な「吉原百人斬り」をモチーフにしたものだが、「籠釣瓶は切れるなあ」という決めぜりふが聞こえてきそう。さきほどちょっと書いた『助六』の名場面、「色にふけったばっかりに」で有名な『仮名手本忠臣蔵』のお軽と勘平の物語、並木五瓶の名作『五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)』……。芝居好きにはたまらない絵が並ぶ。
一覧して改めて思うのは、「江戸の恋」は熱く激しくダイナミックということだ。年の差を超えた「お半長右衛門」、不義密通の果ての逃避行「おさん茂兵衛」。心中物語でそれは顕著に表れる。「ゲーム」ではなく「生きること」としての恋。その本質は今も昔も変わりはしない。なんてことを思うのである。
(事業局専門委員 田中聡)
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