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Saturday, January 29, 2022

南田裕介の「鉄印帳」片手に ホリプロ・マネジャーが薦める第三セクター鉄道の旅【第10回・真岡鐵道真岡線】:時事ドットコム - 時事通信

 茨城県と栃木県とを走る真岡鐵道は、1988年に国鉄真岡線を引き継ぐ形で誕生しました。

 下館駅(筑西市)を出て真岡駅(真岡市台町)を通り益子焼で有名な益子を経由し終点茂木駅(茂木町)までを結ぶ、全長41.9キロの路線です。沿線は田園地帯を走り、やがて坂を上り始めたところで終点という穏やかな路線です。

【写真特集】南田裕介の「鉄印帳」片手に

 春に咲く桜と菜の花が有名で、その写真は一度はご覧になったことのある方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。もう一つ、有名なのはSLですね。SL「もおか」号は、週末を中心に「C1266」が3両の客車を引いて往復します。今回はこのSL「もおか」で真岡鐵道の旅に出たいと思います。

 始発駅の下館駅へはJR東北線・東北新幹線小山駅(小山市)から水戸線、または常磐線水戸・友部駅(笠間市)から水戸線、もしくは取手・守谷駅(守谷市)から関東鉄道常総線と3種類のアクセス方法があります。いずれも列車の本数が限られているのでご注意ください。下館駅の端に真岡鐵道のホームがあります。「端っこにホームありがち」は第三セクター鉄道あるあるですね。

 できれば入線から味わいたいので少し早めにホームに入ります。いよいよSL「もおか」号の入線です。やってきました。朱色のディーゼル機関車に引っ張られてやってきました。下館駅にはターンテーブルがなくSLの向きを変えられないため、後ろ向きでディーゼル機関車に引かれての入線です。ディーゼル機関車の切り離しも見学したいのですが、ここは主人公のSLを見に行きましょう。

 C1266は1933年に誕生した蒸気機関車。この真岡鐵道に来る前は鹿児島や釜石、弘前、上諏訪を走っていました。その後引退して、福島県の団地の片隅で保存されていましたが、この地で走り始めて25年。壮絶な車両人生ですね。

 やはり熱がすごい。実際に釜に石炭をくべて水を沸かし、蒸気を発生させ動力にする。少しキャブ(運転室)をのぞくと赤々と窯の中で燃える炎とそこから伝わる熱が全身に伝わってきます。黒々したボディーは磨きあげられて、車輪やロッドには丁寧にオイルで手入れされています。そして煙突からもくもくと出る煙。時折するエアーの音、蒸気と露が滴る様子は、まるで生き物みたいです。この機関車は小さいタイプの機関車ですが、その迫力と存在感はものすごいです。そしてその機関車を操る機関士さんたちの動き、まるで無駄のない機敏な動きはカッコいい、尊敬します。

 さて出発時刻が近づきましたので、客車に乗ることにしましょう。現在は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からインターネットでの事前予約制になっていますが、普段は自由席で乗車整理券を購入します。

 3両目にしました。車内はセミクロスシートで何気ない車内なのですが、実はこの客車、めちゃくちゃ貴重なものなのです。いわゆる「50系客車」と言われる車両で、もともと国鉄で開発されました。

 戦後からずっと使っていた古い旧型客車を置き換える目的で作られ、通勤通学・長距離のどちらのお客さんにも対応できるもので、車両の出入り口付近はロングシートになっていてたくさんの客さんを乗せることができました。

 全国各地の客車が50系に置き換えられていきました。深紅のボディーから「レッドトレイン」とも呼ばれて活躍していましたが、やがて客車列車が数を減らしていき、この客車も役目を終え姿を消し、生き残った車両はイベント列車用に転用されていくことになります。工業デザイナーの水戸岡鋭治氏が手掛けたJR九州の「SL人吉」や、トロッコ車を改造したJR北海道の「ノロッコ号」などがそうです。しかしこの真岡鐵道の50系客車はほとんど改造されておらず、当時の雰囲気を醸し出していて、全国的に見てもこの姿で使われているのはとても珍しいものです。

 垂直のボックスシートに座ります。夏はみんな窓を開けます。なぜならこの客車は冷房がついていない、いわゆる「非冷房車」だからです。これは鉄道ファンにはうれしい! 窓を開けて列車に乗ると、音や外の空気を感じることができるからです。

「ぼおーーー!!」という汽笛の音が下館の街に響き渡ると、いよいよ発車です。

 ガタンという軽い感触を背中で感じると列車がゆっくり動きだします。首都圏の新しい電車の加速に慣れている私は改めて時代を感じます。ゆっくり加速をし始め、下館駅構内を出ます。がたんごとんとゆっくり走ります。心地よい揺れですね。左手には田畑が広がり季節を告げます。

 車内ではいろんなグッズやおみやげなどが販売されています。真岡鐵道イメージキャラクター「綿道もか」関連グッズや各種クリアファイルも、お手軽な価格。新商品としてC1266のナンバープレートピンバッジも人気とのこと。

 ちなみに私はキャップを購入。

 やがて真岡鉄道の本社のある真岡駅に到着。駅舎が巨大なSLのカタチをした珍しい駅です。ここでは10分弱停車します。真岡駅で降りるお客さん、写真を撮るお客さんなど、ホームにはたくさんの人の熱気であふれかえっています。SLの近くに行ってみると車両と機関士さんとの熱と愛でアツくなっていました。長い停車時間はありがたく、SL自身も休憩しているようでほほ笑ましく思います。

 やがて出発時刻になり列車は再び走りだしました。

 列車は停車駅が近づくと減速を始め、ゆっくり停車します。なかなかスムーズ。そして出発、ゆっくり加速します。なんてすてきな時間なのでしょう。駅のたびに機関士さんはキャブで緻密な操作を全身でやり操縦をしているのでしょう。そう思うと本当に脱帽です。

 益子駅に到着しました。益子は焼き物の町として全国的にも有名で、春と秋とに開催される「益子陶器市」(現在はコロナ禍ということでオンラインで開催)にはたくさんのお客さんがやってきます。

 益子焼はまた次の旅の楽しみに取っておくとして、終点の茂木駅に近づくころ少し坂を登ると右手に道の駅が広がります。何ということでしょうたくさんの人々がこちらに向けて手を振っています。地元の方というよりはドライブ休憩中の人たち、家族連れの方、まるで友達を見ているような、優しい表情で。会ったことのない乗客に温かく手を振る姿はなかなか感動的で胸にグッときます。

 感動しているうちに終点茂木駅。およそ1時間30分の旅でした。あっという間に感じました。C1266、50系客車、お疲れさまでした!と労をねぎらっているうちに列車は側線に引き上げていきました。

 茂木駅にはSL運行時の一瞬だけの絶景スポットがあります。駅2階のデッキに上がってみましょう。駅構内の配線が一望できるだけでなく、転車台がよく見えます。

 と、そこに側線で客車を切り離したSLが転車台にやってきました。そうです。SLの方向転換の一部始終を眺められるという絶景スポットなのです。

 SLは係りの方の誘導を受け、転車台の中央に。

 回り始めました。SLが回っています。デッキもホームも見学のお客さんでいっぱいです。これまで自分たちを運んできてくれたSLが小休止して折り返しのスタンバイをする様子を、ねぎらう気持ちもあるのでしょう。子どもも大人もじっとその様子を眺めています。向きが逆になり、午後からの列車のスタンバイができました。この角度で見ることができるスポットはなかなかないのでぜひ時間をとってじっくり見たいですね。

 さて、真岡駅に戻って、「SLキューロク館」に行ってみましょう。

 真岡鐵道のディーゼルカー「モオカ14形」に乗って戻ります。グリーンと赤のカラーリングはスイカのようで唯一無二のデザイン。メーカーによって顔が少し違うのでチェックしてみてください。車内はとてもきれいな印象です。

 真岡駅のすぐ隣にあるキューロク館は、「SLの走るまち」という真岡市のコンセプトを象徴した拠点施設として、観光振興、交流人口の増加および周辺地域のにぎわいの創出を図ることを目的に設置されました。建屋自体もSLの形をしていて、真岡駅のSL駅舎と並ぶと雰囲気は荘厳です。

 ここでは屋内外に車両が展示されています。SLだけでなく気動車や貨車なども展示されています。屋内の旧型客車「スハフ33」は、車内にも入ることができ、まるで「銀河鉄道999」の雰囲気が味わえます。何人ものお客さんを運んできたのでしょう。

 そして、注目は実際にSLが動くこと。展示してある「9600形SL」は圧縮空気を使って自走できるようになっており、週末を中心に運行しています。短い区間ではありますが、車掌車を連結していてそこに乗ることもできます。時代を経て、違う方式ではありますが9600が動くことは“アンビリバボー“です。時期によって、展示されている「D51」も動くことがあります。

 やがて、上り列車のSLもおかがやってきました。SLの駅舎とSLキューロク館、そして本物のSLが並ぶ姿はなかなかのものです。9600も屋外に出ているともうSLでいっぱいですね。ぜひ立ち寄って時間をゆっくりと過ごしていただきたいです。

 私的なおすすめ沿線のスポットをもう一つ。いちご狩りです。栃木県はいちごでも有名で、とちおとめ、スカイベリーなどいろんな品種があります。

 ビニールハウスにたわわに実る赤いいちごは、大人になってもテンション上がります。駅から徒歩で行けるスポットもありますので途中下車していちごを楽しむこともできます。季節的には冬から春。ぜひいちご狩りもセットで計画をしてみてください。

 さて、真岡鐵道の鉄印は真岡駅で入手できます。書き置きのタイプになります。カラー印刷で鉄印の下部分には真岡鐵道が発足した時に走っていた「モオカ63形」に描かれていた柄がデザインされています。文字の色も4種類。赤はディーゼル機関車「DE10」、緑はディーゼルカーモオカ14形、黒はSL、茶色は「オハフ50形」客車を表しています。朱色で真岡鐵道のロゴも入っているのが格好いいですね。ちなみにSLもおかが駅に停車中には入手できないのでご注意を。

(2021年1月掲載)

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