仕事をしながら旅をする――。新型コロナウイルス禍を機に、長年の夢が動き出した人がいる。都会の喧騒(けんそう)とは無縁。心の潤いが日々の仕事を前向きにする。
東京都内のIT企業で働く今泉尚子さん(32)は、職場の完全リモートワーク化をきっかけに、2020年8月から都内の自宅を出て各地を転々と暮らす「アドレスホッパー」になった。全国各地の空き家や別荘、提携ホテルを利用できる定額制サービス「ADDress」を利用。1カ所につき1カ月で最大2週間の滞在が可能という。
例えば20年11月のある1週間。京都市内のホテルに滞在し、日中はリモートワークでのオンライン会議や書類作りに励む。仕事終わりには寺社の夜間拝観や紅葉狩りに行き、古都の雰囲気に癒やされた。
その週末は、岡山県から瀬戸大橋を車で渡り、対岸の香川県三豊市へ。古民家の一室を借り、朝食には讃岐うどんを食べ、リモートワークに打ち込んだ。仕事が落ち着けば、浜辺のコーヒースタンドに向かう。そこで眺めた夕焼けは言葉を失う美しさだった。
確かに、20年2月の完全リモートワーク化で、満員電車の煩わしさからは解放された。だが、人に気軽に会えない状況があった。東京の自宅での単調な生活に「体は疲れないけど心が疲れていた」。
そこで憧れを抱いていたアドレスホッパー生活を始めた。インターネット環境があれば、どこでも勤務可能なのも幸いした。「旅先の風景や食文化は新鮮。心に潤いが生まれて、仕事も前向きになれる」。今泉さんはこう捉える。
働く世代のニーズ
サービスの運営会社のアドレス(東京)によると、コロナ禍を機に会社員の入会が急増し、会員数は以前の3倍になった。多くがリモートワークになった人たちという。担当者は「コロナ禍で、働く世代に東京を脱して暮らしたいニーズが高まった」と話す。
現時点で、住居を転々というのは極端な例かもしれない。しかしテレワーク普及を背景に、都心部から郊外へ転居する動きは顕在化している。総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、東京都は20年5月以降、6月を除き転出が転入を上回る「転出超過」が続く。東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県の東京圏でも7、8、11月は転出超過となった。
良質な育児環境求め
都内の会社に勤め、都市緑化の設計に関わる原田宏美さん(39)も東京圏から転出した一人。20年9月、家族5人で横浜市から山梨県北杜(ほくと)市に移った。
新たな住まいは南アルプス山脈を望む築30年の元民宿で、畑も付いている。「子供たちの外遊びの機会が断然増えた。のびのびさせてやりたくて」(原田さん)。良質な育児環境を求めた結果だった。職場が多様な働き方を支援したことも後押しした。
歯科技工士の夫(53)は畑仕事、長女(12)は乗馬を習うという、それぞれの夢をかなえた。休日にはいろりに家族や友人を招いて食事を楽しみ、将来は民泊の経営も模索する。
原田さんは今、リモートワークを併用し、週1〜2回は高速バスに乗って都内の職場に出勤。業務の進行によっては、そのままホテルなどに宿泊する多忙な日もある。だが情報が集積する都会で働き、自然に囲まれた環境で育児するという、メリハリのある2拠点生活の満足度は高い。
「通勤圏内の住まいを選ぶ必要がなくなり、暮らす魅力があるかを考えるようになった」と原田さん。子供たちが成長すれば、別の移住先を検討することも考えている。(石川有紀)
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確かに
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