大画面☆マニアで、パナソニックの有機ELテレビを取り上げるのは久々だ。
もともとパナソニックはプラズマテレビに最後までこだわり抜いたメーカーであり、自発光パネルを使ったテレビ開発に関しては、他の国内メーカーよりも数段上の知見がある。そんなパナソニックの最新有機ELテレビの実力はいかほどのものなのか。チェックしてみることにした。
なお、今回取り上げたモデルは、55型の4K有機ELビエラ「TH-55HZ2000」だ。実勢価格は約30万円になる。
製品概要チェック~重さはヘビー級! サウンドは超上級!
薄型軽量のイメージが強い「有機ELテレビ」。
確かに映像パネルそのものは薄型軽量だが、実際にテレビ製品となると堅牢な作りとする必要があるため、かなりガッチリとした作りとなる。TH-55HZ2000も最外周部分は実測で6mm程度の厚みだが、それ以外の部分は、本機よりも薄い液晶テレビもあるだろう。重量も同じで、4K有機ELテレビ製品は意外と重い。
たとえば、TH-55HZ2000のディスプレイ部寸法は、122.5×76.1cm(幅×高さ)で、最薄部は0.63cm、最厚部は7.8cm。重量は、ディスプレイ部だけで約26.5kg、スタンド込みだと約34kgに及ぶ。同じ2020年モデルである4K液晶ビエラ「TH-55HX950」の画面寸法は123.1×71.6cm(幅×高さ)で、最厚部は7.2cm。重量は、ディスプレイ部だけで約23.5kg、スタンド込みで28.5kgだ。
有機ELテレビが厚く重くなっているのは、画面が歪まないようにするために堅牢なフレームと組み合わされていること、そして発熱と消費電力の大きさから放熱機構が大規模になりやすいところが起因している。有機ELには、液晶テレビの後に出てきたデバイスだけに、なんとなくエコなイメージがあるが、実はそうでもなかったりする。
大画面☆マニアでは、筆者はほぼ毎回一人で設置をするのだが、さすがにディスプレイ部だけで20kg代後半となると移動が困難なため、今回ばかりは2階の評価ルームまで担当編集と輸送することになった。重くなる一方の有機ELテレビだが、そろそろ軽量化の方向に舵を切ってもらえるといいのだが……。
スタンドは、ディスプレイ部の中央部と合体させる方式で、スタンド側の接地面は平板デザインとなっている。スタンドを設置場所に先において、ガシリとはめ込んでしまえば、ひとまずは重いディスプレイ部を手から離すことができる。あとはこの接合状態でネジ留めを行なえば完了。画面表示部をソファの座面などの柔らかい平面にうつぶせにおいて設置台と接合しなくていいのが救いか。
本機のスタンドは、どっしりと安定感のある平板タイプだ。
近年は「鳥足」のようなスタンドを画面の下辺両端に取り付けるタイプも流行しているが、この平板タイプは画面サイズよりも小さな設置台にも置けるのがありがたい。
設置台の接地寸法は実測で49.2×35.0cm(幅×奥行き)。画面が左右にはみ出していいのならば、このサイズの場所に置けるのだ。ちなみに、このスタンドは左右±15度のスイーベルに対応している。なお、チルト方向には稼動しない。
接地面からディスプレイ部下辺までの隙間は29mm。一般的なBlu-rayソフトのパッケージ2本分くらいの隙間になる。
額縁幅は実測で上約10mm、左右それぞれ約7mm、下約70mmとなっている。下はスピーカ部があるので大きい。低背のラックに接地する場合には画面が丁度いい高さに来そうだ。
表示面は(ハーフ)グレアといった感じで、部屋の情景は多少は写り込むがそれほどは強くはない。照明を暗めにすれば気にならないレベル。
本機は、スピーカーが凄い。
オブジェクトベースオーディオ技術のDolby Atmosを本機のみで再生出来るポテンシャルを有しており、なんと全15スピーカー・3.2.2chシステムを搭載する。内訳は、Dolby Atmosイネーブルドスピーカー2基(20W+20W)、ミッドレンジスピーカー6基+ツイーター3基(20W+20W+20W)、ウーファー4基(20W+20W)の総出力140W。標準的なサウンドバーを軽く凌駕する音響スペックを有している。
オブジェクトベースオーディオに対応したスピーカーシステムということは、設置場所の音響特性の取得が必要になるわけだが、本機には専用AVアンプに見劣りしない音響キャリブレーション機能が付いている。
キャリブレーションには約2分ほどの所要時間が掛かり、調整中はマイクユニット変わりになるリモコンを自分の耳の位置に掲げておく必要がある。AVアンプ製品だとそうしたマイクユニットなどを固定しておく簡易スタンドが付くが、本機には付かない。調整を行なう際には自前でリモコンを視聴位置に固定するための工夫が必要だ。
その音質だが、結論から言ってしまうと、これまでに聴いたテレビサウンドとしてはトップ5に入るクオリティだった。映画を見たときのサラウンド効果も素晴らしかったが(詳細は後述)、シンプルに音質がいい。
音楽番組の視聴に耐えうるのはもちろんのこと、評価期間中はPCを繋いで、本機をジュークボックス的に音楽再生機として活用させてもらったほどだ。「大がかりなサラウンドシステムを組む予定がなく、最新のサラウンド技術には関心がある」というユーザー層には、まず本機のサウンドシステムの体験から始めるとよいと思う。
USB対応と音声操作はさらなる改善を希望!
定格消費電力は424W、年間消費電力量は205kWh/年。同画面サイズの4K液晶ビエラ「TH-55HX950」の場合は219W、131kWh/年なので、倍近い電力消費となる。まぁこれは、LGディスプレイのRGBWサブピクセル型有機ELパネルを採用した製品は、どれも同じ傾向なので仕方がない。
接続端子パネルは、画面向かって左側の側面と裏面にある。
HDMI端子は4系統。側面側がHDMI1~2、裏面側がHDMI3~4となる。なお、HDMI2のみがARC/eARC対応だ。
最近のテレビ製品にしては珍しく赤白黄のアナログビデオ入力端子を搭載している。SビデオやD端子などはない。赤白のアナログ音声入力端子はHDMI1~4の任意のアナログ音声入力用としても利用できるようになっている。以前のモデルにあったようなコンポーネントビデオ入力端子変換アダプタには対応しない。
USB端子は3系統。側面側のUSB 3.0端子は録画USBハードディスク接続用。背面側の2系統のUSB 2.0端子はカメラ機器、USBメモリーなどとの接続が想定されている。USBメモリーにHEVCやH.264で圧縮された4K映像動画ファイルを入れて本機に挿してみたところ、難なく普通に再生出来てしまった。また、試しにUSBキーボードとUSBマウスを接続してみたところ、これまためでたく認識。
ただ、対応度は十分とはいいがたい。本機のホームメニューからYouTubeアプリを起動したところ、YouTubeアカウント入力の際のメールアドレスの入力に“@”マークがUSBキーボードからは入力できなかった。英語キーボードでも日本語キーボードでもダメ。また、マウスカーソルは出現して動かせるものの、表示されているYouTubeの動画リストから直接再生希望の動画をクリックすることもできない。
ちなみに、マウスの右クリックを押すとソフトウェアリモコンが出現し、そこのボタンを押すことはできた。逆にいうとそれ以外のことが出来ない。最近は、テレビでもキー入力を求められる機会は増えているし、アイコンを選択する局面も増えているので、対応するのであれば、しっかりとした対応を希望したい。
この他、光デジタル音声出力端子、ヘッドフォン端子、アンテナ端子などが搭載されている。なお、デフォルトではヘッドフォン端子利用時はスピーカーから音が出なくなるが、設定することでスピーカーとヘッドフォン端子の同時出力も行なえた。
電源投入を行なって地デジ放送の画面が表示されるまでの所要時間は、実測で約4.0秒。HDMI間の切換所要時間は約2.0秒。まずまずの早さといったところだ。
リモコンはビエラ伝統の左右非対称形状デザインのものを採用。上部に全体操作系、中央分放送チャンネル操作系、下段に録画操作系がレイアウトされる見慣れたものだが、左の付きだした部分に[AbemaTV]ボタン、放送種別切換に[4K]ボタンがあったり、と時代に合わせた改変がされている。
以前ビエラは、音声リモコンと通常リモコンが付属したこともあったが、現在は音声入力機能は通常リモコン側に統合され、[マイク]ボタンを押して離せばスマートスピーカー感覚で自然言語で操作ができる。「YouTubeで西川善司を検索」も普通に通じて、モードをYouTubeに切り換えて検索までを行なってくれる。テレビ本体にマイクはない。
ただし、そのリモコンでの音声操作も完成度は不充分。風呂上がりなどのタイミングで「BSテレ東を見る」「地デジのTBSを見る」と話しかけて見たが通らず。
代わりに候補として近いものがアイコンで画面に表示され、結局それをリモコンの十字キーでカーソルを動かして選択しなければならなかった。「だったら最初からリモコンで操作すれば良かった」という“音声操作あるある”なUX体験から解き放たれるのは果たしていつの日か。
ちなみにリモコンで「種別の違う放送へのチャンネル切換」は、まず「放送種別切換ボタン」を押してから「チャンネルボタン」を押すか、「番組表」を出してからでないと行なえず、こうした面倒なチャンネル切換が自然言語で一瞬でパッと切り換えられたら…と思う。
恐らく、多くの一般ユーザーはテレビ購入後、音声操作を絶対に試したがるはず。しかしそれが思い通りに動作しないことが数回あれば、二度と使う気にはならないだろう。誰もが使いそうな「当たり前な操作系」ほど「当たり前に動作できる」UX設計をお願いしたい。
以前のモデルで気になった操作レスポンスの“もっさり感”は、本機では全く感じられなくなっている。
Amazon Prime Videoアプリや、YouTubeアプリでの映像の再生制御もキビキビしていて、スマホやタブレット端末のそれと変わらない。こちらは素晴らしいUX体験が提供されていた。
前述したように本機は、スピーカーの音質もいい。評価期間中は、YouTube視聴を本機で積極的に行なっていた。ちょっと前まではテレビ製品でネットコンテンツを見るなんていう行為はまともにできやしなかったのだが、どうしてどうして。素晴らしい進化ぶりである。
多彩な映像設定を装備。マニアックな設定も
画質面での設定項目は、概ね従来通り。PCやゲーム機、あるいはBD再生機器などを接続してモニター的な活用を考えている人は「オプション機能」の設定をチェックしたい。
「1080pドットバイ4ドット」は、フルHD映像の1ピクセルを4K映像パネルで2×2の4ピクセルで描画するモードでゲーム映像などで活用したい機能。超解像処理やアップスケール処理がキャンセルされて“ドットドットした(!?)”表示となるので、レトロゲーム映像などとの相性がよい。
「1080pピュアダイレクト」「4Kピュアダイレクト」は入力信号をYUV444であると見なし、クロマアップサンプリングなどを行なわないモード。これはPCやゲーム映像では絶対活用したい機能だ。デフォルトの「オフ」設定では色境界が曖昧な描写になることがある。
本機は、HDMI関連の設定をモニター機並みに細かく行なえるのが面白い。ただ、HDMI関連の設定メニューが「映像調整」側と「機器設定」側に分断されていて、やや分かりにくいのが難点。
まずは「映像調整」側の方だが、「HDMI画質連動設定」「HDMI EOTF設定」「HDMI Coloimetry設定」「HDMI RGBレンジ設定」「HDMI YCbCrレンジ設定」をいじることができる。
解説が必要と思われるものをピックアップして解説しよう。
「HDMI EOTF設定」はHDR映像の階調モード選択で「PQ」や「HLG」といった設定が選べるが、HDR10+を利用したい場合は「オート」と設定しなければならない点に注意。
「HDMI Coloimetry設定」は一瞬なんのことか分からないが、一言で言うと「色空間モードの設定」で、「Rec.709」「Rec.2020」などを選ぶことができる。「Rec.601」も選べるのがマニアック。
「HDMI RGBレンジ設定」と「HDMI YCbCrレンジ設定」は、HDMI階調レベルの設定に相当するのだが、RGBと色差で個別に設定できるというのがこれまたマニアックである。
「機器設定」側の方では「HDMIオート設定」「HDMI HDR設定」「HDMI2.1設定」が設定できる。
「HDMIオート設定」はHDMI伝送速度を選ぶもので、10.2Gbps対応の「モード1」か18Gbps対応の「モード2」を選択できる。UHD BDプレーヤーやPlayStation 5、Xbox Series X/Sなどの4Kゲーム機は「モード2」を選択しなければ性能を活かせない。
「HDMI HDR設定」は、「HDR設定」「HDR10+機能」「Dolby Vision」の各設定が行なえる。
「HDR設定」はHDR映像制御用のメタデータを無視するのが「ノーマル」で、対応するのが「ダイナミック」となる。「オフ」はSDR映像として処理する。「HDR10+機能」は「オフ」設定でHDR10+の映像が来てもHDR10映像として対処する設定となる。
「Dolby Vision」設定は少しイメージしづらいかも知れない。Dolby Visionは、ドルビーが独自に作ったフォーマットなので、本機でそのまま受け取って本機側でデコードするのが「モード1」、送出元でHDMI規格に則ったフォーマットにデコードして伝送させるのが「モード2」となる。「モード1」設定の方が懐が広い設定なので「モード1」にしておけばいいが、映像表示がおかしいと感じたときは「モード2」を選ぼう。
「HDMI2.1設定」は、HDMI2.1と共に誕生した自動低遅延モード「ALLM」と高帯域音声伝送に対応した「eARC」の有効/無効化設定だ。残念だが本機は、120Hz(120fps)入力や可変リフレッシュレート(VRR)には対応しないので、あしからず。
なお、PlayStation 5と本機を接続してみたところ、ALLMとeARCの正常動作を確認した。新世代ゲーム機ユーザーは要チェックの設定メニューである。
質問を受けることが多い、有機ELテレビの「焼き付き」問題についても触れておこう。
本機の「映像調整」-「画面の設定」に、焼き付き対策関連の設定が列んでいる。「画面ウォブリング」は、各ピクセルの経年劣化を平均化する目的で、画面全体を1ピクセル単位で微妙に動かすもの。PCやゲームの映像表示での使用頻度が高い人はオンで常用したい。なお、デフォルトでもオンだ。
「ロゴ輝度制御」は、放送局のロゴ表示輝度を制限させるものではなく、本機で静止画像を表示したままにしておくと、しばらくして起動するスクリーンセーバーの「VIERA」ロゴの輝度を制御するためのもの。
なお「高」設定とすると、逆に「VIERA」ロゴが“暗くなる”点に留意したい。にしても、この項目は「スクリーンセーバー輝度設定」とした方が分かりやすいと思うのは筆者だけではあるまい。
「パネルメンテナンス」は、焼き付いてしまった画面の焼き付き解消を試みる処理を行なうもの。所要時間は10分から80分に及ぶため、寝る前などのタイミングが適切だろう。
有機ELも液晶と同じで、同一色ピクセルを長時間表示すると、各サブピクセルを駆動するTFT回路上の駆動電極の電荷バランスが崩れてしまう。これが焼き付きの初期症状だ。「パネルメンテナンス」はこれを補正するもの。発光の源となる有機材質の経年劣化による焼き付きは解消できない点には留意したい。
「パネルメンテナンスメッセージ」は、システム側でパネルメンテナンスが必要とされるタイミングでパネルメンテナンスを促すもの。詳細は後述するが、本機のディスプレイは特別仕様ゆえ、高輝度な発光特性はあるものの、それと引き替えに焼き付きしやすいはず。PCやゲームの映像表示での使用頻度が高い人はオンにしておいた方が無難だ。
ゲームモードの遅延はほぼ理論値。通常ゲームなら問題なし
表示遅延については、今年から導入した新兵器「4K Lag Tester」で計測した。
計測画面モードは、解像度4K/3,840×2,160ピクセルの60Hz。計測結果は、映像モード(画質モード)が「スタンダード」の場合で119.5ms。60fps換算で約7.2フレームの遅延。「ゲームモード」を有効化すると、これが18.6msとなり、60fps換算で約1.1フレームの遅延となった。
この連載で何度も紹介しているが、LGディスプレイの有機ELパネルは、表示プロセスの最終段階で焼き付き防止機構が入る関係で、1フレームの遅延が免れない。その意味ではゲームモードの表示遅延が、理論値16.66msに極めて近い値になっているのは立派。
1フレームの遅延も許されないeSport系タイトルならともかく、1フレーム遅延は一般的なゲームであれば十分にプレイできる。
画質チェック~独自カスタムパネルの底力が本当に凄い!
本連載をチェックしてくれている読者の方々には今さら改めて言うまでもないが、本機にはLGディスプレイ製の4K有機ELパネルが使われている。
パナソニックでは、有機ELパネルのコア部はそのまま使いながらも、パネルの駆動回路や冷却構造を独自設計とし、さらに自社工場で組み立てることで、パネルの表示性能を限界付近、あるいは一部限界以上にまで引き出すレベルにまで高めている。
これが独自の「Dynamicハイコントラスト有機ELディスプレイ」だ。
パナソニックは、公式サイトで「パナソニックの有機ELテレビはプラズマディスプレイ技術の応用で開発されている」とアピールしているが、まさに前述した独自の工夫も含まれているのだろう。
その効果は、分かる人にしか分からない「画質」の部分だけでなく、だれにも分かりやすい「輝度性能」に現れているのがいい。公称値は発表されていないものの、普段の映像表示における平均輝度が、他社の有機ELテレビに対してかなり高いことが一目で分かる。
もちろん、画面を全白にした場合は、消費電力がらみの問題でやや暗くなってしまう傾向は他と変わらないが、それでも本機の輝度性能は他社を上回る。明るさを常に実感できるわけで、これは満足度の高さにも結びつくことだろう。
いつものように定点評価的に使っている「マリアンヌ」「ラ・ラ・ランド」「GELATIN SEA」の4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)を視聴した。使用した画調モードは「シネマプロ」だ。
「マリアンヌ」では、チャプター2冒頭で描かれる夜の街から社交場屋内へのシーン、アパート屋上で夜の偽装ロマンスシーンなどを視聴。
夜の街のシーンは、街灯やネオン看板の自発光物の輝きが、それらの光で照らされる街並みや行き交う人々、車とはレベルの違う明るさで輝いており、空間再現度が高い。逆に夜空や光が当たっていない場所は漆黒となっており、この漆黒が文句なしに完全再現できているのは自発光の有機ELならでは描写力といったところだ。
表示される映画本編の映像は、アスペクト比21:9相当のシネスコサイズ。アスペクト比16:9の本機で表示させると、上下に黒帯が出現することになる。液晶モデルではこの黒帯がうっすらと明るい帯として見えるが、本機は、この黒帯領域が完全漆黒であるため映像視聴中にその存在に意識がいかない。ここも液晶に対する大きなアドバンテージと思う。
シャンデリアを見上げるシーンも圧巻。シャンデリアを構成する一つ一つのクリスタルが高輝度で輝く中で、その面形状が分かるくらいの階調描写ができている。明るく輝くだけのHDR表現ではなく、高輝度なオブジェクトのきめ細かな材質表現や陰影表現ができているのだ。この卓越した高階調表現はやはり、前述した独自ディスプレイの恩恵によるところが大きいのだろう。
さて、有機ELテレビは、黒表現が素晴らしいことはいまや周知の事実。
自発光だからこそ黒の描写力が高いわけだが、しかし一方で自発光画素は、ある一定レベルの電荷をかけないと光り始めない特性があるため“暗く光らせる”のが難しい。かつてのプラズマ方式もそうだったように、有機ELも暗部の階調はノイジーになったり大ざっぱになってしまったりするモデルが多いのだ。
ところが、本機では、液晶並みのアナログチックな暗部階調表現が実現出来ている。「マリアンヌ」では、暗闇の中での偽装ロマンスシーンも強烈な暗部情報量で描写する。
人間は暗い場所であっても、少しでも明かりがあって、その暗さに目が慣れればモノが見えてくる。この暗順応は誰にも経験があると思うが、まさに「暗順応した視界」のような情景が描き出されるのだ。
決して輝度をブーストして階調を持ち上げているわけでもなく、ちゃんと「暗い部分は暗いまま」なのに、暗がりの中のモルタルの壁や手すりの微細な凹凸感、色彩、屋上の床のタイルを繋ぐ漆喰の目地なども見える。
このシーンは、いつも主役のブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの暗がりの中の肌色の再現度などをチェックするが、本機にとってそんな再現性は朝飯前レベルといった感じだった。
他の有機ELや液晶モデルでは「この暗がりの下で、肌色の色味がどのくらい再現されているか?」が勝負所になるのに対し、本機は、いとも簡単に照明下に肉迫した暖かみのある肌色が再現出来てしまっている。格が違う。この暗部の階調再現性、暗部のカラーボリュームの作り込みは、数ある有機ELテレビの中でもトップレベルと思う。
「ラ・ラ・ランド」では、いつものように夕闇の下で主役二人が歌い踊るシーン(チャプター5)を視聴。この作品でも独自ディスプレイの底力を思い知る。
街灯の煌めきの鋭さは未だかつてないレベル。並んで歩く主役のエマ・ストーンとライアン・ゴズリングが遠方の街灯を遮って、二人の歩みが進んで街灯が再び視聴者に顔を出したときの目に飛び込んでくる時間方向の強烈な明滅は現実の情景を見ているみたいだ。
街灯に照らされている背景の樹木や茂み葉々、そして路上や植え込みの砂利のハイライトは、その材質ごとのスペキュラ(鏡面反射要素)が再現されている。暗がりに淡い光で照らされた材質がただ「見える」だけではなく、その材質それぞれが持つ、特有の陰影の違いすらも伝えてくることに驚愕した。
夕闇の中のダンスシーン。通常の有機ELテレビでは、二人の肌色の、血の気の暖かみが感じられるか否かをチェックするが、前述の「マリアンヌ」同様、本機はもはや余裕のレベル。
夕闇に照らされるエマ・ストーンの黄色いドレス、赤いカバン、青いヒールなどの暗めの原色表現。これらは、青色光源から作る白色光をカラーフィルターで搾り取るLG式有機ELでは不得意なはずなのに、これまた鮮烈。暗がりの原色表現を鮮烈と感じたのは、LG式有機ELパネルでは筆者にとって初めて。RGB3原色のダイナミックレンジをここまで高くとれているのは、やはり基本光量が大きくなっている独自ディスプレイだからこそなのだろう。
明るめの映像の定点観測では「GELATIN SEA」を利用。いつものようにチャプター「Ferry」「Shadow」「Nightfall」をチェックした。
「Ferry」「Shadow」では、浅瀬付近のシアンからエメラルドグリーンへのグラデーションの海の色をチェックしているが問題なし。1ピクセル単位で煌めくさざ波の照り返しや、白く輝く砂浜の輝度パワーも上々だ。
「Nightfall」では、夕焼け雲のシーンにおける黄色やオレンジの階調の滑らかさも良好。沈み行く太陽の実体が作り出す稜線と、そこから上空に広がる赤い雲のコントラスト感もいい。赤系の純色も、LG色有機ELタイプにしてはパワーがある。
本機の高画質に魅せられた筆者は、買いたてで未視聴のUHD BD「ソニック・ザ・ムービー」を全編視聴してしまった。
本作の主役のソニック・ザ・ヘッジフォッグには、電撃技を繰り出すスキルがあり、この電撃表現が本機の独自ディスプレイと相性抜群。3D映画並みの立体感溢れる閃光エフェクトを楽しめた。
それと、前述したDolby Atmosの再現度も素晴らしかった。さすがにリアの音像定位はそれなりだが、上下左右に広がるワイド感溢れる音響表現は、とてもテレビ内蔵スピーカーのサウンドとは思えないほどだ。
総括~ビエラの完成度に衝撃。テレビ買換え時の候補筆頭だ
「液晶よりも暗い」という負い目がつきまといがちな有機ELだが、日常的な視聴において、その負い目が本機からはほとんど感じられない。全画面が明るくなる映像では、相対的に輝度が落ちる有機ELパネルの特性はあるが、普段の視聴ではそうしたシーンに遭遇することは希なので、相応に明るさで液晶方式に対抗できていると思う。
'20年発売の有機ELモデルで比較すれば、独自のカスタムパネル「Dynamicハイコントラスト有機ELディスプレイ」採用機は他社よりも価格が高い。シンプルに「手が掛かっている分、お高い」と言うことなのだろう。しかし“お高い”にもかかわらず、他社製の同型サイズに優るとも劣らぬ勢いで売れているという。
もともと有機ELテレビは、ややハイエンド指向の製品なので、購入を検討するユーザー予備軍も、多少値は張ってもクオリティを重視する傾向が強いのだろう。
大画面☆マニアでは、久々に有機ELビエラを取り上げることになったワケだが、このことが逆に、筆者に大きな衝撃を与えるきっかけになった。
薄型テレビを買替えるにあたり、有機ELテレビを候補に掲げる際は、「Dynamicハイコントラスト有機ELディスプレイ」採用ビエラをチェックリストに掲げないわけにはいかないだろう。筆者も恐らくそうすると思う。
惜しむらくは、原稿執筆時点の11月下旬時点で、他社ではラインナップされている48型の4K有機ELモデルがビエラにはないことだ。
前回(第258回)は「次世代ゲーム機との組み合わせを前提としたテレビ買い換えガイド」を寄稿したが、昨今の次世代ゲーム機ブームでテレビ買い替え需要も高まっているので、2020年は、このあたりの事情を意識した50型未満のラインナップ拡充にも期待したいところである。
からの記事と詳細 ( 有機ELの常識を覆す明るさ! 最上位4Kビエラ「HZ2000」の画音に惚れた - AV Watch )
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確かに
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