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Saturday, June 27, 2020

これからの観光はどうなる? 日常に戻った中国人たちの“旅”の様子が暗示していること - WIRED.jp

「自宅にこもる時期が続いて息苦しさを感じていたんです」と、上海の復旦大学で企業経営を学ぶ25歳のイェ・ティアンティアンは言う。彼女は5月1日からのゴールデンウィーク(黄金周)の休暇を、家族と一緒にタイで過ごすつもりだった。しかし、ほかの人たちと同じように旅行の計画をとりやめた。中国の国内にいるほうが安全だと思ったからだ。

イェは参加できそうなツアー旅行を探したが、そのほとんどで断られた。顧客を省外に連れ出すことは禁じられているというのだ。予約を受け付けてくれる旅行会社をなんとか見つけられたころには、4月も終わりに近くなっていた。

飛行機で向かった先は貴州省だ。共産主義の歴史を巡る「レッド・ツーリズム」の拠点と滝で有名な省である。30名のツアーグループに参加したところ、観光スポットに到着するたびに検温された。

ところが食事のときには、全員が同じ箸を使って大皿から料理を取り分けていた。軽いせきが出始めたとき、イェはひと晩中ずっと新型コロナウイルスの症状についてネットで調べたという。

省ごとに異なるウイルス関連規制

中国は世界のどこよりも早く新型コロナウイルスに伴う規制を緩和し、日常生活を取り戻した。それでもウイルスに対する不安は、いまでも人々の旅行についての判断に影響を与えている。

公式なデータが示す過去1カ月の新規感染者はわずかだ。それでも旅行に出かける人の30パーセントは、行先として近場を選び、自分の住む省から出ていない。

新型コロナウイルスへの感染は確かに不安だ。しかし、ほかの省でどんな規制や評価基準が定められているのかを知らないことは、また別の不安材料になる。北京にある中国の中央政府は全体的な方向性を定めているものの、多くの決定が地方政府に任されているからだ。

中国西部の四川省成都市にあるフィンテック企業でマーケティングを担当するジァン・ルルは、黄金周の休暇に訪れた陝西省西安市でのウイルス関連規制が、自分の住む省と異なることに気づいた。西安は兵馬俑で有名な都市だが、ジァンがここを選んだのは家族が住んでいるのが理由で、ホテルを予約せずに家族と過ごせるからだった。

到着したのは5月1日で、移動には電車を使った。数週間前なら隣の席は強制的に空席になっていただろうが、その規制はすでに解除されていた。両隣の席を予約することもできたが、ジァンが乗っていた車両は満席ではなかった。

西安では3月の段階で、旅行者はほとんどの場所でグリーンの「ヘルスコード(健康碼)」(感染していないことを示すパスポートのようなシステム)の提示を求められていた。公共の場所でも飲食店でも、地下鉄やバスに乗るときもだ。

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ところが、ジァンの住む成都では新規感染者が出ていなかったことから、交通巡査は必ずしも常にヘルスコードを確認するわけではない。これが西安では違った。この地域のヘルスコードアプリをダウンロードして、公共交通機関を利用する際には必ず使う必要があったのだ。

国内の観光地に人々が殺到

政府の規制は以前より緩くなっていたが、ジァンの緊張は緩まなかった。「まったく楽しめませんでした」と、ジァンは言う。

到着初日に訪れたのは大雁塔だった。「人は少ないだろうから絶好のチャンスだと思っていました。ところが着いてみたら、あまりの人の多さに怖くなりました」と、彼女は振り返る。結局は見て回ったものの、夕方に予定されていた「西安城壁の散歩」は、時間制限のある枠に予約を入れることにした。

ガイドブックに載っているような観光スポットでは、いまや事前予約が当たり前になっている。原因のひとつは、清明節(4月4日から始まる長い週末)の際に、観光客でごった返した写真がSNSで拡散されたことにあるのだろう。安徽省の住人たちは、同じ省内にある黄山(切り立った山々と突き出るように生える松で有名な景勝地)を、事前予約なしで訪れることができたのだ。

このため黄山の管理者は、5時間で4回もの警告を出す羽目になった。その内容は、どこかほかの場所に行くようにというものだった。

旅にクルマを選ぶ観光客たち

「誰もが海外旅行には不安を感じているので、代わりに国内の観光地を訪れているのです」と、上海に住むファッションデザイナーのゾウ・ヂァンは説明する。実際に黄金周の時期、上海と崇明島をつなぐ道路では激しい渋滞が起きた。「上海とはまったく違った雰囲気を楽しめる場所のなかでも、崇明島は最も上海から近いのです」

ゾウ自身はというと、中国の有名な観光地を今後2年間は避けるつもりだという。「政府は新型コロナウイルスが終息したとは言っていません。いまでも感染者は出ていますから」

ゾウは仕事で蘇州市にあるシルク市場を訪れる際には電車を使っているが、最近はビジネスクラスのチケットを買うようになった。車両ごとの乗客数が少ないからだ。

新型コロナウイルスの感染が拡大してからゾウは旅行には行っていなかったが、6月には上海からクルマで2時間の杭州市に出かけるつもりだ。「クルマのほうが安全です。感染する可能性が極めて低いとしても、万が一ということがありますから」

そう思っているのはゾウだけではない。黄金周に旅行した人の65パーセントがクルマを選んでいたのである。

部分的な回復を見せる観光産業

旅行は増加傾向にあるが、自宅にいることを選ぶ人も多い。中国政府の文化観光部によると、黄金周の5日間で国内を旅行した観光客は1億1,500万人で、売り上げは476億元(約7,272億円)に上った。観光客数は昨年同時期と比べて60パーセント減だった。今年の黄金周は政府が1日追加して、5日間になったにもかかわらずだ。

観光産業は部分的な回復を見せている。1,000万人を超える観光客が訪れた省は10にもなる。こうしたゆっくりとした回復は、英国や米国といった国々の今年後半の姿を示唆する不吉な兆候ともいえる。これらの国では回復に向けた計画などまだずっと先で、いまだに「ロックダウン後の旅行」で起きることを把握しようとしている段階にある。今年の夏季休暇は南国で過ごしたいと思っている人も、中国の観光客のように自宅から近いところで行先を探すことになるかもしれない。

中国の人気予約サイト「去哪児網(Qunar.com)」のヴァイスプレジデントのラン・シャンによると、航空チケットの平均価格は通常なら休暇シーズンには跳ね上がるが、今年はこの5年で最低になっているという。ただし、かなりの割合の若年層が旅行している。例年なら祝日が続くとチケット代が高騰することから、旅行の時期をずらしていた層だ。

各地方政府は消費を促す目的で、消費者たちにクーポンを発行している。例えば成都市では、旅行者に対して地元の商店や飲食店で60元(約908円)使うたびに20元(約303円)が戻ってくる割引券を最大4枚配布した。それでも小規模な航空会社、特に国際線に重点を置いている企業は生き残りが難しいと感じている。

旅行サイトがライヴストリーミングを強化する理由

旅行代理店を経営するチュウ・ユアンユアンは例年の2月なら、中国人旅行客向けにタイでの買い物ツアーとホテル宿泊を企画しているはずだった。ところが今年は、新型コロナウイルスの感染拡大でツアーを販売できなくなった。

そこでチュウは、自分の「WeChat(微信)」アカウントで、ラテックス製の低反発枕を販売した。さらにビジネスの中心を海外旅行から、国内旅行へと大きく転換せざるを得なかった。それでも黄金周の予約が増えることはなかった。「仕事を変えるつもりです。価格の面で地元企業にはとても勝てませんから」と、チュウは言う。

中国最大規模の旅行会社のひとつである携程旅行網(シートリップ)最高経営責任者(CEO)の梁建章(リャン・ジエンジャン)は、観光産業の先行きについてもう少し強気に見ている。梁は「ヴァーチャルな旅行」を推進しようとしており、さまざまなホテルを自ら訪れ、それらをライヴストリーミングで宣伝しているのだ。

ビジネスの宣伝を目的としたライヴストリーミングで、梁はあごに長いひげを貼り付け、唐王朝の衣装を身に付けている。ラップを試みるライヴストリーミングもある。

新型コロナウイルスの影響で、さまざまなライヴストリーミングサイトが視聴者を集めている。もともと人気があったものの、パンデミック後には外出制限に関するジョーク動画を投稿する場所となり、地元の商品を売る場所にもなっている。梁は自分のライヴストリーミング経由で、視聴者たちにホテルの部屋を予約するよう促した。その数は52万室にも達している。

今後も警戒は続く

それでもほとんどの旅行者は、まだ新型コロナウイルスの感染者数が多かった場所を訪れることに不安を感じている。新型コロナウイルスの発生源とされる湖北省にはこれまで700万人の旅行客が訪れたが、同省の人気観光地の客足は昨年と比べて80パーセント以上も減少した。

ライヴストリーミングによって湖北省を宣伝し、たくさんの人を訪問する気にさせようと期待する人々もいる。政府は湖北省の農家が生産した農産物を販売する国営メディアを運営しており、中国でも最も有名なライヴストリーマーたち数人が、この販売の任にあたっている。例えば、口紅を5分間に15,000本売り上げる李佳琦(リー・ジャーチー)などだ。

それでも旅行者たちは慎重だ。武漢市に住み、黄金周には市外に出かけたという女性は、「武漢市の全体的な雰囲気には、まだ緊張感があります」と言う。武漢の住民が市外に出るには、新型コロナウイルスのPCRテストで陰性であることが必要である上、緑のヘルスコードを取得する必要もある。

彼女が市外に出るべく飛行機に乗ったとき、武漢天河国際空港にはほとんど人がいなかったという。これは飛行機や高速鉄道による移動のリスクが警戒されていることに加えて、湖北省の住人に対する差別についてのニュースが原因だと彼女は考えている。

この女性の行先は深圳だった。そこで彼女は歩いて山に登り、人々がマスクを外して呼吸している様子を見た。そのあとで美容院を訪れ、髪を切ってもらった。彼女にどこから来たのかと尋ねた美容師は、武漢からだと聞くと明らかに不安そうな様子になった。だが、PCRテストの結果は陰性だったと聞いたあとは、当時の状況について彼女を質問攻めにしたという。

今後も警戒は続くだろう。だが、休暇も楽しむものなのだ。

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