昨年11月の感謝祭の連休後、新型コロナウイルスによる感染者数が急増を続けている米ロサンゼルスで、1月2日、累積感染者数が80万人を超えた。80万人中40万人超の感染は昨年12月1日以降に確認されたものだ。わずか1ヶ月で感染者数が40万人超も激増したことになる。
死者数は連日200人を超える日々が続いており、累計死者数は1万人を超えた。ロサンゼルスは、すっかり、アメリカの新型コロナウイルス感染の震源地になってしまった。
救急搬送されてもICUに入るまで8時間
集中治療室(ICU)の収容能力が0%に落ちている南カリフォルニア地域では、感染者は救急車で搬送されたとしても、集中治療室に入れられるまで8時間もかかったり、血中酸素濃度が低下している感染者が酸素の供給を受けることができるまで9時間もかかったりすることもあるという。
また、病院の遺体安置室や葬式場も感染者の遺体を収容しきれなくなり、州兵は遺体を一時的に検死局に安置するよう命じられているという。
昨年11月27日に、外出禁止令が出されたにもかかわらず、ロサンゼルスで今も感染者が増え続けているのは、クリスマス頃に感染したと思われる人々が多数いるからだと推測されている。アメリカの空港の多くは、感謝祭の連休時同様、クリスマス休暇のために移動する人々で混み合っていたのだ。そのため、専門家は、今後も感染者数が増え続け、その後遅れて死者数も増加し、2月半ばまでには死者数がピークに達すると予測している。
2,000人超集結のパーティーが8件も
ロサンゼルスで感染拡大が収束を見せない理由は他にもある。外出禁止令が出されても、それに逆らって大人数で集まる輩がいまだにいるからだ。
SNSなどでパーティーの開催状況を監視していたロサンゼルス市警は、大晦日の夜、2,000人以上が集まったパーティーを少なくとも8件、ロサンゼルス郡保安局は900人以上が集まったパーティーを少なくとも5件摘発し、集まりを解散させた。
中でも、批判が集まったのは、ロサンゼルス郊外のバレンシア市の教会駐車場で行われたパーティー。クリスチャンのシンガーであるショーン・フォイット氏が主催したもので、野外コンサートも行われた。2,500人以上の人々が集まったが、その多くがマスクを身につけず、ソーシャルディスタンスも取っていなかったという。
また、80年代に人気のあった「フルハウス」というコメディドラマに出演し、福音派のクリスチャンでもある俳優カーク・キャメロン氏が主催したイベントもロサンゼルス郡の北に位置するベンチュラ郡ポイント・マグー・ビーチで行われ、マスクを身につけていない多くの参加者の姿が見られた。
キャメロン氏はイベントに先立ち、インスタグラムで、「国のために歌い、祈る」と述べたのだが、感染拡大の真っ只中でのイベントに対し批判の声があがった。同氏はそれに対し、「人々を危険な目に合わせようとしているのではない。星の下、屋外で行い、人々に希望を与えるのだ」と弁明した。
ちなみに、キャメロン氏は“反マスク”を提唱しており、外出禁止令に逆らい、クリスマスキャロルを歌うイベントをすでに2件開催していた。
個人の権利や宗教の自由を振りかざして、外出禁止令に逆らい、大勢で集まる人々。
休暇のために移動したり、集まったりする人々がいる限り、ロサンゼルスの感染拡大は収まることはないだろう。
対岸の火事ではない
このロサンゼルスの惨状を、日本の人々は対岸の火事と受け止めてはならない。
日本の人々はマスクによる感染予防は欧米の人々と比べるとはるかに徹底しているものの、移動や集まるという行動については、ロサンゼルス同様、徹底していないところがあると思う。東京の人出や福袋の大行列を見ると、外出自粛が呼びかけられているにもかかわらず、密な状況が散見された。もちろん、その一方で、外出自粛や帰省自粛している人々も多いことだろう。
危機意識の個人差
そんな状況を見て思うのだが、問題は、個人によって感染に対する危機意識に大なり小なり差があるということではないか。みんな感染予防をしっかりしているだろうという不確かな推測の下、外出しても大丈夫と考える危機意識の低い人もいれば、人がきちんと感染予防しているかどうかなんてわからないから外出は危険という危機意識が高い人もいる。
飛行機に搭乗したあるアメリカ人が、メディアのインタビューでこう答えていた。
「私自身は感染予防をしっかりしていると思います。問題は、隣の席の乗客が私同様にきちんと感染予防しているかどうかわからないということなんです。だから飛行機に乗るのは不安です」
このアメリカ人の気持ちはよくわかる気がした。
筆者も、機内で、すぐ後ろの席の乗客が機内食を食べ終えた後、マスクをはずしっぱなしにしていることに不安感を覚えたことがある。心の中で叫んだ。早くマスクつけてよ!
日本で急行電車に乗った時も、同じ列で、数席離れたところに座っている乗客がマスクを身につけていなかったにもかかわらず、切符を確認に来た車掌がその乗客にマスク着用を促さなかったことに疑問を覚えた。心の中で叫んだ。車掌さん、なぜ注意しないの?
緊急事態宣言の効果は?
感染予防意識は個人個人で異なる。同様に、感染に対する危機意識も個人個人で異なる。
感染拡大を抑え込むには、結局、この個人の意識の差を少しでも埋める必要があるのではないか。そのために必要な対策は何か?
小池都知事らが政府に緊急事態宣言の発出を要望した際、疑問の声もあがった。今さら発令しても効果がない、人はもう順守しないという声がある。確かに、外出禁止令が出されているロサンゼルスで大晦日に年越し大パーティーが多発したように、規制を順守しない人々はどこの国にも多かれ少なかれいる。
しかし、伝染病エキスパートであるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のロバート・キムファーレー博士は米紙ロサンゼルス・タイムズでこう話している。
「外出禁止令を発令しなかったら、状況ははるかにひどいものなっているだろう。しかし、外出禁止令が出ていても、多くの人々がそれを無視している。強く取り締まらなければ、パーティーは起こり続けるだろう」
発令による行動抑制効果はあるものの、無視する人々は必ずいるため、取り締まりも必要だというのだ。
確かに、コロナ慣れしてしまった人々が緊急事態宣言をどれだけ順守するかはわからない。しかし、順守する人々は現れるだろう。しかも、日本人の国民性を考えると、その数は少なくないのではないか。
筆者は昨年、世界的ベストセラーとなった『銃・病原菌・鉄』でピューリッツァー賞を受賞したカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授のジャレッド・ダイアモンド氏にインタビューしたが、その時、同氏は「ドイツや日本には、アメリカやオーストラリアと比べると、個人よりもコミュニティーを重視する国民性がある。お上の命令を順守する傾向が強い」とお話しされていた。
日本人の国民性を考えれば、緊急事態宣言は危機意識の個人差という問題を解消する効果はあるはずである。
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確かに
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