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Thursday, May 14, 2020

誕生した「発光するシリコン」は、こうして半導体チップを“光の速さ”へと進化させる|WIRED.jp - WIRED.jp

シリコンを発光させて半導体チップに組み込む技術の開発に、オランダの研究チームがこのほど成功した。極小のシリコンレーザーからなる光子回路を半導体チップに組み込むことで、過熱させることなくデータの高速伝送と消費電力の低減が可能になるという。大規模な実装が可能になれば、光ベースコンピューティングの実用化に向けた大きな一歩になる可能性を秘めている。

WIRED(US)

siliconlight

オランダのアイントホーフェン工科大学(TU/e)の物理学者、エリック・バッカーズとその同僚が六方晶構造のシリコン合金ナノワイヤーを成長させるのに使用した装置。PHOTOGRAPH BY NANDO HARMSEN/TECHNISCHE UNIVERSITEIT EINDHOVEN

いまから50年近く前、インテルの共同創業者のゴードン・ムーアは、半導体チップに搭載されたトランジスターの集積率が18カ月ごとに2倍になると予測した。「ムーアの法則」として知られるこの有名な“予言”は、しばらくは的中した。

1970年代初頭にインテルが初のマイクロプロセッサーを発表したとき、このプロセッサーにはわずか2,000超のトランジスターしか搭載されていなかった。それが今日では、iPhoneのプロセッサーには数十億個のトランジスターが搭載されている。だが、すべての物ごとには終わりがあるように、ムーアの法則も例外ではなかった。

光るシリコンでチップの高速化が可能に

最新のトランジスターは、コンピューターの“脳細胞”として機能するが、その大きさは原子数個分の長さしかない。トランジスターを詰め込みすぎると、電子の渋滞、過熱、奇妙な量子効果など、多くの問題を引き起こす可能性がある。

その解決策として、チップ内部のデータ伝送を電子ではなく光子に置き換えるために、電子回路の一部を光学的結合にする方法がある。ただし、問題がひとつある。半導体チップの主な材料であるシリコンは発光できないのだ。

ところが欧州の研究チームが、ついにこのハードルを乗り越えたという。オランダのアイントホーフェン工科大学の物理学者エリック・バッカーズが率いる研究チームは、発光できるシリコン合金ナノワイヤーを成長させた詳細について記した論文を、4月に『Nature』に発表したのだ。

このテーマは物理学者たちが何十年もかけて取り組んできた課題である。バッカーズの研究室では、すでにこの技術を使って、半導体チップに組み込める極小のシリコンレーザーを開発した。従来の電子チップに光子回路を組み込むことで、半導体チップを過熱させることなく、データの高速伝送と消費電力の低減が可能になる。機械学習などのデータ集約型の用途に、とりわけ有用だと考えられるという。

「シリコン合金でつくられたナノワイヤーから光の放射を実証できたことは、大きなブレイクスルーです。何と言ってもシリコンは半導体チップの製造プロセスで使ってきた材料ですから」と、マックス・プランク光科学研究所のマイクロ波フォトニクスグループを率いるパスカル・デルヘイは言う。彼は今回の研究には関与していない。「この先、光回路と電子回路の双方を組み合わせたマイクロチップの製造が可能になるかもしれません」

シリコンの格子状形状を変えるという挑戦

シリコンから光子を放出させるには、その構造が重要だとバッカーズは言う。一般的な半導体チップは、ウェハーと呼ばれる薄いシリコン基板上につくられる。シリコンは条件によって電気を通したり通さなかったりする「半導体」なので、半導体チップに最適な材料だ。

半導体という特性によって、トランジスターは可動部品をもたずにデジタルスイッチとして機能できる。可動部品の代わりに、トランジスターに一定の電圧が加えられた場合にのみ、閉じたり開いたりするわけだ。

Elham Fadaly, a PhD student at Eindhoven University of Technology

アイントホーフェン工科大学の博士課程の学生で、今回の論文の筆頭著者であるエルハム・ファデイリーがシリコン合金ナノワイヤーを成長させる機械を操作している。 PHOTOGRAPH BY TECHNISCHE UNIVERSITEIT EINDHOVEN

シリコン原子は、ウェハー内で立方結晶の格子状に配置されているので、特定の電圧条件で格子内を電子が移動できる。だが、光子はこのようには動かない。このため光はシリコン内で簡単に移動できないのだ。

バッカーズらが立てた仮説は、シリコンの格子状形状を立方体ではなく六角形の繰り返しにすれば、光子がシリコン層を伝播できるのではないかというものだ。

ところが、シリコンは立方体という結晶化構造が最も安定しているので、六方晶構造を実際につくることが信じられないほど難しいことがわかった。「40年ものあいだ、多くの人が六方晶構造のシリコンをつくろうとしてきたのですが、成功しませんでした」と、バッカーズは言う。

アイントホーフェン工科大学のバッカーズらは約10年間、六方晶構造のシリコンを作成しようと取り組んできた。解決策のひとつは、ガリウムヒ素のナノワイヤーを組立構造として使用し、目的の六角形構造をもつシリコン・ゲルマニウム合金製のナノワイヤーに成長させることだった。

シリコンにゲルマニウムを加えることは、シリコンの光の波長などの光学特性を調整するために重要になる。「予想以上に時間がかかりました」と、バッカーズは言う。「5年前にはここまでできると思っていましたが、全体のプロセスには微調整が何度も必要だったのです」

シリコン合金ナノワイヤーが発光するかテストするために、バッカーズらは赤外線レーザーを照射して、反対側に通過した赤外光線量を測定した。ナノワイヤーから赤外線として出てくるエネルギーを検出したところ、その量はレーザーが照射したエネルギー量に近かったことから、シリコンナノワイヤーが光子の伝送に非常に効率的であることが示唆されている。

いかに従来の半導体チップに組み込むか

バッカーズによると次のステップは、開発した技術を使ってシリコン合金で極小レーザーをつくることだという。バッカーズによると、研究室はすでに取り組みを始めており、年末までには実用的なシリコンレーザーが出来上がっている可能性がある。

そうなれば、次の課題はどのようにしてシリコンレーザーを従来の半導体チップに組み込むかだ。「これが非常に重要なことですが、また難しいことでもあります」と、バッカーズは言う。「これを成し遂げる方法についてブレーンストーミングをしているところです」

バッカーズは、将来の半導体チップが完全に光学式になるとは予想していないという。マイクロプロセッサーのようなコンポーネントの内部では、トランジスター間の短い距離を電子が伝送することは、まだ理にかなっている。しかし、コンピューターのCPUとメモリー間、トランジスターの小クラスタ間などの“長い”距離では、電子ではなく光子を使用することでエネルギー消費量もシステムの発熱量も非常に少なくしながら、計算速度を向上させることができる。

電子は1個ずつ順次(ひとつの電子、次の電子と)データを伝送しなければならない。これに対し、光信号は物理的に可能な限りの速さ、つまり光速で一度に多くのチャンネルにデータを伝送できる。

半導体チップ上の光学回路は大量のデータを素早く伝送できることから、データ集約型の用途で広く使われることが予想される。例えば、車載センサーから来る膨大なデータをリアルタイムで処理する自律走行車の車載コンピューターに重宝されるだろう。

もちろん、一般的な用途にも応用できる可能性がある。電子チップほど熱を発生させないので、データセンターでは大規模な冷却インフラが必要なくなる。このため膨大なエネルギー消費量を削減できる。

より強力なコンピューターを実現する可能性

研究者や企業は、すでに単純な電子回路にレーザーを組み込むことには成功している。だが、プロセスが複雑すぎて大規模に実装するにはコストが高くなることから、ニッチな用途にしか使われていない。

マサチューセッツ工科大学(MIT)とカリフォルニア大学バークレー校、コロラド大学の研究者グループは2015年、単一のマイクロプロセッサーに光子回路と電子回路を組み込むことに初めて成功している。「ここで実証できたことは、チップスケールの電子・光子システム時代の幕開けを示すものであり、コンピューティングシステムのアーキテクチャを変革し、ネットワークインフラからデータセンター、スーパーコンピューターまで、より強力なコンピューターを実現する可能性を示唆するものです」と、研究者たちは論文に記している。

バッカーズらは、従来の半導体チップの主要素であるシリコンに応用できることを実証し、光ベースコンピューティングの実用化に向けた新たな大きな一歩を踏み出した。電子半導体チップは、半世紀にわたってわたしたちのコンピューティングのニーズに忠実に応えてきた。しかし、膨大なデータを必要とする今日の世界では、プロセッサーの処理能力を光速にスピードアップする時期に来ている。

※『WIRED』によるプロセッサーの関連記事はこちら

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