幸せそうな街で幸せではない人
きのう17日のお昼、東京都内のとある駅前。私は赤木昌子さん(仮名)と待ち合わせていた。森友事件で公文書の改ざんを上司に強要され、自ら命を絶った財務省近畿財務局の上席国有財産管理官、赤木俊夫さん(享年54歳)の妻だ。会うなり昌子さんはしみじみと口にした。
「ここって幸せそうな街ですね」
確かに、そこは閑静な住宅街に近く、駅前商店街は家族連れの姿が多い。夫を亡くし、子どももいない昌子さんには辛く感じられるのかもしれない。「そうですね、そういう場所ですね」と答えると彼女は続けた。
「この幸せそうな街に住んでいる佐川さんは、きっともう幸せではないんでしょうね…」
「佐川さんもかわいそう」
佐川さんとは、元財務省理財局長で元国税庁長官の佐川宣寿氏。昌子さんは夫の死を巡り、佐川氏と国を相手に裁判を起こすつもりだ。その前に、一度佐川さんの自宅を見てみたいと望んだのだ。
私たちは佐川さんの自宅へと徒歩で向かった。駅から10分余り歩いた住宅街の真ん中にある。前に到着すると、昌子さんはしばらくじっと建物を見つめていた。インターホンを押すでもなく、ただじっと。そして再びぽつりと言った。
「佐川さんもこの家に住むご家族も、もう幸せではないんでしょうね。何だか佐川さんもかわいそう…」
「これから佐川さんを訴えようっていうのに、同情するんですか?」私は思わず言った。「優しいんですね」
「そんなんじゃないんですけど、森友(事件)に巻き込まれた人はみんな不幸になっていますよね」
「それはそうですけど、亡くなった俊夫さんと昌子さんが一番不幸になっているでしょう」
「でも、かわいそうだなあって思っちゃうんです」
そして踏ん切りをつけたかのように言った。
「うん、来てよかった。もういいです」
佐川氏と国の責任を裁判で問う
昌子さんはきょう18日、佐川氏と国を相手に賠償を求め大阪地裁に裁判を起こす。夫は森友事件をめぐり公文書を改ざんするよう上司に迫られ、不正に手を染めたことを気に病み、命を絶った。自宅には詳細な「手記」が遺され、その中で「すべて、佐川理財局長(当時)の指示です。」と告発していた。
昌子さんは、2年前、夫が亡くなった時のマスコミの取材攻勢が怖かった。今でも怖い。だから提訴後の記者会見は代理人の弁護士にお願いし、自らは出ないつもりだ。代わりに弁護士に、自分のコメントを託す。
彼女が訴えたいのは、夫が死を選ぶ原因となった改ざんは誰が何のためにやったのか?、改ざんをする原因となった土地の売り払いはどうやって行われたか?、その真実を知りたいということ。そのために、職員が本当のことを話せる環境を財務省と近畿財務局には作ってほしいということ。
「佐川さん、本当の事を話してください」
そしてそのために、まず佐川氏が話さなければならないと思っている。それが、佐川氏が真の意味で楽になる道だと。
昌子さんは訴えるつもりだ。
「佐川さん、どうか改ざんの経緯を、本当の事を話してください。よろしくお願いします。」
【執筆・相澤冬樹】
なお、この件に関する記事はきょう18日の大阪日日新聞、日本海新聞に掲載されているほか、以下のサイトでも読めます。
文春オンライン:https://bunshun.jp/articles/-/36667
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March 18, 2020 at 06:25AM
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