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Sunday, May 30, 2021

QBハウスがコロナ禍でも「客を離さない理由」 秘密はビジネスモデルにあり - ITmedia

 皆さまはQBハウスに対し、どんなイメージをお持ちですか? おそらく「早い・安い」が先行して想起されるのではないでしょうか。

 ご想像の通り、キュービーネットが運営するQBハウスは、「10分で1000円カット」を標ぼうし全国で名をはせています。早い、安いながらも元野田佳彦首相も愛用するなどカットクオリティも保証されています。

 QBハウスは現在、その早さと安さをかてにして、日本一店舗数が多い理容室(海外含め580店舗超)となっております。

 しかし、なぜQBハウスはここまで拡大できたのでしょうか。早いから? 安いから? 確かにそうかもしれません。しかしそれだけでは拡大できないのがビジネスの世界。今回は早い安いに裏打ちされたQBハウスの強みについて紹介します。

QBハウス創設の経緯 - なぜ1000円カットは生まれたのか

 QBハウスの創業者である小西國義氏は、なんと55歳で同社を起業しました(同氏は「年金がもらえる65歳にはスパッと辞める」と豪語しており、その公言通り同社を65歳のときに売却しています)。

 ライフネット生命の創業者出口治明氏(58歳創業)、カーネル・サンダース(65歳創業)と肩を並べてもいいのではないでしょうか。挑戦に年齢は関係ありません、勇気が出る数字ですね。

 同氏が1000円カットを思いついたきっかけは以下です。

 行きつけのホテル内の理容室で髪を切ってもらっていたときに、タオルを取りに行ったり、ホウキを取りに行ったりと、ムダ時間が多いと感じた。このムダな時間のコストもわたしが支払っており、これを改善できないかと考えた(ITmedia記事より)

 このように、QBハウスは小西氏の、「もっと理美容室のムダを削ぐことはできないか」から生まれました。髭(ひげ)そりなどムダを削ぐだけではお客がよってこないため、びっくりするくらいの価格(=1000円)で客をひきつけつつ、カットに特化したビジネスを展開します。

 もちろん、ムダを削ぎ10分カットにすることで回転率が上がることを見越して。

強みの源泉力1 - どうして宣伝せずともお客がやってくるのか

 とはいえ「言うは易く行うは難し」がビジネスの定石。お客が集まらなければもうけにならず、店舗拡大は夢堕ちに終わります。ましてや、QBハウスは1人1000円と客単価が低いため、「回転率が勝負」の企業です。

 QBハウスにとって、客単価を下げた分だけ回転率を上げなければいけません。「回転率を上げる」ということは「お客がひっきりなしに来店する状態」を指します。

 では、どうやってQBハウスはお客がひっきりなしに来店する状態を生み出すことができたのでしょうか。お客がひっきりなしに来店する状態を生み出すには、以下2つのポイントがあります。

(1)広告宣伝費にお金をかけない

 貴方がQBハウス創業期のマーケティング担当だったら、来客を増やすにはどうしますか? 無難に考えれば「来客数を増やすにはCMをバンバン打ってしまおう」「新宿駅を広告でジャックしてしまおう」「SNSで1億円バラまいてしまおう」と考える人も多いのではないでしょうか(さすがに最後の案は冗談です)。

 では、QBハウスはどのようなマーケティング活動を行っているのでしょうか。広告宣伝費を見てみましょう。

 広告宣伝費は年間2.5億円でした。2.5億円あれば、露出数や配信タイミングにもよりますがだいたい1カ月間、関東圏で有名女優を起用したCMを配信できます。ですので、年に1回以上程度はCMを打ったのではないかと推測できます。

 しかし過去のCM内容を探ってみると、クリエイティブはお客ではなく「従業員採用」が目的。このCMを通してお客を増やしたいわけではなさそうです。また、ブレイク前の俳優さんを起用しており、このCMだけで2.5億円まるまる使ったわけではなさそうです。残りの広告宣伝費は駅広告に使用したと思われます。

 ここで広告宣伝費は、「販管費のうち10%を占めているものの、その内訳の多くはお客向けではなく従業員採用のための広告費」として位置付けられていることが分かります。CM大量放送とは違う方法でお客を獲得しているわけです。

 ではどうやってお客を獲得しているのか。

(2)駅ナカ立地で目立ち度UP

 QBハウスといえば、駅ナカや駅前にデデンと構える店舗を思い出す人が多いのではないでしょうか。

 実際、QBハウスの店舗を検索してみると、店名の終わりに「〜駅前店」「〜駅店」「〜南口店」ばかりが表示されます。QBハウスに年賀状を送るならとりあえず「〜駅前店」と記載しておけば届く感じですね。

 駅ナカや駅前なら、平日5日出勤していたら嫌でも目につきますよね。さらに「カット10分で終わります! 1000円しかかかりません!」と宣伝文句があれば、余計に印象に残ります。

 店舗自体がPR隊長になっている、ということです。

 どうやらQBハウスは、広告宣伝費をかけない代わりに、駅ナカ(or駅前)の目立つ場所に立地することに全力バットを振っているようだ、ということが分かりました(余談ですが、日高屋もQBハウス同様で、CMを打たず目立つ場所に出店することで認知度を獲得しています。同じ戦い方といえるでしょう)。

 また、駅ナカでも特にトイレの横に隣接している場合が多いのが特徴です。理由は「トイレで鏡を見て『(髪が伸びてきたため)そろそろ切ろうか』と思った直後に、QBハウスが目に入るようにするため」と公式に明かされています。顧客の心理導線を踏まえての立地作戦といえるでしょう。

強みの源泉力2 - お客ひっきりなし状態を生み出す人材育成とは

 「なるほど、客寄せ手法は分かった。QBハウスの顧客獲得作戦は面白い」で終わらないのが、理美容業界です。理美容業界は、他業界に比べて「お客が増えれば増えるほど、働き手が必要」な業界です。例えば、航空企業と比較してみましょう。航空企業は飛行機に乗るお客が1人増えたところで提供するサービスは変わりません。一方、理美容業界はお客が1人増えることで、最初から最後まで理美容師がいなければサービスを提供できないのです。

 業界内では、「客を獲得するよりも従業員を確保するほうがずっと難しい業界」というのが通説となっています。

 確かにQBハウスは従業員向けCMも打っていましたが、認知だけでカンタンに人は雇えるものではありません。人を確保する上で、どのような採用確保・雇用維持を行っているのでしょうか。

  • 6か月でプロのスタイリストに。(研修時間が豊富にあり、従来の美容室と違い研修時間も給料が出ます。通常、美容室は2年以上かけてアシスタントから昇進するので驚きの早さです)
  • カムバック採用(過去にQBハウスを離職した人が戻ってくると10万円支給)

 など採用施策がいくつかありました。確かに新卒や出戻りの美容師さんにはうれしい施策ですが、これだけでは美容室の人員難を逃れることはできません。

 そこで、実際に現場で働く人が働く上でポジティブに感じている点を、一次情報の宝庫である転職クチコミサイトから探してみました。その会社の組織体質や従業員の働き方が、いかようかを知ることができる転職クチコミサイトは、企業分析する上で必要不可欠です。

 すると、どうやら多くの従業員に喜ばれる側面は「月間8日休みで土日祝も休みが取れる」ことでした(旧会社の評判より)。

 「土日祝休みなんて当たり前じゃないか」と思う人がいるかもしれませんが、理美容師にとって土日祝はお客のかき入れ時。さらに、アシスタントであれば営業時間終了後にカット研修が入り、残業は伸びに伸びます。

 そのような背景があり、同社の休日制度はクチコミレビュー曰く「美容室業界では革命的」といいます。その業界での働きにくい「負」の部分を解消して雇う、良い事例です。美容室以外の人がバリュードライバーとなる業界(例えば介護・福祉、保育)でも転用できるのではないでしょうか。

QBハウスの今後 - これからもQBハウスは勝ち残り続ける企業となるか

 1000円カットで名をはせていたQBハウスでしたが、実は2019年2月に値上げし現在は1200円カットとなっています。とはいえ200円値上げしても、業界内では屈指の安さでありほかの理美容室にはお客は流れていない模様です。なぜそれが分かるかというと、値上げ以降コロナ前まで既存店売上高が100%を超えているためです。

(2020年6月期3Qの決算資料より)

 各月売上高の前年同期比較を見ると、2月以降はコロナの影響で下がっていますが、200円値上げしても客足はほぼ離れていないことが確認できます。値上げ後の19年7月〜20年1月の既存店売上高は100%を超えているのです。やはり200円値上げしても、業界内では屈指の安さであり、他理美容室に流れ込んではいないようです。

 ここで注意なのは、売上高ではなく「既存店」売上高です。売上高のみに着目してしまうと新規出店分も計上されるため、本来のその企業の「お客を離さない力」が不透明になります。既存店売上高であれば、昨対比でお客を離さない力が分かります。

 さて、値上げしたものの目下はコロナ禍による外出自粛、カットサイクルの長期化により売り上げ減少が続いています。しかし、ただ指を加えて待つのは同社らしからず。多くの対策を打っています。

例えば、

  • 早特キャンペーン(早期予約で割引。カットサイクル短縮化を目指して客数向上を目指す)
  • ダイナミックプライシング(混雑時は需要に合わせて値上げをし、単価向上を目指す)

 さらに、お客からのマネタイズに限らず、企業側からも広告モニター設置による売り上げ向上も目指しています。果敢に外部環境に柔軟に対応する同社は、コロナ禍でもコロナ後でもお客を離さずにい続けるのではないでしょうか。

筆者プロフィール:奥村美里

3万人のTwitterフォロワーに向けて「知っていたら話したくなる企業分析」を毎日発信中!意外な儲け方で一線を築く小売企業やTech企業、IPO企業が大好きです!

Twitter @OkumuraMisato


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