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Wednesday, May 26, 2021

急成長するSNSの音声機能を舞台に、“青田買い”されるクリエイターたち - WIRED.jp

Twitterに音声ライヴ配信機能「スペース」が導入されたとき、リーシャ・ハワードは一刻も早く配信を始めたくなった。彼女はすでにYouTubeでチャンネルをもち、ネット上で自分を表現することには慣れている。スペースの登場によって新たな道が開け、さらに多くの人に声を届けられるようになると考えたのだ。

彼女は人気ラッパーのソウルジャ・ボーイにダメもとでダイレクトメッセージを送り、自分の「スペース」での対談を申し込んでみた。すると驚くことに承諾の返事が届いたのである。

その後もハワードはテレビ番組のゲームイヴェントの司会を務めたり、映画『Judas and the Black Messiah』の衣装デザインを担当したチャーリーズ・アントワネットとの対談を果たしたりしている。

「スペースの“公式クイーン”を自認しているんです」と、ハワードは言う。確かに数カ月前までフォロワー数がわずか87名だった人物にしては、なかなかの躍進ぶりだ。彼女の声に耳を傾けるリスナーは、いまや約4,000人に増えている。

クリエイターたちに新たなチャンス到来

ひと昔前に誰かが話している声をネットで聞くといえば、たいていオンラインラジオのことを意味していた。やがてポッドキャストが登場し、マイクとノートPCさえあれば誰でもウェブ上に会話をアップロードできるようになった。

そしていま、2020年夏に大ブレイクした音声SNSClubhouse」に続いて次々に現れた音声ライヴ配信アプリが、再び情勢を一変させようとしている。何年か前にソーシャルメディアがブロガーたちの牙城を崩したのと同じ流れだ。

いまやスマートフォンをもつ誰もが、数百万人の耳に声を届けるツールとプラットフォームを手にしていることになる。こうした変化は、シリコンヴァレーの序列再編を狙う野心派のスタートアップや、時代に合ったやり方で成功したいと願うデジタルコンテンツのつくり手たちに、チャンスを運んでくるはずだ。

特にクリエイターたちは大事な時期を迎えている。まともに相手をしてもらうために長い苦闘の年月を過ごしてきたクリエイターたちが、ようやくシリコンヴァレーの企業にその仕事ぶりや影響力を認められ、努力に見合った報酬を与えられようとしているのだ。

実際にクリエイターたちへの経済支援に力を入れる企業が増えている。支援の対象は、有料ニュースレター配信サーヴィス「Substack」のライターから、アダルトコンテンツに特化した「OnlyFans」のパフォーマー、有名人にオリジナルのメッセージ動画をリクエストできるアプリ「Cameo」で活動する“C級”のセレブにいたるまで多種多様だ。

最近では大企業もクリエイターへの投資をかなり強化している。自社の利益に貢献するその役割に気づいたからだ。プラットフォームの優劣はコンテンツによって決まり、コンテンツの出来は結局のところ、それをつくる人々たちにかかっている。

相次いで投入された支援策

この数週間、主要な音声ライヴ配信サーヴィスが一斉にクリエイター向けの機能を発表している。Twitterは投げ銭機能「Tip Jar」を導入し、スペース内での有料イヴェントで試験運用している。チャットアプリ「Discord」が21年4月に公開したオンラインイヴェント機能「Stage」はClubhouseによく似ているが、配信者が視聴者にイヴェント参加料を請求できる新たな方式を導入する予定だ。また、ユーザーが好みのライヴイヴェントを見つけやすくなるよう、ディスカヴァリー機能を改善するという。

これに対してフェイスブックは、21年夏以降に計画されている「Live Audio Rooms」の開設に備え、オーディオクリエイターの支援を目的とする基金を設立した。Clubhouseも「Clubhouse Creator First」と称する支援促進プログラムの一環として、オリジナル番組を配信する一部のクリエイターに月額5,000ドル(約54万円)の報酬支払いを開始している。

Clubhouseはすでに相当数のインフルエンサーを確保しているが、この新たな支援プログラムではさらに多くの有望な人材に集中的に資金提供している。月々の報酬とは別に支援プログラムでは、Clubhouse専用コンテンツのつくり手たちにさまざまなリソースや宣伝の場を提供する予定だ。これはクリエイターたちに早期にClubhouseの活動だけで生計を立てられるようになってもらうための支援策であり、創業わずか1年ほどのスタートアップである運営企業への忠誠心を養うための策でもある。

「Clubhouseでの活動は、無名のクリエイターたちにとって途方もないチャンスなんです」と、アマンダ・ディッシュマンは語る。固定概念にとらわれない暮らし方を紹介する「The Salty Vagabonds Club」というルームを運営しているディッシュマンは、例えばボートハウスでの水上生活について語り、視聴者を楽しませている。

ディッシュマンの番組はClubhouseが21年5月初めに実施した支援プログラムの最終選考に残った。「ほかの音声アプリを試したことはありませんが、いまのところClubhouseに満足しています」と、彼女は言う。

伸び悩むClubhouse

Clubhouseが生き残るには、この種の忠誠心がどうしても必要になるだろう。最近の音声ライヴ配信ブームの火付け役として広く知られるClubhouseだが、そのユーザー数は伸び悩んでいる。

調査会社Sensor Towerのデータによると、21年2月に960万回を記録した同アプリのダウンロード数が、4月には92万2,000回に減っている。ただし、Android用アプリがようやくリリースされたので、この数字も5月には勢いを取り戻すかもしれない。

Clubhouseユーザーの多くは、ほかのプラットフォームでもアカウントを所有している。市場分析企業App Annieの調査によると、Clubhouseを利用するiPhoneユーザーの77%がFacebookを、また60%がTwitterを併用しているという。

こうしたなかClubhouseは、自分たちのコンテンツに従来のデジタル習慣を一新してまでも使う価値があることを証明してみせなければならない。すでに広く認知されているほかのアプリは、こうしたハードルに直面することなく音声ライヴ分野に参入している。TwitterやFacebookもそうだし、Reddit、Spotify、LinkedInもそうだ。

ソーシャル音声プラットフォームの先発組であるDiscordとの競争もある。もともとゲーマーの間で人気のあったこの音声チャットアプリは、最近になって訴求の対象を拡大している。同社によると、いまやユーザーの80%が読書会や語学の勉強会などゲーム以外の目的で利用しているという。

こうしたコミュニティの形成に重点を置くことで、Discordは「音声アプリ戦争」で優位に立つことができるかもしれない。多くの人にとって、そこに集まる目的はフォロー相手の話をただ聞くだけでなく、ユーザー同士で話すことだからだ。

「会話」を重視するDiscordの強み

Substackが配信する人気ニュースレター「Platformer」に記事を書いているケイシー・ニュートンは、ほかのライターたち7人と共同で「Sidechannel」と名づけたDiscordサーヴァーを運営している。そこでは数々の音声イヴェントが開催され、登録者たちは24時間いつでもチャットを楽しむことができる。

ニュートンにとって、Discordが提供するコミュニティの要素を選択することは必然だった。「Twitterのスペースも毎週利用しています。確かに面白いですし、このプラットフォームがどう進化するのかをぜひ見届けたいと思います」と、彼は言う。「しかしDiscordに比べてスペースはオーディエンスの数が多いので、どうしても共通認識を得づらくなってしまいます。スペースには視聴者が会話を聴きながら文字でチャットする機能がなく、有料登録者以外の参加を簡単に制限できる方法もありません」

ニュートンが指摘するように、Discordは「互いに会話できる場所」を視聴者に提供している。それゆえにDiscordでは、ニュートンもほかのライターも、単に誰かを楽しませるだけの人たちではないのだ。

一方、コミュニティをベースとするDiscordのスタイルに限界を覚える人もいる。ジャーナリストのチャールズ・ソープは、友人との会話にはDiscordを利用しているが、対談のライヴ配信を試したことはない。Clubhouseでルームのホスト役を務めたことも何度かあるが、このアプリですでに知名度を得ているインフルエンサーたちと競うのは、かなり難しいと悟ったという。

しかしソープは、Twitterのスペースでは多くの試みを成功させている。記事の題材にした人物との対談をライヴ配信したり、公開された自分の記事についてディスカッションしたりしているのだ。

「自分の仕事について以前からTwitterで発信していますし、スペースにはツイートをシェアする機能があるので、聞いている人を混乱させることなく掘り下げた議論ができるのです」と、ソープは言う。「これに勝る体験は、ほかのプラットフォームでは望めないでしょうね」

生き残りを賭けた闘い

音声ライヴ配信アプリには多くの選択肢が揃ってきており、誰もが自分にとってベストな環境を見つけられるはずだ。しかし、これらすべてのプラットフォームに生き残りの余地はあるのだろうか。

「答えは明らかにノーです」と、ポッドキャスト関連のニュースレター「Hot Pod」のライターで、Sidechannelのメンバーでもあるニック・クアは言う。オーディオクリエイターたちを確保し、つなぎとめておくための闘いは、先手必勝とは限らない。音声ライヴ配信を喧伝する声が高まりすぎていることで、すでに食傷気味の視聴者もいるのだとクアは指摘する。

「多額の資金がつぎ込まれ、次から次へと音声ライヴのプラットフォームが誕生しています。さすがにもう結構、いくら何でも多すぎる、と言いたくなりますよ」と、彼は言う。

初期の盛り上がりが落ち着いたあとも、オーディエンスを失わずにいられるプラットフォームやクリエイターだけが、長寿を謳歌できるのだろう。クオは言う。「その境界線を見極めた者が勝者になるのです」

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