プレミア開幕前の序列
今季のシーズン開幕前までは、南野拓実の状況は今ほど悪いものではなかった。確かに出場時間だけみれば、リーグ戦では10試合に出場しプレー時間はわずか242分しか確保できていない。得点もアシストもゼロ。プレー面でも足元でボールを受けようとする傾向が強く、リバプールにはまだフィットしていないというのが大方の見方だった。
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ただしリバプールにフィットするのは簡単ではなく、これまでもユルゲン・クロップ監督は新戦力の起用について慎重に判断するタイプだった。だからこそ「まだまだ、これから」と考えるファンも多かった。実際にクロップは、今季のプレシーズンマッチのシュツットガルト戦後の時点では「彼にはまだ時間が必要だ」と語っている。
おそらくだがその時点での南野の序列は3トップのサディオ・マネ、モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノに次ぐ、4番目のアタッカーとして期待されていたはずだ。もしくはその時点では良く試していた4-2-3-1で彼ら強烈な3トップとトップ下として共演し、限りなくレギュラーに近い存在になる可能性もあった。
そして、シーズン開幕前にリーグ王者とFAカップ王者が戦うコミュニティシールドに途中出場し、アーセナルを相手にゴールを決めた頃には、その序列を確かなものにする予感もあった。
現時点での序列
しかしそこから南野の状況は一変することになる。まず彼にとって一番影響が大きかった出来事はウォルバーハンプトンから即戦力のディオゴ・ジョタが加入したことだ。
彼は3トップをどこでもこなせるポリバレントさ、プレミアリーグでの経験、そしてリバプールのサッカーに即フィットするサッカーIQの高さを持つ優秀な選手だった。結果、リーグ戦では既に8試合484分出場して5ゴールを決めるなど、瞬く間に主力化することに成功。6試合146分出場して0ゴール0アシストの南野の序列はアタッカー陣の5番手という立ち位置まで低下した。
加えて、リバプールにとっては朗報であり、南野にとっては悲報になるのかもしれないが、ジェルダン・シャキリも復調してきた。シーズン開幕前には退団濃厚とされていたスイス代表MFは最終的に残留。怪我がちで、やや計算しにくい選手だが、今季も遅れて状態を上げ始めると、徐々にプレー時間が増加。
そして南野との序列に大きな変化が生じ始めたのがプレミアリーグ第7節のウェストハム戦だろうか。
これまでは3トップの一角を休ませる場合、ジョタの次に南野に出番が回ってくることが多かったのだが、この日の南野は選ばれず70分からシャキリがピッチに立つことになる。そしてこの試合で小柄なパサーは見事攻撃陣と噛み合い1アシストを記録。わかりやすく結果を残した。
そして次節のマンチェスター・シティとの大一番ではシャキリがしっかりベンチに入るものの、南野はベンチすらからも外れることになる。
こうして大きな期待と共にリバプールに加入した南野は、気づけば序列を大きく落とし、3トップの中で6番手という位置になってしまっていた。今後、 ディボック・オリギが調子を取り戻せば、その序列はさらに低くなる可能性もある。この可能性はやや低そうだが…。
南野の問題点と武器
ではなぜ南野はここまで序列を低下させてしまったのか。理由は大きく2つ考えられる。
第一に南野はプレミアリーグのサッカーにまだフィットしていない印象である。早すぎるパススピードや相手の寄せに慣れておらず、持ち前の素早いターンで状況を打開するプレーを見せられていない。それどころか大事な場面でボールを失うことすらあるのが実態だ。
そして問題の2つ目はリバプールのサッカーにフィットしていない点だろうか。
その典型例がボールを求めて低い位置まで落ちる動きだ。これはリバプールが求めている動きではないのだが、そのプレーの癖を辞められずにいる。また味方とのプレーイメージの共有がイマイチ進んでいないようで、例えばSBがアーリークロスをあげようとしている場面でボックス内に入っていないなどの場面も多々見受けられる。
確かにリバプールの両SBはスーパー故に、普通のチームでは考えられないようなタイミングで、考えられないような高精度のボールがボックス内に入ってくる。そういう意味では南野としても常識外の連続なのだろうが、それが今のリバプールなのだ。そのプレーイメージにあわせていくしかない。
また同時に、そもそも南野は現在のリバプールのポゼッションサッカー自体にフィットしていない面もある。というのも南野がこれまで在籍していたレッドブル・ザルツブルクは素早いプレスとカウンターが持ち味のチームであり、その「レッドブル流」のサッカーに関しては彼の中に染み付いている。
そういう意味では「たられば」になってしまうのだが、もし南野が2年前頃のカウンター色が今より強いリバプールに加入していれば、今とはまた状況は違ったと思う。ただ現在のリーグ王者はポゼッションサッカーの側面が強いチームであり、南野の適正とは違うサッカーをしている。
ただし、南野に一切の武器がないわけではない。例えば攻守の切り替えの速さはリバプールの中でも高い方に入る。その資質を評価しているからなのか、クロップ監督は10節のブライトン戦では南野をインサイドハーフとして起用し、南野も素晴らしい守備意識の高さを見せつけた。
しかしながら、今後の南野がリバプールでインサイドハーフのレギュラーを目指すべきかというと微妙なところである。第一に守備意識は高くとも、単純なデュエルが強いわけではないので、寄せているもののボールを奪いきれず、失点に繋がる場面もあった。
なにより南野自身も、インサイドハーフとしてひたすら走るという役割を許容するかどうかは悩ましいところである。
南野にローン移籍の提案
さて、とはいえ「南野は駄目だ」「失敗だ」と批判だけに終わりたくない。そこで今回は一つ提案をしたい。
南野の問題は2つあると上記で説明した。リバプールへのフィットの問題はリバプールで出場機会を得るしかない。ただしリバプールで出場機会を得るにあたって、まずはプレミアリーグの強度に慣れる必要がある。そういう意味ではどこかプレミアリーグのチームにローン移籍してはどうだろうか。
具体的な案としては、サウサンプトンへのローン移籍を提案したい。
これは何もリバプールが過去にサウサンプトンから多くの選手を獲得してきたことを理由に、「サウサンプトンで活躍すれば、リバプールでも活躍するでしょ」という暴論を語りたいわけではない。
確かにフィルジル・ファン・ダイクやマネらは元サウサンプトンの選手で、今やリバプールの主力中の主力だ。しかし過去にはリッキー・ランバートやダニー・イングスなど、リバプールでは苦しんだ選手もいるのが実態だ。
そうではなく今のサウサンプトンは、南野がフィットする可能性があるサッカーを展開しているのだ。それもそのはず、レッドブルグループの一員であるライプツィヒの元監督であり、強度の高いカウンターサッカーを志向するラルフ・ハーゼンヒュットル監督が現在はイングランド南部チームで指揮をとっているからだ。
ハイライン&ハイプレスで相手を追い込み、ショートカウンターから得点を奪うスタイルは、南野がザルツブルクで慣れ親しんだサッカーに近い。また監督はドイツ語話者なので、ドイツ語は話せるもののまだ英語に慣れていない南野にとっても監督とコミュニケーションとりやすいのも良いだろう。そして現在のシステムは4-4-2だが、南野なら2トップでも両翼でプレー可能だ。プレー可能な枠が多いのもポジティブな点だ。
ただレギュラー争いに関しては10節終了時点で6位につけているだけのことはあり、決して楽な状況ではない。2トップにはリバプールでは怪我を含めて苦しんだものの、古巣に復帰して抜群の得点センスを再度開花させたイングス、トップレベルの体格の良さを持ちながら日本代表FW岡崎慎司のように走り回るイングランド人FWチェ・アダムスがいる。
そして両翼にはプレミアの中でもトップレベルのドリブル突破が売りのネイサン・レドモンドやムサ・ジェネポ、そしてアーセナルで活躍してきたセオ・ウォルコットら錚々たるメンバーが名を連ねる。
そういう意味ではサウサンプトンに移籍しても決して楽な状況になるわけではない。ただ冷静に考えると、さすがにリバプールでワールドクラスの面々を相手にスタメンの座を争うよりかは、幾分かは楽であるのも確かだ。選手層もややサウサンプトンのほうが薄いので南野にチャンスがめぐる可能性も高い。
またサウサンプトンには日本代表DF吉田麻也が長く在籍してきたこともあり、日本人のパーソナリティを知る選手やスタッフも多いだろう。もし実際に移籍すれば吉田自身も何かと口添えしてくれるかもしれない。
最後に
このように南野がリバプールに、そして、プレミアリーグにフィットする上でサウサンプトンへのローン移籍は非常に有りな選択肢に思える。
もちろんリバプール側でさらにけが人が続出し、結果的に南野の序列が上がる可能性も、彼が筆者の予想に反してリバプールで奮起する可能性もある。前者に関してはともかく、後者のようなサプライズが起これば、素直に筆者は自身の間違いを認め、南野を称賛したいところである。
ただもし、このまま状況が変わらない場合は、サウサンプトンへのローン移籍を是非に検討していただきたいところである。
(文:内藤秀明)
【了】
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December 05, 2020 at 08:00AM
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