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Friday, May 14, 2021

コロナで変わる世界:「有名な人が正義」か コロナ禍で見えたオンラインの可能性と課題 - 毎日新聞

写真はイメージ=ゲッティ 拡大
写真はイメージ=ゲッティ

 新型コロナウイルスの猛威が収まらない中、私たちの生活はどう変わるのか。その行方を探ってきた連載「コロナで変わる世界」最終回では、各界で時代の激変と向き合ってきた識者のインタビューを通じ、ポストコロナの社会のあり方を考える。

パートナーを求めるマインド強まる

川名好裕・立正大教授

 健康で仕事もあれば「独身のまま過ごすのが快適だ」と考える人も少なくない。一方で人間は、孤独や経済的不安を感じるとパートナーを探して一緒に生活しようと考える。東日本大震災後も同様の傾向があったと聞くが、コロナ禍でもパートナーを求めるマインドが強まっているのではないか。

川名好裕・立正大教授=本人提供
川名好裕・立正大教授=本人提供

 そもそも男女間の交流は▽コミュニケーション▽デートや旅行などの「共行動」▽身体接触――の三つに分類される。ところが現状では共行動、身体接触が難しい。従ってコミュニケーション、しかもオンラインでの交流が中心となる。おのずと本音や日々考えることについてやりとりする機会が増え、互いの理解を深めることにつながる。

 同じ空間を共有して向き合う通常のお見合いでは、どうしても相手の外見などに注意が向きがちだ。ところがオンラインの場合は会話の内容自体に集中しやすい。結婚のように長期的な男女関係においては、一般的に外見的魅力や社会的地位よりも優しさや誠実さといった魅力の方が重要になる。オンラインであれば、余計な情報に惑わされにくい環境で相手を評価できるのではないか。

 婚姻件数を増やすには出会いをセットするだけでは不十分だ。結婚後の家庭生活の方が独身より快適だ、と実感できる社会的な政策が求められている。特に核家族化が進み、共働きの家庭が当たり前になってきた。保育施設の充実、男女とも取得しやすい育児休業制度の整備など、結婚後の共働き生活を可能にするための一層のバックアップが重要だ。【聞き手・和田武士】

 川名好裕(かわな・よしひろ) 立正大教授(恋愛心理学)。著書に「恋愛の俗説は8割ホント。」など。

リアルとバーチャルの融合を

繁田光平・KDDIパーソナル事業本部サービス統括本部副統括本部長

 スポーツ観戦の観客制限が続く中、昨年はプロ野球のDeNA球団と連携し、仮想空間上の横浜スタジアムにファンがアバター(分身のキャラクター)で入って観戦できる「バーチャルハマスタ」のトライアルを始めた。ファンは自分でアバターを操作してスタジアムに入り、グラウンドを歩き回れる仕組みだ。

新たなバーチャル観戦のシステム作りに取り組んでいるKDDIの繁田光平氏=KDDI提供 拡大
新たなバーチャル観戦のシステム作りに取り組んでいるKDDIの繁田光平氏=KDDI提供

 予期しなかったこともあった。ファンにとって、仮想空間であってもグラウンドに立つことは特別な体験で、ベースランニングを始める人や打席に立つ人がたくさん現れた。アバターにスライディングや球を投げるといった機能を付けた方がよかったかもしれない。2回のトライアルで延べ3万人以上が利用した。

 今後、リアルとバーチャルの融合を図りたい。実際の球場での演出をバーチャルで見られるようにするだけでなく、アバターの様子を球場のモニターに映すことなど多くのことが考えられる。

 収益化の面では、ブルペンや監督室など特別な場所の入室には制限を設け、お金を払った人やファンクラブ会員しか入れないようにする方法がある。会員の価値を高めることは収益の安定につながる。また、脱出ゲームのようなイベントで参加料を設ければ、収益につながる可能性もある。大型モニター設置などハードの整備には多額の投資が必要だが、ソフトウエアの投資は比較的金額を抑えられる。球団の成功例をサッカー・Jリーグなど他の団体に広げることで、スポーツ界全体を盛り上げられると思っている。【聞き手・小林悠太】

 繁田光平(しげた・こうへい) KDDIパーソナル事業本部サービス統括本部副統括本部長。東京理科大時代には野球部に所属。

リモート礼賛の風潮は危険

福島智・東京大先端科学技術研究センター教授

 大学の授業や会議がほぼリモートになり、他者との関係が変化した。マスクも負担になっている。盲ろう者が持つのは味覚、嗅覚、触覚の三つ。街を歩いていても木々や風の香り、飲食店から漂ってくるにおいが感じられない。私は盲ろう者なのに、さらに感覚が制限されている状態だ。

福島智・東京大教授=東京都目黒区で2021年3月3日、遠藤大志撮影 拡大
福島智・東京大教授=東京都目黒区で2021年3月3日、遠藤大志撮影

 私の場合、メールなどの文字情報については点字出力用の機器を使い一人でやりとりできるが、ビデオ会議ではどうしても隣に指点字で言葉や状況を伝える通訳者が必要だ。このため、在宅勤務を奨励されても大学に来て作業する場合が多い。重度身体障害の人など障害の種別によっては距離の制約がないリモートはメリットがあると思う。だが盲ろう者の私はそもそも(指点字で)触れ合わないとコミュニケーションできず、不安が大きい。

 リアルと比べ、リモートは五感で感じ取ることが欠けている。以前、学生とオンラインでお茶を飲みながら話をしていて、傍らにせんべいがあったので、「食べるか」と言いそうになった。でも学生はここにいない。これがリモートの本質だと思った。情報は伝えられる。でもせんべいは渡せない。当たり前だが大きな違いだ。情報はやりとりできるが飢え死にしそうな人に食料は届けられない。オンラインは利便性を担保するが、うまく距離を保って使わないと社会がおかしくなっていくかもしれない。

 例えば災害時。一分一秒を争う場面で、オンライン情報だけを介して障害者が無事に行動できるか。文字や言葉での情報がうまく理解できない人の場合は、人がそばにいないと避難できない。リモート礼賛という風潮は危険だと思う。【聞き手・遠藤大志】

 福島智(ふくしま・さとし) 東京大先端科学技術研究センター教授(バリアフリー論)。盲ろう者で世界で初めて大学教授に。著書に「ぼくの命は言葉とともにある」など。

外出自粛で存在感高まったオンライン

富永京子・立命館大准教授

 外出自粛でオンラインの存在感は高まった。「ツイッターデモ」や、ハッシュタグ「#」をつけて意見を主張する「ハッシュタグ・アクティビズム」のようなチェーン(連鎖)方式でつなぐ運動は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を支援する意思表示のために冷水をかぶる「アイス・バケット・チャレンジ」でみられたように目新しいものではない。しかし繰り返し広く行われることで、抗議の手法としてフォーマット化され、多くの人が利用できるようになった。

富永京子・立命館大准教授=大阪市北区で2020年2月20日、山崎一輝撮影 拡大
富永京子・立命館大准教授=大阪市北区で2020年2月20日、山崎一輝撮影

 リアルのデモに比べ、参加者がどちらに匿名性を感じるかがポイントだ。ツイッターではフォロワーや知人を巻き込むことになる。オンラインだからこそ見られているという意識を強く感じる人もいる。路上デモなら現場に行って帰るだけで、移動と時間のコストはかかるが、匿名性は高い部分もある。

 SNS中心の運動は、タイミングが過度に重視されているのが気になる。リアルな行動では設営に時間を要し、コストもかかるので、その間に催しのコンセプトや告知のキャッチコピーなどが議論されていく。一方ですぐに行動できるオンラインでは、プロセスの吟味が深まらないまま実行できてしまう。また、フォロワーの多い人や有名人が発言すれば「この人が言っているからいい意見だろう」と受け止められ、一人一人が社会問題に対する考えを形成する主体性を奪う可能性がある。「有名な人が正義」「前に進めるのが正義」となり、反論や告発は時として運動に水を差すと言われてしまう。オンラインでは余計に影響力が可視化されるので、周りが批判しにくくなる。有名性や権力性を批判的に見る必要もあると思う。【聞き手・木許はるみ】

 富永京子(とみなが・きょうこ) 立命館大准教授(社会運動論)。著書に「社会運動と若者」など。

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