経団連は7月5日、経済財政委員会(柄澤康喜委員長、鈴木伸弥委員長)を開催した。慶應義塾大学の小林慶一郎教授から、「財政健全化についての論点」とのテーマで説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 財政リスクによる経済停滞
経済の低成長が財政悪化をもたらすのは当然であるが、反対に、財政悪化リスクが経済停滞をもたらす可能性もある。私が他の研究者と共同でディザスター(財政破綻)・モデルという理論を活用した分析を行った結果、政府債務残高の増大は「財政破綻が起きた場合、民間資本ストックに巨額の税が課される」という人々の予想につながり、経済成長率が低下する、というメカニズムが存在することがわかった。これは、ハーバード大学のカーメン・ラインハート教授とケネス・ロゴフ教授による有名な先行研究とも軌を一にする。
財政政策の景気刺激効果が減退した、との指摘もある。近年、日本では財政乗数がほぼ1まで低下している、また、海外では非ケインズ効果(財政支出の削減や増税が、むしろ経済にプラスに働く)の存在も指摘されている。
■ 日本の財政悪化の現状
日本の財政は歳出が税収を大幅に上回り、国際的にみても債務残高の対GDP比率は非常に高いが、昨今の低金利によって、比率の伸び自体は鈍化している。
経済成長率が金利を上回り続ける限り、財政破綻は起きない。しかし低金利の継続は格差拡大の副作用でもあり、本来より低い経済成長率にもつながる。これが本当に望ましい姿かどうか、考える必要がある。
■ 財政再建と独立財政機関
私が所属する研究グループでは、経済学者と一般国民それぞれに対し、財政に関するアンケートを実施した。その結果、経済学者と国民は共通して財政赤字を問題視し、財政赤字を放置した場合、将来、増税や歳出カットなど厳しい財政再建を強いられると予想していることがわかった。しかし、財政赤字の原因については、経済学者の多くが社会保障費を挙げる一方、国民は公務員の人件費や無駄遣いだと考えている。消費税への認識は、経済学者は肯定的であるが、国民は否定的であった。
こうした国民の認識を踏まえれば、日本ですぐに財政再建を実施できるとは考えにくい。まずは政府が財政健全化について長期的にコミットすることが肝要である。具体的には、欧米のような中立的な独立財政機関や経済財政諮問会議などにおいて、数十年先までの長期的財政見通しを公開し、国会などの政策論議に供することが考えられる。
■ 世代間協調問題とフューチャー・デザイン
世代間協調問題とは、現役世代がコストを支払い、将来世代がリターンを得る、コストとリターンの間に時間差があるという問題である。利己的かつ合理的に考えれば、現役世代が将来のためにコストを支払うメリットはない。
この問題へのアプローチとして、フューチャー・デザインという考え方を紹介したい。これは現役世代が将来世代になったつもりで現在の政策を議論する仕組みである。例えば、岩手県矢巾町では、フューチャー・デザインを活用して住民が議論した結果、現在は水道事業が黒字であるにもかかわらず、将来必要となる設備更新に備え、水道料金を引き上げた。フューチャー・デザインを用いれば、短期的には不利益でも、長期的な利益を重視し、通常と異なる意思決定が行われる可能性がある。矢巾町の事例は、米国の国際政治経済誌フォーリン・アフェアーズの100周年記念号巻頭論文で紹介されるなど、世界的にも注目されている。
【経済政策本部】
からの記事と詳細 ( 財政健全化についての論点 (2023年7月27日 No.3600) | 週刊 経団連 ... - 日本経済団体連合会 )
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