19世紀ヨーロッパの雰囲気が乱雑な盛り場に
1980年代の終わり、まだNHKで仕事をしている頃、NATO軍の取材のあいだに見つけたのは、毎年夏になるとモナコで開かれる花火大会だった。モナコというのはフランスのマルセイユから東へ200キロあまりの小さな王国で、アメリカの美人女優グレース・ケリーが国王と結婚したため、世界の注目を浴びた。 ここで夏になると世界各国が参加して花火のコンテストが開かれていた。花火で世界に知られている日本、ドイツ、アメリカ、ブラジル、中国といった国が競って花火を打ち上げ、優劣を競った。アメリカ軍の広報関係者に紹介されたのがきっかけで、何度か見物に出かけた。 モナコは正確に言えばフランスの地中海沿岸コート・ダジュールとイタリアの国境近くにある小さな都市国家で、地中海の一部であるリグリア海につながっている。静かな内海を挟んで、両方からなだらかな丘が続いている景勝の地である。 港にはモナコ国王の所有する有名なヨットが係留され、湾の中央に作られた花火発射場から花火が打ち上げられるのが恒例であった。最上の観覧席はその港を見下ろす丘の上に作られた瀟洒なホテルのレストランであった。 花火大会が開かれる時には、特別にレストランの外にテーブルがしつらえられ、多くの客で賑わっていたが、ヨーロッパらしい気品に満ちた、優雅な食事ができる程度の騒ぎであった。 ところが中国経済が拡大し、中国の人々が経済力を持って押しかけるようになると、モナコの港を見下ろす丘全体が、中国人だけでなく、アラブの人々やアジアの人々で埋め尽くされてしまった。 顔見知りのマネージャーが私たちのために良い席を見つけられる余裕は残っていたが、ヨーロッパの優雅な雰囲気はなくなってしまった。
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September 02, 2020 at 04:06AM
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