スズキハスラーの対抗馬として、2020年6月に登場する予定となっているダイハツ「タフト」は通常サイズのサンルーフに加え、リアシート頭上までガラスとなる大型ガラスルーフも設定されることがちょっとした話題になっている。
確かに軽自動車のサンルーフ、大型ガラスルーフというとクルマに詳しいと思っている筆者でも、一時期軽1BOXワゴンで目立ったくらいしか記憶になく、強いインパクトがあるのもよくわかる。
大型ガラスルーフは、ここ15年ほどで主にミニバンやSUVで珍しいものではなくなっている。しかし「大型ガラスルーフが販売の大きな後押しになった」ということもなく、当記事では大型ガラスルーフの功罪を考察し、「大型ガラスルーフがあったけど、販売面で成功しなかったクルマ」を振り返ってみる。
文/永田恵一
写真/DAIHATSU、TOYOTA、NISSAN、SUBARU
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■そもそも大型ガラスルーフってどんなもの?
タフトの写真のとおり、ルーフに巨大なガラスが着き、車内側にはシェードがあり光を遮ることもできるというもの。
ガラスが巨大なだけに後述する功罪に加え、あまり見ない前後分割タイプでない限りは大型ガラスルーフのガラス部分が可動、開閉することはほとんどない。
そのため大型ガラスルーフは通常のサンルーフを着ける目的となるチルトアップを含めた換気(昔は車内でタバコを吸う際に有効で、現在は喫煙者が減っていることもありこの目的で使うケースは減っているが、新型コロナウイルス防止のための換気にも使える)や、ルーフを開ける目的には使えない場合がほとんどとなる点を覚えておきたい。
■大型ガラスルーフの功罪
大型ガラスルーフはオプション料金を含め高価なのは当然であり、ボディ剛性や強度、横転の際などの安全性に関しては自動車メーカーを信じてスチールルーフと同等レベルを確保しているという前提で大型ガラスルーフの功罪を考えてみると
●功
[1]インテリカラーによるところもあるが、特に黒系のインテリカラーの場合にはシェードを開けると、車内が開放感ある雰囲気になるのは大きな魅力だ。
[2]シェードを開けると車内が明るくなるということは部屋のカーテンを開けたときのように、冬場でも天気がいいとヒーターなしでも過ごせるくらい快適なこともある。そのため[1]と[2]が揃うと家の縁側で日向ごっこをしているような気持ちよさが楽しめる。
[3]当然ながらシェードを開けるとガラス部分から星空や月、桜や紅葉が車内にいながら見えムーディななかで過ごせる。
[4]通常のサンルーフのサンルーフもそうだが、大型ガラスルーフもガラス部分は着色ガラスとなるため外から引き締って見える、高そうに見えるといったルックス上のメリット。通常のサンルーフではルックス面のために装着するという人も意外にいるくらいだ。
[5]大型ガラスルーフはおおよそ10万円から15万円と安くはないが、処分するときの査定額では非装着に対しメーカー系のエアロパーツなどのように相当の可能性で上乗せが期待できる装備だ。この点を考慮すると、欲しいなら装着を勧めたい代表的な装備といえる感もある。
●罪
[1]通常のサンルーフ以上に大型ガラスルーフはルーフというクルマの一番上が20kgから30kgの重量増となるだけに、コーナーで「頭の重さを感じる」、重量増に対するサスペンションなどの対応によっては乗り心地に不快な硬さを感じるようになることがある、大きなものではないにせよ動力性能と燃費の低下など、走行性能は悪化する方向にある。
しかし大型ガラスルーフと意味合いは違うのだが、先代プリウスのサンルーフ+ソーラーパネル付のように重量増に対するサスペンションの対応がうまく決まっているクルマだと、乗り心地が悪いことで有名なマイナーチェンジ前の先代プリウスの標準モデルでも乗り心地がクルマにこだわりのある人でも納得できるレベルになるということもあるので、クルマによる違いも大きい。
[2]大型ガラスルーフのガラス部分は動かないとしても、電動シェードという可動部分やガラス部分のシーリングなど、長期的な耐久性、信頼性でスチールルーフに対しプラスになることはないだろう。
[3]パドルシフトや走行モード切替のようにサンルーフや大型ガラスルーフも初めは珍しさもあり面白がって使うけど、自分のものにしてしばらくすると使わなくなる、存在自体を忘れているということも少なくない。
■大型ガラスルーフがあったけど、残念だったクルマ
●日産 ラフェスタ
2004年12月に登場した○○ホテルのような車名を持つラフェスタは、プレーリーリバティの後継車となる、5ナンバーサイズでスライドドアを持ち、全高はそれほど高くないという乗用車的なミニバンだった。
機能的には目立つところはなかったラフェスタにとって最大の特徴だったのが大型ガラスルーフの先駆けとなるパノラミックルーフだった。ラフェスタの初期モデルには全グレード標準装備だったパノラミックルーフ(全グレードにレスオプション車もあり)は長さ1500mm×幅800mmというものだった。
しかし、ラフェスタの初期モデルは全体的にゴーン体制初期の日産車で感じることが多かった詰めの甘さや出来の悪さが目立ち、直接的ではないにせよライバル車だったトヨタウィッシュやホンダストリームに対するアドバンテージはパノラミックルーフとスライドドア以外なかった。
詰めの甘さやできの悪さはモデルサイクル中盤あたりから改良されたのだが、悪い意味でクセを感じるスタイルまでは変えられず、最終的にはマツダプレマシーのOEMとなるラフェスタハイウェイスターを後継車に日産製ラフェスタは姿を消した。
●日産 キューブ(3代目モデル)
2008年登場の3代目キューブは2代目モデルのキープコンセプトながら、居心地のよさや癒しといった雰囲気的なものを武器に、面白みこそないもののコンセプト通りに仕上がったコンパクトハイトワゴンだった。
3代目キューブに設定されたスタイリッシュガラスルーフは大型ガラスルーフというにはコンパクトなものだったが、シェードは通常の硬質なものに加えガラスと通常のシェードに間にSHOJIシェードと命名された文字通り障子にように調光できる機能も備えていた点は面白かった。
しかし、3代目キューブは当サイトで筆者が何度か書いたように10年以上となったモデルサイクルのなかで、自動ブレーキに代表されるアップデートが足りなかったことが致命傷になり、ここ数年は販売が低迷。つい最近最後までスタイリッシュガラスルーフを設定しながら絶版となった。
●スバル エクシーガ
2008年登場のエクシーガは当時のSIシャーシと呼ばれるプラットホームを使った、スバルとしてはオペルザフィーラの兄弟車となるトラヴィック以来の3列シートを持つミニバンである。
ボディサイズやステーションワゴンに近いミニバンというキャラクターがホンダオデッセイの3代目と4代目モデルに近かったエクシーガは、後方のシートに行くにつれて着座位置が高くなるシアターレイアウトの採用も含め実用的に使える3列目シートを備えていた点、スバル車らしい安心感ある走り、スバル車としては珍しいFF車も設定したコストパフォーマンスの高さなど、隙のない商品だった。
また、大型ガラスルーフとなるパノラミックガラスルーフも、今になるとそれほど目立たない装備ながら設定していた。
エクシーガは、3代目キューブとは対照的にアイサイトや新世代のエンジンの搭載といった、3代目キューブと同様の長いモデルサイクルながら着実にアップデートを受けながら、スバル車らしくクルマを進化させていた。
しかし、皮肉なことにエクシーガが登場した時点でエクシーガや3代目と4代目のオデッセイのようなステーションワゴンに近いミニバン自体は実用的に使える3列目シートを持っていても下火となっており、エクシーガの販売は伸び悩んだ。
エクシーガは2015年に延命処置的にSUVの要素を盛り込んだクロスオーバーとなるクロスオーバー7に移行し、2017年に絶版となった。
スバルの3列目シート車としてはアメリカで販売される大型SUVのアセント(大型ガラスルーフの設定もあり)の、形は問わない日本導入に期待が掛かる。
「大型ガラスルーフを採用したけど残念だったクルマ」を振り返っていると、こういった原稿を書きながら「大型ガラスルーフはあれば望ましいけど、それがクルマ全体では決定的な要素ではない」というのが率直な印象だ。
それだけにタフトの大型ガラスルーフは話題にはなるにせよ「大型ガラスルーフがあるから売れる」とも考えにくく、大型ガラスルーフのことも頭に置きながらまずタフトのクルマ自体の仕上がりに注目したいところだ。
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May 23, 2020 at 09:00AM
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