アイリスオーヤマといえば、他にはない機能やリーズナブルな価格帯の家電で人気のメーカー。加えて注目を集めるのが、同社のスピード経営だ。今回のコロナ禍においても、マスク生産拠点をいち早く国内に構えるなど、時代の流れに素早く対応して高い評価を得た。
アイリスオーヤマのスピード経営と、時勢を見極める製品展開はどこから来るのか。アイリスオーヤマ 代表取締役社長 大山晃弘氏に話を聞いた。
「伴走方式」と担当者裁量で実現するスピード経営
――今や「スピード経営」の代名詞ともいわれるアイリスオーヤマですが、他社よりも開発などの時間を短くできたのでしょうか?
確かに、当社の開発スピードは早いと思います。スピード化を図るためにしたことは、開発は時間がかかるという前提の下、「純粋な開発」以外を短縮ししていきました。まず意思決定のスピードが早いですし、スピーディに開発できるよう、仕組み化も行いました。
この仕組みは「伴走方式」と呼ばれるプロジェクト進行で、プロジェクトを「やる」と決めるたら、関連部署が一斉に立ち上がり、開発や品質管理、生産などの複数部門が同時並行的に物事を進めるというものです。一般的には、企画が決定したら開発・設計部門へプロジェクトを手渡し、設計がある程度固まったら生産や品質管理に部門へプロジェクトを渡す、といったリレー方式を採用するため、スピード化がしにくいと言えると思います。
スピード開発でのもう1つの秘訣(ひけつ)が、開発者の裁量の広さです。一般的な開発部門では、設計者は設計だけ、さらに言えばモーターの設計だけ、回路の設計だけと、非常に狭い範囲だけを担当する場合が多い。しかし当社では、開発が企画を考えますし、設計も広範囲に担当します。さらには製造にも関わり、品質もチェックする。
1つの製品が世に出るまで、ほぼすべての責任を設計者が持つことになるのです。責任と一緒に裁量もありますから、現場での判断も迅速に行えます。アイリスオーヤマが年間約1000アイテム近い新製品を出せるのも、このスピードあってこそです。
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LEDの本格参入で得たノウハウで、家電事業に参入
――アイリスオーヤマといえばもともとはプラスチック製の生活用品メーカーでしたが、家電事業に参入した理由を教えてください。
2009年に地球温暖化対策でCO2削減の動きが、世界中で起こりました。この問題に対し何ができるかを考えた結果、LED照明ならCO2削減の効果も高いということで開発に踏み切りました。従来の白熱電球をLEDに置き換えることで、消費電力の削減と製品寿命の延長が同時に行えます。
もちろん当時もLED照明を販売している会社はありましたが、一般家庭へ広く普及させるには価格が高い状態でした。そこで、手軽に手にとれる価格で販売できるよう設計を見直し、10年に1980円で発売しました。当時のLED照明は、価格が5000円というような時代でしたから、とにかく引き合いが殺到しましたね。
――コロナ禍のマスク製造と同様に、家電事業への参入も時勢を捉えた判断だったのですね。とはいえ09年は、まだ非家電の生活用品メーカーという印象が強いです。当時、LED照明はどのように開発されたのでしょう。
当時は、当社でもLEDタイプのクリスマス用イルミネーションライトを販売していました。LEDチップを買い付け、ライトに組み込むという作業は自社工場で行ったことから、LEDの扱いに慣れていた部分はあります。しかし家庭用のLED照明となると、イルミネーションライトにはない放熱効率といった課題もありました。LED照明の販売にあたっては、開発担当者がかなり試行錯誤したと聞いています。
――照明以外の家電にも本格参入したのには理由があるのでしょうか?
実はLED照明の参入以前も、サーキュレーターや電気ケトルといったシンプルな家電製品は製造していました。ただ、開発から販売までLED照明を本格的に製造したことで、さまざまなノウハウができ、さらに自社工場でたくさんの電子部品を扱うことになりました。LED照明で得たノウハウをもっと生かしたいということで、本格的に家電開発を始めたのです。
また当時は、国内の家電メーカーにとにかく元気がない時期で、たくさんの技術者がメーカーから早期退職したり、海外へ流出していました。彼らを採用することで、さらに当社の家電事業を強化できるのではないかと考えたことも理由の1つです。
家電メーカーの開発製造拠点が関西に多かったため、関西に開発拠点を作りたいと思ったところ、ちょうど良い物件があり「大阪R&Dセンター」を設けることもできました。本当にいろいろなタイミングが良かったですね。
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被災企業としての復興支援が、事業拡大にもつながる
――家電事業の本格参入は、意図とタイミングがちょうど合致したということですが、結果的に日本の技術者を国外流出させず、国内の技術維持に貢献しています。ところで、アイリスオーヤマは宮城県に本社機能がありますが、11年の東日本大震災の影響はあったのでしょうか。
確かに被害はありましたが、当社工場などの被害は幸い深刻ではありませんでした。震災は金曜日に起きましたが、翌週月曜日には出社できる従業員が出社し、復旧や支援活動をできる限り行いました。
震災後、最初に行ったのがLED照明の増産ですね。当時は電力の供給がどんどん減るという話で、それなら省エネのできるLED照明を作ることが社会貢献になると考えました。確か、震災から1カ月後にLED照明を3倍に増産しています。その結果、法人向けの需要が一気に増えたという意外な副産物もありました。
東日本大震災によって、「良い製品」を作るだけではダメで、社会のニーズを捉えて社会課題を解決することが、メーカーとしての使命だと実感させられました。
――LED照明の増産以外で、変化はありましたか。
宮城の沿岸部の農家も、津波で壊滅的な被害を受けました。そこで当社は、13年からは精米事業にも参入しています。被災地に精米工場を建設して現地の方々を雇用し、さらに東北の玄米を仕入れることで復興をお手伝いしたいということです。被災した農家さんに、もう一度お米を作ってもらうために、地元で製品化することに意味があると考えました。
とはいえ、ただ農家から米を仕入れ、精米して売るだけでは意味がありません。そこで、販売する米の価値を高めるために、「低温精米」という技術で精米しています。米には甘みを出すための酵素があり、熱に弱いという特性を持っています。一般の精米法では摩擦熱が発生し、60〜70℃になるところ、40℃未満の低温で精米することで酵素を壊さず、甘みのある米を届けようという取り組みです。
当社自身が被災していることもあり、我々は復興のためにいろいろな取り組みをしてきました。それらの活動が世に知られたことで、社会での認知度やブランドイメージは高くなったと実感しています。
震災時点では家電メーカーとしての知名度が低かった当社ですが、ちょうど家電メーカー退職者の採用とタイミングが重なったこともあり、「アイリスオーヤマの家電を店頭に並べてみよう」という声が挙がり販売チャンネルも増え、その結果「アイリスオーヤマの家電を使ってみよう」という流れができたと思っています。
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他社との協業でさらなる拡大を目指す
――今回のコロナ禍においても、国内にマスク工場を設けたり、AI搭載のサーマルカメラを発売するなど、迅速な対応に注目が集まりました。
東日本大震災を経た当社では、トップ層だけでなく全従業員に至るまで「社会ニーズに応える、社会課題を解決する」という意識が行き渡っていたと感じています。マスクに関しても、新型コロナ感染症の流行とともに、マスクを国内で増産すべきという声がいろいろな部署から挙がっていました。
――マスクやサーマルカメラ以外には、どのような活動をされているのでしょうか。
細かな対策グッズなどは、挙げれば切りがありません。あまり知られていないところでは、オフィス用の個室ブースなども作っています。オンライン会議が増えると「自分の席でオンライン会議がしにくい。だけど会議室は空いていない」ということがよくあります。そこで社内に、狭いスペースでも設置できる個室を作り、従業員が周りを気にせず仕事ができるようにしたのです。
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あとは意外なところでは、業務用掃除機もあります。今年2月にソフトバンクロボティクスとのジョイントベンチャー「アイリスロボティクス」を設立しましたが、そこでAI除菌清掃ロボット「Whiz i」を提供しています。
――アイリスオーヤマといえば自社開発・自社生産という印象があったため、ソフトバンクロボティクスとのジョイントベンチャー設立には驚きました
加速度的な広がりを見せている今のテック系の技術に関して、すべて自社で開発するのは正直無理だと思っています。とはいえ、アイリスオーヤマとしては先端技術を搭載した家電の利便性ももちろん捨てるわけにはいきません。今後もスタートアップ企業や有力なパートナーさんと、協業や創業を行っていきたいですね。
アイリスオーヤマは販売網も広いうえに、エンドユーザーとのつながりも強い。一方、他社の技術系の方はお客様の声を知らないことが多い。「技術は凄いけれど使い勝手が悪い」という製品が生まれる原因も、このあたりにあると感じています。
協業を通じて、当社がお客様の声をくみ上げた企画を立て、パートナーさんに技術を提供してもらい、我々の広い販売網で売る、そういった付加価値の高い関わり方ができると思っています。
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確かに
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